第五十二話「最終回6 精霊史、始まりの日 最終決戦 破」
第五十二話「最終回6 精霊史、始まりの日 最終決戦 破」
加美川先輩の言葉に俺は頷き、ラストバトルの再開を告げた。
「サナギの精霊鬼の呼び方を蝶の精霊鬼に変えます。行動順はそのままで、戦闘再開です」
「よしガフからね! うおおお、ギムレットばかりにカッコつけさせないと、ガフは精霊鬼に突進。そのまま【二刀の極意】ーー成功! 【剣の極意】の二連撃をくらえ! 命中は12、16!」
「こちらには回避スキルはないけどーーダイスで8。半分の4で一撃目を回避。二回目はーー回避できない」
「ダメージロール! ダイス目は8と8、合計は22点!」
「む、ダメージが入ります」
本来ならこのダメージでは精霊鬼の装甲は貫けないが、今回はサナギの羽化が早まったせいでダメージが通るといった設定だ。
現在の防御力は15なので7ダメージ。残りHPは193。
「そうしたら、精霊鬼の順番ですね。ミュールから得た【精霊術の全体化】――成功。【限界圧縮】――成功。【精霊術:雷】で全体攻撃!命中は31!」
「うお、まじか!」
「うーん、無理だ」
「なによそれ!?」
「……クリティカル以外ダメ」
「避けられそうにないわ」
各々回避のダイスを振るが、高い命中の値に回避は失敗。
精霊鬼の精霊術は全員に命中した。
「ダメージは固定値15から――ダイス目は1と4。限界圧縮で1を10にして、足して術ダメージ29点です」
「なんだって!?」
プレイヤー一同から阿鼻叫喚が上がる。
だが、全員HPは40以上のはずだからまだ誰も倒れはしないはずだ。
たが、少なくともマティーニ、シャンディ、ギムレットの三名は次の全体攻撃で倒れるだろう。
ガフとシェイクステアも前衛特有のHPの高さはあるはずだが、クリティカルが乗るとどうなるかわからないラインだ。
(さあ、どう戦ってくる――)
「……ギムレットのターン。ここは――」
手の甲を唇に当て、しばし考える黒木さん。
ギムレットが選べる選択肢はおそらく三つ、【戦略の心得】でパーティの命中・回避を上げるか、【生命の指輪】を消費しパーティのHPを回復させるか、敵の情報を調査するかのうちのどれかだろう。
攻撃をして戦闘を終わらせるという役割から外れている分、ギムレットは戦闘中でも考えることが多い、扱いが難しいキャラだ。
ややあって、黒木さんは考えをまとめ、ギムレットの行動を宣言した。
「ここは【生命の指輪】を消費してパーティー全員のHPを回復する」
そういいダイスを二つ転がす黒木さん。出目は14。パーティ全員14点のHP回復が行われた。
「……これでギリギリ一回耐えられる。運が悪ければダメ」
「だったらダメになる前に倒さないと。シャンディのターン【二刀の極意】ーー成功。【飛び道具の極意】ーー命中は18と、クリティカル! 連続はなし」
「ーー出目が届かない。それは回避できません」
ここは攻撃に回るのが最善手と判断したシャンディが果敢に攻めてくる。
傷薬などで単体回復もできるが、全体攻撃の前にはジリ貧になる。
とにかくダメージを与えなければ倒すことはできないのは確かだ。
「ダメージは一回目術ダメージ19点、クリティカルの二回目3、7、10で術ダメージ28点!」
これで精霊鬼のHPは166になった。
術に対する防御を落としすぎたっただろうか。
いやいや、まだまだHPはある。
「次はマティーニの攻撃。そんなところ引きずり出して、きっちりお説教してあげるわ! 【精霊術の強化】【限界圧縮】ーーそれぞれ成功。【精霊術:炎】ーークリティカル! もう一回ーークリティカル!」
ここに来て加美川先輩のダイスが荒ぶり始めた。
二連続クリティカルの前にもちろん回避をしくじる精霊鬼。
加美川先輩が5個のダイスを用意し、机に放る。
けたたましい音を立てながらダイスは回りーー
「ダメージは8、3、7、10、5。【限界圧縮】の効果で3のダイスを10に変更、固定値は12、ダメージの合計は52点!」
「なんですかそれは!」
いくならなんでも目が良すぎる上に、一つ数字が少なくてもフォローできる。
調子づいた先輩、いや、マティーニの火力は恐ろしく高くなっていた。
(これは想定外に減らされているぞ)
「次はシェイクステアだ!【術纏】ーー成功!【棒術の極意】ーークリティカルなし、命中18」
「回避技能がないから、クリティカル狙いでーー無理です」
「よし、固定値は18から、ダイス目は4と9で13、31点ダメージだ」
精霊鬼の防御力を引いて16ダメージ残りHPは108点。
もうすぐ折り返しだ。
「そうしたらガフの攻撃! さっきと同じ二回攻撃よ! 技能判定ーー成功。命中はーーよっし、クリティカル! 連続はなし。二回目!ーー命中は15」
「ーーこっちの目では避けられません。ダメージどうぞ」
「うおおお、この一撃をシャンディに捧げるつもりで、いけぇ!ーー一撃目は24、二撃目は12」
「そうしたら二撃目は弾かれます」
