第四十三話「シナリオ夜話 調整編」
第四十三話「シナリオ夜話 調整編」
その後、俺たちはプールを楽しく遊んだ。
よくライトノベルやラブコメ漫画で見るようなハプニングはなく……いや、須山さんが加美川先輩のトップを脱がせ、その下にあるビキニをあらわにさせた事件が……あれ? なんだか頭が痛くてよく思い出せない。
寝不足で白昼夢でも見ていたのだろうか。
思い出そうとすると、何故かビート板が脳裏をよぎる。怖い。
とにかく皆無事にバスに乗り込み、駅前解散からの帰宅、次に会うのは三日後、TRPGの時でということになった。
自室に帰った俺は、疲れた体を無視して机の前の椅子に腰掛けた。
パソコンを立ち上げて、足元に散らばる本を足で避け、起動のプロセスが終わったパソコンをいじり、メモ帳を広げる。
今日中にシナリオのカタを付けてしまおう。
およその大筋を読み直し、作業内容を頭の中にピックアップしていく。
とはいえ、昨日大分話はまとまったので、主にダンジョンを作るのと、敵の調整がメインで良さそうだ。
俺は引き出しにしまっていた赤いダイスを取り出した。
初めてGMをした時に加美川先輩からもらったダイスだ。
俺はそれをキーボードのそばに置き、プレイヤーキャラの能力のメモを確認しつつ、実際にラストバトルの模擬戦を初めて見ることにした。
一度目はプレイヤーは全滅
二度目はラスボスがあっさり死ぬ。
そして三度目はーー
「それで、ダイスロールと、うんプレイヤーが全滅、あと3回殴れれば倒せたかな」
3度目のカタカタと音を立てて赤いダイスが俺の机を転がる。
出目を確認してダメージが通るか確認、そこからプレイヤーキャラのHPを減らし、敵はあと何回の攻撃に耐えられるかカウントしていく。
俺はパソコンを操作し、シナリオのメモにこの結果を打ち込んだ。
ラストバトルはしっかり決めたい。
これまでがタライや丸焼きだったのでなおのこと、俺は調整に手間をかけたかった。
正直、遅々(ちち)としか進まない作業だし、このゲームのダイスは1〜10までの乱数を生むので、振れ幅が大きすぎるのでなかなか想定通りの減り方をしてくれない。
しかもこの作業はもしかしたら、まったく意味をなさないものになるのかもしれない。
TRPGはデジタルゲームと違って、プレイヤーの行動次第で何かしら戦わなくても解決できてしまう場合もある。前回の丸焼きが良い例だ。
あの悲劇を思い出し心が折れかけるが、それでもやっぱり最後は楽しかったと言われて終わりたい。
特に加美川先輩と遊ぶ機会は恐らく、最後だ。
それにーー
(ゲームクリエイター目指してるって言っておきながら、まだ作ったゲーム一つも先輩には遊んでもらっていなかったもんな)
はたしてこれは自分の作ったゲームなのだろうかという疑問が浮かんだが、少なくとも俺含め、宇和島先輩、黒木さん、須山さん、城戸そして加美川先輩がいなければここまで来れなかっただろう。
俺が作ったとは言えないが、俺が作っていないとも言えない。
やっぱり最後は楽しかったで終わらせたい。
そうあるためには、とにかく調整を繰り返そう。
誰が言ったか、神は細部に宿るのだ。
「とはいうものの、回復役がいないのはな……」
これはこれで調整は楽なのだが、派手なダメージを出してしまうと一気にパーティが崩壊してしまうのでサジ加減が難しい。
もしかしたら当日誰かが回復役をとるかもしれないが、それは期待してはいけないだろう。
まずは現状のメンバーでかなりギリギリのバランスで整え、成長することでギリギリの状態から歯応えのある状態に持っていくのがベストのはずだ。
「全体攻撃は15ダメージ、ぐらいに収まるようにしてーーおろ……?」
プールの疲れもあったのだろうか?
眠気がわっと溢れ出し、俺の視界が暗転する。
(あ、ダメだこれは、でも、まあ)
耐えがたい眠気にひきづられ、俺は意識を落としていった。
(大丈夫、マップもできているし、敵の配置も終わっている。導入のシナリオも書いてあるし、残すはラストバトルの調整だけ……うん、起きてからやればまだ余裕がある)
そう言い訳をしながら俺は赤いダイスを握り、電池が切れたスマホのようにがくりと椅子に座りながら寝落ちした。




