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終わらぬ物語シリーズ

銀河の旅と夢で見た光景

作者: Bi₂O₃

 転移の衝撃があった。身体が重い。次の転移まであと20分。

 目の前に紫色の草原が広がる。大気を調べる。酸素が十分にある。毒素は無さそうだ。ヘルメットを外す。息ができる。黄色い空にポツリと小さな青い星が輝いている。ここなら良さそうに思えた。だが、一つだけ問題があった。水がどこにもない。あるのは、紫色の酸性の海だけだった。

 辺りを見渡すと、小さな花を見つけた。その花は藍色の花弁を付け、胞子のようなものを撒き散らしている。花を手に取り、口に放り込む。ぐにゃぐにゃとした食感と酸味が口の中に広がる。食える。お世辞にもサラダにはならないが、久しぶりに食えるものに出会った。その辺の花を摘み取りバッグに突っ込む。

 転移まであと30秒。ヘルメットを被り、転移に備える。



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 この星の寿命が尽きようとしている。

 私たちはこの星を救うことはできない。

 助かる道は無い。


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 転移の衝撃。身体は軽い。次の転移まであと20分。

 嵐だ。溶けたガラスが風に吹かれて雨のように降り注いでいる。真っ暗な空はガラスの雲に覆われ、星の光が乱れている。大気を調べる。酸素はほぼ無い。あるのは窒素と少々のアンモニアだけ。

 足を踏み出すと、地面が崩れた。6メートルくらい下に落ちた。重力が弱いのは幸いだった。横穴を見つけた。穴は狭いが嵐をやり過ごすには充分だ。ここで生きていくのはどう考えても無理だ。次の転移を待つことにする。



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 その装置で君は20分毎にどこかの星へ飛ぶ。

 人が生きられる星を見つけてくれ。

 もう君だけが最後の希望なんだ。


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 転移の衝撃。身体は相変わらず軽い。次の転移まで20分。

 灰色の岩山が出迎える。その感触は岩というより砂に近い。大気を調べる。大気はほぼ無いに等しい。真っ暗な空に星々が輝いている。オレンジ色の大きな星が光を放つ。

 辺りを見渡す。旗を見つけた。もしやと思い、後ろを振り返る。懐かしい星が見えた。青い、美しい星だ。



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 そのカプセルには人工受精卵が入っている。

 生きられる星を見つけたら起動してくれ。

 チャンスは1回限りだろう。


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 青い星を見るうち、目から熱いものが流れる。もう誰もいないはずの空っぽの星は、懐かしい姿のままだった。

 次の転移まで、あと15秒。



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 夢で見たことがある。月に行く夢だ。

 小さい頃から何度も見た夢だった。

 月から見える地球は、美しかった。


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 転移の衝撃だ。身体は重い。次の転移まであと20分。

 真っ黒な地面の上に立つ。大気を調べる。酸素は無い。赤く暗い空には、真っ赤な星が一面に広がる。この星には、何も無い。次の転移を待つ。



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 あれから、もう10年は経った。

 だが、今でも同じ夢を見る。

 親友と語り合ったあの日の夢。

 将来を思い描いたあの夜の夢。

 父と見たあの星々の夢。

 その星の空は、青かった。


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 転移の衝撃。身体は軽い。次の転移まで、あと20分。

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