第五十一話「最終回5 精霊史、始まりの日 最終決戦 序」
第五十一話「最終回5 精霊史、始まりの日 最終決戦」
「それでは戦闘に入ります。ミュールによって呼び出された巨大な芋虫は彼女を飲み込み、あなたたちを無視して自身に糸を吐きます」
「げー、私こういう虫苦手なのよ〜」
俺の描写にゲンナリとした声を上げる須山さん。
気持ちは分からなくも無いが、それは無視して、俺は描写を続けることにした。
とにかく話していないと、取り繕った化けの皮がはがれてしまきそうだった。
「瞬く間に糸は硬質化、あなたたちから見ると芋虫の精霊鬼は巨大なサナギとなります。それでは一ターン目、行動順を確認します」
行動を行う順番はギムレット、シャンディ、マティーニ、シェイクステア、ガフ、サナギの精霊鬼、の順。
一同困惑の表情が見て取れる。
突然、巨大なサナギが現れてラスボスですと言われたら確かに困惑するだろう。
俺はする。
「……GM、ギムレットの知識でこの精霊鬼について調べることはできる? とにかく敵について知らないと何もできない」
ギムレットの順番になり、プレイヤーの黒木さんが声を上げる。
確かにギムレットは、前のシーンで、精霊鬼のことについて知識があったと演出した。
ならばそれに絡めていこう。
「分かりました。精霊鬼の知識を持つギムレットは知力で判定をして8以上なら何が起こっているかを理解します」
「となると、ダイス目7以上」
黒木は一度呟き、軽く手を振りダイスを机に転がした。
机を叩く音が鳴り響き、少しあってダイスが停止する。
「……出目は8。半分にして4、知力を足して8だから判定は成功」
「分かりました。そうしたらギムレットは精霊鬼の知識の中から、敵の行動を推察できた。というわけでこの戦闘のギミックを説明します」
俺はパーティ全員に今回の戦闘の仕組みを説明することにした。
「まず、このサナギは一定ダメージ、もしくは5ターン経過後、成虫となりあなたちに襲いかかります」
「GM、ミュールはどうなったの?」
加美川先輩が質問を投げてくる。
ミュールはもう死んだことにしていたのだが、ふと今、説明したしたギミックに絡めたアイデアが浮かび、俺は付け加えることにした。
「サナギは一ターンに一つミュールから能力を吸い取り、5ターン終了後、ミュールは消滅してしまいます。成虫になればミュールの状態は保留され、精霊鬼を倒したあと状態に応じて、彼女の生死が決定となります。もちろん負ければ元も子もなしです」
「なるほど、まだ彼女を助けることもできるわけね」
「はい」
なぜ加美川先輩がミュールにこだわるのか分からないが、俺の土壇場で追加したギミックは、彼女のモチベーションを上げたらしい。
「能力も早く羽化させた方が敵のHPやステータスが低く設定されます。ちなみに5ターン経過後に羽化する場合はルールブックと同じスペックに、プラスしてミュールの能力を得ている精霊鬼と戦うことになります」
「よし、みんな全力で殴るわよ!」
加美川先輩の号令で、行動指針は決まった。
「シャンディのターン! 二丁拳銃で攻撃! クリティカルなし命中は14と13」
「見た目どおりよけれないのでダメージどうぞ」
「術ダメージで16と、17」
33点ダメージ、200ダメージを羽化するポイントにしているので進捗は順調に進みそうだ。
テスト戦闘時は3かや4ターンで羽化したが、シャンディの攻撃的な成長のおかげでテスト戦闘時より羽化が早まりそうだ。
「次は私の番ね! 【精霊術の強化】ーー成功! 【限界圧縮】ーー成功! 【精霊術:炎】で攻撃。ーークリティカルなし命中25」
「ーーこちらもクリティカルなし。当たります」
「固定値は12、ダメージダイスは2、8、5。2のダイスを10にして合計27ダメージ」
これで累計60点。
防御値の計算が入らないとシャンディの威力の方が高くでているのはちょっと驚きだ。
「次はシェイクステアだな! 【術纏】ーー成功。【棒術の極意】で攻撃ーークリティカル! 二回目はなしだ」
「ーー無理です。ダメージください」
「固定値18、ダイス目は12。合計30ダメージ!」
サナギへの累計は90ダメージ、残りは110点。
「次はガフの番、どうしますか?」
「んー、そうね」
行動には迷いのない須山さんが珍しく少し悩んでいる。
数秒考えた彼女はこちらに提案してきた。
「GM相談なんだけど、ショートソード二本投擲したら、一本ぐらいギムレットのところに落ちない?」
「えっ? んー……」
面白い提案が飛んできて、俺は少し悩む。
この提案はゲームをしいてはこのシナリオを真剣に攻略しようと考えてのアイデアなのだろう。
だとしたら俺が出す答えは一つだ。
「分かりました。オッケーです。ただし攻撃後、ガフの幸運判定でファンブルが出たらガフに戻ってきます」
「さすが話がわかる! ガフの攻撃、ショートソードを二本とも投げる【二刀の心得】ーー成功! 【投擲の心得】ーークリティカルは二つともなし!」
「ーー命中します。ダメージください」
「ダメージは12、10。ついでに幸運判定もーーファンブルなし、ショートソードがギムレットのそばに落ちるわ。ーーギムレット、お前は恋敵だが、いまはそんな場合じゃない。その剣を貸してやる! 一緒に戦うっすよ!」
(おお、なんだか熱い場面に)
何をやっても面白いことに着地してしまうガフだったが、この展開は良い。
いがみ合っていた二人が共通の敵を倒すために肩を並べ戦う、まさに王道な展開じゃないか。
「……【悪意の看破】をガフに」
「げへへへ、これであいつが精霊鬼に近づいて、精霊鬼が羽化すれば、攻撃に巻き込まれてお陀仏間違いなしっす。ーーって何言わせるのよ!」
びっくりするほど、台無しだった。
ガフの見せ場は一瞬で終わった。
「えー、拾うかはギムレットに任せます」
「……そうする」
そんな茶番もあったが、累計ダメージは100を超えた。テストプレイでは一ターン目は70前後ぐらいだったが、ユニークアイテムのおかげか、だいぶ進捗が良い。
「そうしたらサナギの精霊鬼の番ですね。ミュールから能力を一つ吸収します」
吸収する能力は公開しないが【精霊術の全体化】を選択。
そして二ターン目に突入した。
「ギムレットは剣を拾って攻撃。ダメージ14」
「二丁拳銃で攻撃! ダメージ18と19!」
「同じ組み合わせの精霊術で攻撃! ダメージは26!」
「シェイクステアもだ! ダメージは28」
各員の攻撃でサナギへの累計ダメージが200点を超えた。
「それではサナギにヒビが入り、中から本体が姿を表します」
俺は一度、戦闘の進行を止め、描写を行う。
「出てきたのは4メートルはある巨大な蝶のような、蛾のような魔物です。羽や鱗粉は黄金に輝き、体は光沢のある頑強そうな甲殻で覆われています。ただしサナギから出るのが早かったからか、羽がしわくちゃに萎んで、空は飛べそうにありません」
「来たわね」
加美川先輩がついに現れた精霊鬼にたいして、お約束の言葉を吐き出す。
俺はシナリオシート上の精霊鬼のステータスを書き直した。
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精霊鬼
HP500→down200
攻撃50→down25
魔力60→down15
防御60→down15
抵抗50→down10
行動1
命中20→down10
回避18→down8
技能【精霊術の真髄】【精霊術の全体化】
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いよいよ最終決戦です。
各キャラの数字の管理が難しい(笑




