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TRRGプレイヤーズ~恋と、青春と、TRPGと、先輩と~  作者: 鏡読み
第六章 「賽の目ブルースプリング」

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第五十三話「最終回7 精霊史、始まりの日 最終決戦 急」

精霊鬼との最終決戦はいよいよ終わりを迎えようとしていた。

ミュールを取り込んだ精霊鬼は一同の猛攻に耐えきり、いま、まさに彼らへとどめを刺すところだった。


「えー、残念ですが、HPは1で残っています」

「うわーー。みんなごめんー」


フィニッシュを決められなかった責任に潰されたのか、須山さんが力なく机に突っ伏す。

全員の行動が終わってしまいこれ以上の手がないのだ。


こうなってしまうのも仕方がない。


俺も調整が甘かった。


もう少し余裕をもって倒せるようにしておけばよかったと後悔がよぎる。


「まだよ!」


重い空気を吹き飛ばすように加美川先輩から声が上がった。


「GM、ミュールを説得して精霊鬼を攻撃させるわ!」


そしてとんでもない提案が飛んできた。


「ふへ?」


あんまりにとんでもないので、一瞬何を言われたのか分からず、俺は口から変な言葉を漏らしてしまった。


(だが、確かにできる)


俺がさっき話したギミックから推察すれば、精霊鬼の腹の中で彼女は生きていると考えるほうが自然だろう。5ターンの吸収のうち一回しか吸収も受けていないし、攻撃手段も残されている。


可能か、否かと聞かれれば可能だろうと俺は判断した。


(ラスボスを説得する、か。俺が遊んだゲームのなかでは前代未聞の話だが、TRPGならそれもありなのかもしれない。それにーー)


やはりここは、プレイヤーに勝利してもらう方が、ゲームとしてまとまりがよいだろうし、楽しかったと言われて終わりたい。


「分かりました。ミュールの主張はいたってシンプルです。精霊術の兵器的使用を消滅させたい。そのために王都を破壊し、既存の精霊術の技術発展をリセットさせる。ゼロから精霊術を学問とし、生活の発展に使う」

「なるほど、ロケットの話みたいなものなのね」

「だいたいはそんな話です」


ロケットの開発は、すなわちミサイルの開発にも繋がってしまう。

これは歴史が証明している話だ。


おそらく先輩は、純粋にどこまで飛ばせるのかを突き詰めた結果、人殺しの道具になってしまったロケットの話と、ミュールの主張が同じようなことなのだと、言いたいのだろう。


加美川先輩は少し考えたあと、マティーニとして、最後の説得にでた。


「ミュールに言うわ。あなたがもし本当に精霊術の兵器転用を望まないのなら、今すぐに精霊鬼を破壊しなさい!」

「そう言われるとミュールは反応しますね。それはできない。このまま王都を破壊する」

「もうそいつはほとんどボロボロじゃない。そんな調子で王都を壊しに行ったって、返り討ちにあうだけよ。そして生き延びた人はこう思うでしょうね。精霊術の行き着く先はこのような強力な兵器なのだと。それはあなたの望むところなの?」

「少なくとも恐怖で押さえつけるのならば、それもありだとおもう」

「いいえ、30点ね。お粗末だわ。第一、一貫性がないわブレすぎよ」


「じゃあどうすればいい? あなたにならできると言うの?」

「私だけでは無理かもしれないわ。だからそういう世界を――」


加美川先輩は一呼吸置き、俺を見つめてきた。


お願いをする顔には見えない。

自信に満ちたいつもの表情だ。


「――私と一緒に、作りましょう。あなたも」


マティーニの言葉に、俺は文芸部で初めて加美川先輩の話を読んだ時を思い出し、息を飲む。


彼女の作る話に泣いてしまったあの日、涙を拭う俺に、加美川先輩は同じ言葉をかけてくれた。


――ああ、そっか。あの時からか。


「……ミュールは、マティーニの言葉を受けとりました。判定をお願いします」


俺の言葉に応じ、加美川先輩がダイスを放る。


その放物線を目で追いかけながら、俺は少ししい気持ちになった。


よくわからない初めての感情だった。ツイッターで流れていたクリア手前でゲームを進められなくなる人が味わう感情がこういうものなのだろうか。


胸が空く、悲しい、せつない。終わって欲しくない。


ダイスがテーブルを叩く。


これで先輩との夏も終わる。

楽しかったかと聞かれれば、きっと楽しかったと言えるだろう。


『きっと』なんて、あやふやな言葉が浮かぶのは、自分の気持ちを整理していないで見ないふりをしているから。


分かっているそんなことは。


いま俺はどんな顔をしているのだろうか。

泣きそうな顔にはなっていないだろうか。


先輩の放ったダイスが止まる。

俺はダイスの目を確認した。


結果は0、過剰成功クリティカルだ。


「分かりました。ミュールは説得されます。マティーニの言葉に動かされた彼女は内部から精霊鬼を攻撃します。ダイスは誰が振ります?」


一同は俺の言葉にきょとんとし、こちらの顔を見ている。

どうしていいのか、困惑していると加美川先輩から声が上がった。


「それはサク君が」

「……分かりました」


そうして俺は塞を投げた。

同時に何かがこぼれ落ち、シナリオシートが少し滲んだ。


こうして、最終話は誰一人倒れることなく、クリアされたのだった。

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