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第11話 風水術と地形

 サラたちと出逢って、四日が経過していた。

 

 その四日間、僕は"妖精の旅団"の一員として皆との連携の確認・練度の向上や、風水術のレクチャーを受けていた。

 

 もっとも、その大半が"領域(テリトリー)"のコントロールだったけど……。

 

 

    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ごめん、少し待って……」


 第五階層へ直送された転移魔法陣から下りた僕は、口元を抑えながらそう言った。

 

 転移魔法陣を管理する王国の兵隊たちが、無様な僕を見て笑い声をあげる。


「また酔ったのかい?」


「個人差があるとはいえ、瞬間的に結構ゆれるからな」


 サラとエルフィが心配しながら駆け寄ってきてくれる。


 この転移魔法陣、地上から上層階まで一瞬に移動できるのはいいのだが、酔いだけは"獣"に所属していた時からどうにも慣れない……。


「ルクスン大丈夫か~? 気持ち悪いのか~?」


 ノーネが優しく背中をさすってくれる。


「酔いを防ぐ……魔法とかないかな……?」


「原因が振動となると──難しいですね。振動で酔った脳を治す方が早いです」


「振動は……防ぎにくい?」


「はい。物理防御、魔法防御ともに、振動の伝達を防ぐのには適してません。特に水分比率が多い人体は、より振動の伝導率が高いので……転移魔法陣に乗る前に、脳髄付近一帯を凍らせてみますか?」


「え……それって……し、死なない?」


「死にますね。真っ当な生物なら」


 平然とした顔で、アクシアがとんでもないことを言ってのけた。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 第五階層、通称"石の神殿"を回りながら、僕たちはパーティの練度を上げていた。


 ついこの間、番人が討伐された第六階層のすぐ下。第六階層(あそこ)は溶岩フロアでとても暑かったけど、ここは比較的過ごしやすい温度だった。


 第四階層以降、この世界樹の遺跡は各フロアが魔境と化している。

 

 明らかに広がった面積、室内とは思えない地形。フロア毎どこかに転送されているのか、それとも何かの魔法で空間まるごと改変されているのか──どういった原理なのかはまだ解明されていない。


「だいぶ"領域"の展開が制御できるようになってきたじゃないか」


「そう?」


 サラの言葉に少し自信がつく。

 

 今までは初級魔法すら満足に扱えなかった。それに比べて、技術が着実に身についていく実感があるのは嬉しい。


 エルフィの細剣から発せられた風の刃がゴブリンの群れを切り裂いた後、僕は"領域"をすぐに閉じた。


「敵側に"領域"を相乗りされるとこちら側も危険だからこのフロアを選んだけど、その心配もなさそうだな」


 細剣を鞘に納めながら、エルフィが言う。


 このフロアの敵に、精霊魔法や自然現象を操るモンスターはいない。


 そう、風水術が作る"領域"は魔法の強化(バフ)とは異なり、その場全体──つまり敵側にも影響してしまうらしいのだ。


 僕が真っ先に習得するべしといわれたのが、この"領域"のコントロールだった。


「あとは展開(オン)閉場(オフ)の切り替えスピード、そして効果範囲を制御する訓練ですね。これの練度が上がればさらに実践的に戦闘で使っていけます」


「早く風水術も使いたいんだけど……」


 第五階層で毎日、領域の展開・閉場の訓練をして三日目。はたから見ると後衛で何もせずパーティについて行っているようにしか見えず、早く攻撃要員としても貢献がしたかった。

 

 何より──あの感覚を早く味わいたかった。


「領域の制御も立派な風水術ですが──まぁいいでしょう」


 軽く嘆息した後、アクシアが了承してくれた。


「はじめは、風の風水術から習得していってもらいます」


「どうして? 初めて使ったときは火だったし、今までまともに使えなかったけど火の精霊魔法を中心に習得してきたから、そちらの方が覚えが早いと思うんだけど……」


 最もだと思う疑問を口に出す。

 

 それに火なら──あの(・・)摂理干渉(オーバーライド)なら、パーティの戦力に大きく貢献できると考えていた。


「理由は簡単です。風が最も地形の影響を受けないからです」


「影響を受けない?」


「火の精霊力に乏しい凍土では、火の風水術は使えません。逆に水の精霊力に乏しい砂漠では、水の風水術は使えません」


 うん。その説明なら最初に聞いた。


「ただし風は、そこに空気が存在するなら確実に使用できます」


 ああ、彼女が言おうとしていることが何となく分かってきた。

 

 四大元素の中で最も地形の効果を受けにくい属性が風なのだろう。


「むしろ風の風水術すら使えない状況に陥ったら、何をおいてもその場から素早く立ち去ってください」


「どういう事?」


「真空という状態──空気が無くなっているのさ。次の瞬間にでも呼吸ができなくなって、意識が飛ぶと思って行動したほうがいい」

 

 そこまで話を聞くに徹していたサラが間に入る。


「さぁ、それではやってみよう。初めて風水術を使ったときの感覚は覚えているかい?」


「うん。大丈夫」


 忘れるわけがない。

 

 あの感覚を、もう一度体験するのを心待ちにしてたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


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