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TRRGプレイヤーズ~恋と、青春と、TRPGと、先輩と~  作者: 鏡読み
第五章「佐々倉サクと夏休み」

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第三十八話「結果と昔話」

第三十八話「結果と昔話」


全ての劇が終わり、結果発表が行われた。

最優秀賞は『鬼鍋』ーーあの人の肉を食べた悪夢のような劇が選ばれていた。


審査員からは『一番感情を揺さぶられた』と評価され、俺は審査員の正気を疑った。


一方で黒木さん達の劇はその一つ下の優秀賞を獲得し、彼女たちから言わせれば「事実上の大勝利」だそうだ。


どういうことかと聞けば『鬼鍋』を書いた作者は、その劇を演じた学校の顧問で、かつ、この地区の審査員達の派遣元のOBなのだそうだ。

いまだにおべっかを取らないと面倒事が起こる癇癪かんしゃく持ちらしく、彼が書いた台本には勝手に忖度そんたくが入るのだそうだ。


学校の先生が人を食う話を書いていたという事実に、俺は作者の正気を疑った。審査員たちは正気だったのだ。


それと同時に大人の事情とは公正さよりも優先されるものなのだと、俺は一つ大人になれた。


まあ、知りたくもなかった世の中の仕組みを覗き見た気分でゲンナリとはしたが……。


さて、時刻は19時過ぎ、夏でも流石に日が落ち始める時刻だ。

演劇部員達は後片付けと打ち上げがあるとのことなので、俺は加美川先輩と一緒に公民館を出ることにした。


「んー、よく見た」


外に出た俺は体を伸し、肩を回した。


座りっぱなしで硬くなった体が伸びて心地よい。


9本連続で舞台を鑑賞できたのは、他にない貴重な体験だったが、流石に同じ姿勢で10時間座りっぱなしはしんどかった。


身体中のあちこちが固まったように重かったり痛かったりする。

特に肩。妙に力が入って大変凝り固まっている。


俺は固まった肩を伸ばそうと、首をぐるりと回し始めた。


「サク君、肩凝ってるの? 揉んであげようか?」


俺の様子を見かねてか先輩が、提案をしてくる。


嬉しい話だが、思い出されるのはおよそ一年前、ゴリっという音と共に来る激痛、そして湿布の香り。


「いえ、結構です。先輩のお手を煩わせるまでも、ありません」

「せっかくの親切心を無碍むげにすると」

「先輩には去年の実績がありますから」


俺は自分の肩が破壊されないよう、きっぱりと断った。


そんな他愛もない話をしながら、公民館の敷地を出ようとすると、先輩が何かを見つけたようで他所よそを見始め、立ち止まった。


俺も釣られて先輩の視線を追うと、その先には駐車スペースがあり、制服姿の宇和島先輩ともう一人、60代ぐらいだろうか初老の男性が立っていた。


初老の男性には見覚えがあった。今日の大会で審査員席に座っていた人物だ。


「――――――」

「……――――」


何かを話ている、という事は二人の身振りで分かったが、距離が遠く、内容まではよくわからない。

特に怒っているとかそういう物ではなく、淡々と初老の男性が宇和島先輩に話しかけている。


俺はもう少し近づいてみようとする自分の好奇心を全力で止めた。


宇和島先輩が頭を下げていた。


初老の男性はそれを止めるが、宇和島先輩はかたくなに頭を下げたままだった。


彼らのあいだに何が合ったのかは分からない。

ただ、俺が立ち入ってはいけない話だという事は分かった。


「サク君、行きましょう」

「はい、そうですね」


加美川先輩も同じように考えたのか、俺と先輩は二人で駅に向かうことにした。


俺と先輩は淡々と道を歩く。

駅までは15分も有ればついてしまうだろう。

こうして歩いていると、シティアドベンチャーで悩んでいたあの日、宇和島先輩と話をしながら駅に向かった日が脳裏にぎってくる。


(そういえばあの時、宇和島先輩、加美川先輩の連絡先知っていたんだよな)


そこからは連想ゲームのようにこれまであった様々な事象に対して、疑問が浮かんでは消え、また浮かんでは消えを繰り返す。


疑心暗鬼などと、ネガティブな感情とまではいかないが、疑問が湧き上がり胸が苦しい。


(……先輩は宇和島先輩のことをどう思っているのだろうか)


どういう経由でそこにたどり着いたのかは分からない。

気がつけば、隣で歩く彼女の気持ちが知りたいと思っていた。


店やファミレスからこぼれた明かりに照らされ、前を向き歩く加美川先輩。


俺なんかよりも、気を配れ、見た目も中身も好男子な宇和島先輩と歩く方が良かったのではないか。


比較するのはおかしいとは分かっている。

俺は頭を振って溢れ出そうになった劣等感を振り払った。


気を紛らすように世間話をしながら帰り道を進む。


よく待ち合わせにしているY字型の歩道橋が遠目で見えた辺りで、俺は疑問を吐き出した。


「そういえば、今更なんですけど、あのTRPGの集まりって、どういう経緯であのメンバーが集まったんですか?」


直球を投げる度胸がなかった。

辺り感触なく、波風は立てずだ。


考えなしに、直接聞いてしまえば、子供のような言葉になってしまいそうで、俺はただただ、先輩の前では佐々倉サクという恰好かっこうを保ちたかった。


「先代の文芸部部長が宇和島くんのお姉さんなのよ。そこで、宇和島くんと須山さんを紹介されて、色仕掛けでも、須山さんを使っても、なんでもいいから弟を外に引っ張り出せって。そのあと宇和島くんが黒木さんを連れてきて……たしかそんな感じだったわね」


「あのときは驚いたわ」と先輩は笑いながらこちらを見て、俺の疑問に答えてくれた。

先代部長の話は時々聞くが、なかなか面白い人なのだろう。


もうすぐ、Y字の歩道橋、そこまでついたら、すぐそばの駅で解散だ。


俺は話にオチをつけることにした。


「先輩、ちなみに使ったんですか?」

「何を?」

「色仕掛けーー痛て」


回答の代わりに、俺は先輩にチョップされた。


思いの外素早い対応だった。

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