第十七話「放課後のデート」
第十七話「放課後のデート」
「それじゃ、行こうか?」
「はい」
そう黒木さんを促し、俺は彼女の手を取り校舎を出た。
見た目通りの小さな手は、少し握りにくい。ついでに俺の腕の長さが合わないのか、手を握られている彼女も腕を少し上げ、大変そうだった。
――いい? サク君は一日黒木さんの彼氏の振りをして、その後、盛大に振られなさい。
あの後、加美川先輩が言った言葉を思い出す。
たしかにこれなら黒木さんの嘘も真として成立し、なおかつ、全てを元通りにする方法だ。
俺の気持ちは完全に蔑ろだが。
さておき……。
「お、おい、あの黒木さんと手をつないで歩いている男は何もんだ!」
「あいつは朝、黒木さんに挨拶をした不届き者だ」
「や、やっぱり、あの噂は本当だったのね」
「きぃぃぃ、私たちのかわいい妹がぁぁぁぁ!」
俺の命が限りなくピンチであった。
学校から出るというだけで、校庭から、校舎から、各所から視線がぶすぶす突き刺さってくる。
針のムシロとはこのことを言うのか。
視線がストレスになり、胃がキリキリしてくる。
手を握ってドキドキするなんて騒ぎではない、心臓がバクバク言っている。
握った手が強く握り返され、少し痛いたんだ。
黒木さんを見ると、白い頬が羞恥でだろうか赤みを帯び、辛さからか目が潤んでいる。
「えっと、黒木さん大丈夫?」
「……だめ、辛い」
俺も、おそらく黒木さんも大多数に対する社交性は持ち合わせていない。
ここは三十八計、とにかく早く校舎から逃げることにしよう。
俺は校舎端の自転車置き場に黒木さんを連れていき、自分の自転車の鍵を外した。
「ブラックラック、戦術的撤退を」
「肯定」
自転車にまたがり、黒木さんに後ろに乗るように促す。
ひょいっと、器用に黒木さんは自転車の後部席に横乗りをし、俺の肩に手を置いた。
女の子に肩を掴まれるなんて初めてのことだったので……あ、いや、加美川先輩が昔、肩をもんできたことがあった。
あるあまりの力強さに次の日も肩が痛かったけか。
「……ねえ」
「どうかした?」
「……今、加美川先輩のこと考えてた」
「ほう、心理的読唇術か」
「私には欠けたものが視えるの」
「本物だというのか……!」
ニコリと笑う黒木さん。
高校入るとみんな背伸びしてこんな会話しないもんな。
きっと楽しいのだろう。
「そんじゃ行きましょうか、彼女さん」
「うん」
それはともかく、俺は黒木さんがしっかり捕まったことを確認し、ペダルに足を乗せ力を込めた。
はたから見れば完璧に俺と黒木さんは付き合っているように見え、これから放課後デートの流れに見えるだろう。
現に周囲を見れば、学校の生徒に見られまくっている。
これはもう明日の一面は頂きのヤケっぱちだい。
俺はペダルに力を込める。
全校生徒に注目されつつ、その視線を振り切るように自転車を進めていった。
ところ変わってここは駅前、俺の高校の最寄駅。見た目は至ってシンプル、デパートに線路が貫通し、駅がブッ込まれている。
ちなみにそのデパートは最近、近隣にできた超大手のショッピングモールに客を取られ続け、倒産しかけていると噂されていおり、一部マニアックな構図を求めてやってくる鉄道マニアぐらいしか客がいない状況だ。
俺たちの目的地はその駅すぐそば、商業ビルの一階にあるマクドナである。
ここは朝方はスーツをきたおっさんで混んでいるが、ここらの学生は大体大型ショッピングモールに行くので、放課後はものの見事にスカスカなのだ。
ここは人混み離れたい時にうってつけな個人的穴場なのである。
二人で店内に入ると、店の中は閑散としていた。
同じ学校の生徒もちらほら見かけるが、皆静かに本を読んだり、飲み物すすったりダラダラしている。
ここならさっきのようなことにはならないだろう。
「とりあえず黒木さんは席の確保をお願いしていい? あと飲み物買うけど、アイスコーヒーでいい?」
「……それでいい。場所とってくる」
そう言って、黒木さんは注文カウンターから離れ、店の奥に歩いて行く。
俺はアイスコーヒーと期間限定割引で安くなっていたポテトを買い。彼女が確保した席へと向かった。
登場人部メモ(更新)
黒木スズネ
ゴスロリ服が戦闘服な黒髪パッツン少女。設定が多い。
演劇部一年生。喋り出すまでやや間がある。
実は中二病の言葉遣いに慣れすぎて標準の言葉を話すのにタイムラグが生まれてしまっている。
また、長い標準語は突然出てこない。
(更新)
特殊能力名はブラックラック
相手の欠如が見える能力者。
組織に混ざり行動をしている。
欠けは相手の隙に繋がり、また心理の風上に立てる汎用性の高い能力である。
決め台詞は「私には欠けたものが視えるの」
という感じの設定。




