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第1話 ギルドを追放された魔法の上達しない魔法士(前編)

   GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

 

 超大型のミノタウロスが、断末魔を上げて崩れ落ちる。

 

 その体は即座に風化していき、この魔獣が絶命したことを告げた。

 

「やったぜ! さすがはマスター!」


「世界樹の遺跡、最強の戦士だ!」


 とどめを刺したギルドマスターに対して、ギルドメンバーたちから惜しみない称賛が贈られる。

 

 全身鎧(フルプレート)に身を包んだマスターはそんな歓声には興味なさそうに、大剣にまとわりついていた魔獣の血のりを振り払った。

 

 塵となった魔獣から、戦果である魔石を回収する。

 

 そんな彼の後姿を僕――ルクスは、羨望のまなざしで眺めていた。

 

 このギルド、"獣の爪牙"の創立者、ガウル。

 

 一年前の創立期に、僕も設立メンバーとして参加できたことが誇らしい。

 

 世界樹の遺跡第六階層、"溶岩の渓谷"の奥地、番人の間にて、僕ら"獣の爪牙"はついに番人(ガーディアン)、牛頭の魔獣グランドミノスを討伐したんだ!

 

「おい、ルクス」


 そんな事を考えていると、唐突にガウルから名前を呼ばれた。

 

 手招きに応じて、彼のもとに歩み寄る。

 

 

 ドカッ!

 

 

 近づいた瞬間、いきなり頬を殴られた!

 

 十五歳としては小柄な僕の体は、簡単に後方へと吹き飛ぶ。

 

「……ガウル……何……を?」


 どうして殴られたのか理解できず、頬を抑えながらガウルに尋ねる。

 

「うるせぇ! もう我慢ならねぇ!」


 全身鎧のためその表情はよく見えないが、全面兜(フルフェイス)の隙間から指すその眼光は、僕に対する怒りに満ちているのが分かった。

 

「創立期のメンバーってことでここまで大目にみてきたが、もう限界だ。てめぇ、いつになったら魔法をまともに操れるようになる! 魔法が使えなくて、何が魔法士だ!」


「で、でもそれなら……」


「魔法が使えないなら迷宮測量士(マッパー)荷物持ち(バックパッカー)として貢献してきたとでも言うつもりか? それ、てめぇじゃないとダメな理由がどこにある!?」


 それを言われると、返す言葉が見つからない。サポーターなら、代わりはいくらでもいる。

 

 魔法士としてまともに魔法が使えず、知識ばかりが増えていく。それも、魔法士の比率が大きいこのギルドにおいては、大した貢献にはならない。

 

「めでたく第六階層の番人は我ら"獣の爪牙"が仕留めた。第七階層の十日間独占探索権を得られたったわけだ。で、その恩恵を、何の役にも立ってないお前も受け取るってのか? え? ル~ク~スゥゥゥ???」


「な、なら僕は自分に配分される報酬は少なく……いや、いらないから……!」


「今後も難易度が上がっていくであろう高層に、てめぇのような足をひっぱる奴は連れていけねぇっつてんだよ!」


 言い訳も提案も、取り付く島もなかった。


「マスター、ちょっといいか?」


 そんな僕とガウルの言い合いに、割って入る声があった。

 

 黒く長い髪の青年。いかにも魔法士風の装いをしているこのギルドのナンバー2、参謀のティーゼだ。

 

「ここにミノタウロスの群れが迫ってきているようだ。先ほど討伐した番人ほどではないだろうが、消耗したいまの状態での交戦は望ましくない」

 

 彼がガウルをいさめてくれることを期待したが、そんなことは無かった。

 

 おそらく勝利の直後でも油断することなく、索敵(サーチ)の魔法で周囲を警戒していたのだろう。その結果を淡々とガウルに告げる。

 

「撤収の準備をしろ! 第七階層の先行探索権が手に入ったんだ、ここで死ぬのはマヌケ以外の何モンでもねぇぞ!」


 ギルドメンバーに号令をかけるガウル。

 

「ああそうだ。ルクス、お前が殿(しんがり)をやれ」


「……え?」


 一瞬、ガウルが何を言ったのか理解できなかった。

 

 僕一人で、ギルドメンバーが撤退するための時間稼ぎをしろと言ったのか?

 

「じょ、冗談だろ? ガウル?」


「このギルドに在籍を続けたいなら、その価値を示せ。生きて帰ってこられたのなら、またギルドに入れてやるよ」


 タチの悪い冗談を期待した僕の言葉を、ガウルはあっさりと否定する。


「ルクスと一緒に殿をしたい奴は止めねぇ! 勝手に残りな! これから難易度はさらに上がっていくんだ、足手まといはいらねぇ!」


「止める奴なんかいないさマスター」


「初期メンバーってだけで大した戦力にもならない。雑用しているってだけで分け前が公平に分配されることに、いい加減うんざりしていたところだ」


 吼えるよう宣言したガウルに、反論しようとするメンバーはいない。

 

 誰もが清々したしたというように、さっさと撤退の準備を始めた。

 

 

   Gyaaaaaaaaaaaaa……

 


 そうこうしている内に遠くから、群れた魔獣の接近を告げる声が聞こえて来る。

 

「あばよルクス、生きていたらまた会おうぜ」


「ま、待って、ガウル!」


「ティーゼ、後列は任せる。後ろからルクスが付いてきたらかまわん、ミノタウロスの群れと一緒に焼き殺せ」


 すがりつく僕を振り返りもせず、ガウルは自分の参謀に無慈悲な指示を出すと、その場を後にした。


「私の魔力も、もう限界に近いのだがね……。まぁ、了解した」


 ティーゼなら躊躇(ためら)うことなく実行するだろう。

 

 僕と同じ創立期のメンバーだ。彼の性格は良く知っている。

 

 当然、ガウルの性格も……。

 

 僕と目を合わせず、そこに居ないモノとして扱うように、他のメンバーもガウルの後に続く。


「ではルクス。ご武運を」


 最後に、何の感情も感じられない声でそう言うと、ティーゼは一団の最後尾に向かって歩き出した。


 

 そして僕はただ独りで、共に戦ってきたと思っていたメンバーたちを見送った。

ご覧いただき、ありがとうございました。


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本日は8話まで掲載する予定です。

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