ガフからの攻撃は一撃目のダメージが通り9ダメージ。
残りはHPは99となった。
クリティカルが多くでたことを加味すると、次の次のターンで決着がつきそうだ。
「だいぶダメージをもらいました。蝶の精霊鬼は一度体制を崩し、体の一部を崩落させますが、再び立ち上がり、あなた達に先ほどの攻撃を放ちます」
そう俺は宣言し、ダイスを振る。
クリティカルがでたら多分、このゲームはここで終わってしまうだろう。
それはつまり、加美川先輩と遊ぶ時間が、終わってしまう。
赤い透明のダイスがテーブルを転がる。
一つ目の技能は成功。
二つ目も成功。
三つ目、攻撃の命中判定だ。俺はダイスを4つに増やして、まとめて転がす。
2、3、9、……1。クリティカルはなしだ。
「術は全体がされ、全員を襲います。命中は23です」
俺の宣言に、それぞれ回避判定を行うが全員失敗。
俺はダメージの決定をするためダイスを振るった。
「ダメージは術で33点です。倒れた人は申告お願いします」
「マティーニは一桁残っているわ」
「同じくシャンディも」
「……ギムレットも耐えた」
「シェイクも立っているぜ」
「ガフもよ! 告白するまで死ねないぜー。ってね」
うまい具合でギムレットの回復が噛み合ったのだろう。
どうやらまだまだ戦いは続きそうだ。
俺はほっと一息ついたあと、ダメージの流れをチェックした。
クリティカルが多く出たことで、なんとか精霊鬼のHPを半分まで削れている。
だが、この後も、このターンのようにクリティカルがそうポンポンと出るものだろうか?
全体回復する手段のない彼らは、次の精霊鬼の順番まで順番を回したら全滅がほぼ確定する状況だ。
先ほどよりももう少しだけダメージをあげないとこいつは倒しきれない。
「それでは次はギムレットの番です」
俺は戦闘を進めるために黒木さんに声をかけた。
「……さっきの描写で、敵にもそれなりのダメージが入っているはず、ならばやるべきは――」
黒木さんはじっと自身のキャラクターのステータスを確認して何か手はない模索しているようだ。
ややあって、黒木さんは次のギムレットの行動を選択した。
「ここも賭け。ギムレットはショートソードを使って攻撃。たぶんクリティカルじゃないと当たらない……ーーきた、クリティカル」
「な、なんだとう!?」
連続で発生しなかったが、これは完全に流れを生む一撃だ。
もちろん攻撃は精霊鬼に当たった。
「固定値は4、ダイスは3つ、行け!ーー9、10、4、ダメージは27。剣を突き立てる!」
「ダメージ通ります」
精霊鬼に12ダメージが追加、10面ダイス目の中央値が5だから、およそ2個分、つまりクリティカル2回分を稼いだことになる。
残りHP87。よもやギムレットに剣を渡した、須山さんの提案がここで効いてくるとは。
「続いてシャンディも! 同じ技能で、同じ攻撃! ――技能判定は成功。命中は19と18」
「む、クリティカルのみです――精霊鬼は回避できず、魔法の弾丸に貫かれます」
「ダメージ19と26!」
城戸のダイスはダメージの時だけ10の目が必ず出てきた。
(かなりダメージを稼がれた)
俺は精霊鬼にいまのダメージを反映させる。
そして、残り62点のHPを残し、加美川先輩に順番が回った
「マティーニの順番ね。それじゃあ、みんなと同じように前のターンと同じ技能を使用を宣言。それぞれの判定は成功よ。【精霊術の奥義】――クリティカル! 連続は無しね」
「こちらはクリティカルなしです。ダメージどうぞ」
「固定値12のダメージダイスが1、5、6、9。1の目は【限界圧縮】の効果で10に。合計ダメージが42」
「ぐ……精霊鬼はかなりのダメージを負い、ぐらつきます。だけれどまだ反撃する力を残している」
残りHP30。精霊鬼の行動までに攻撃できるのはシェイクステアとガフのみだ。
「なんとか畳みかけるぞ。【術纏】を成功【棒術の極意】で攻撃! 命中――クリティカルなし、18だ」
「クリティカルさえ出れば……ダメです。回避はできません」
「そうしたらダイス目が3、6。ダメージは27ダメージ」
「かなりダメージを負いましたが、まだ精霊鬼は倒れません。次はガフの番です」
防御を引いて12点ダメージ、残り18点。
俺はダメージを紙にメモし、状況を確認する。
ガフの能力で確実に18点を削るには両手の判定で両手ともクリティカル、もしくはどちらかの判定で連続のクリティカル、少なくとも二回のクリティカルが欲しいところだ。
「ガフの攻撃! これで倒れろ! 技能判定成功! 右手!ーークリティカル! 連続はなし、左手ーークリティカルなし。命中は16」
「回避はファンブルしました。無理です」
「ダメージは28と19、どう、これで!」
防御力を引いたダメージは13と4。
精霊鬼の残りHPはーー1。
全員の猛攻にこの精霊鬼は耐えきってしまったのだ。
そして次は精霊鬼の行動の番。
つまりこの段階でパーティの全滅はほぼ確定した。




