第十六話「彼女ができました」
第十六話「彼女ができました」
バサリと、本が落ちた音がした。
俺は目をパチクリさせ、床に鎮座する黒木スズネさんこと、黒き欠如さんを見た。
「付き合うって、その、ラブとかライクとか、け、っこんを前提に的な、あれ」
「それ」
ギクシャクとした俺の言葉に、黒木さんはたった一言で肯定。
俺は助けを求めるように先輩の方を向いた。
あ、ダメだ。澄ました顔で文庫本を逆さ読みしている。
しかも聞き耳を立てているのかちょっと体勢がこちらよりだ。
完全なツッコミ待ちか、置物に徹しようという腹づもりか。
「先輩、文庫本逆さまですよ。助けてください」
絶対巻き込んでやるとの決意を胸に俺は先輩にツッコミを入れた。
声をかけられるとは思わなかったのか先輩は、びくりと体を震わせ、ジト目でこちらを見てきた。
どうやら置物に徹するつもりだったらしい。
「……とりあえず、扉は閉めた方がいいわよ」
「へ?」
そう言われて黒木さんが扉を開けたままだということに気がついた。
遠巻きにいろんな生徒がこちらを見ている。
「お騒がせしました!」
俺は叫びながら全力で扉を閉めた。
後輩に土下座をさせたとか変な噂を立てられたら、俺の学校社会での立場がなくなってしまう。
ーー閑話休題、仕切り直し。
俺は、新しいパイプ椅子を用意し、黒木さんに椅子を進めて、お茶を買って、さしだした。
対面する様に俺は黒木さんの前に座り、先輩は俺の後ろで、ことの様子を見ている。
「えー、俺と付き合う? 嬉しいけど、俺たちあって二日目だし、何故?」
「……」
俯いて言葉を返してくれない黒木さん。
なんというかかけた言葉に反応がないと空気が重くなっていく感覚に襲われる。
レベル的にはサスペンスドラマの尋問シーンレベルような空気の重さだ。
だがよく見ると彼女は口をパクパク動かし、何か言葉を探しているようだった。けっして黙秘権を行使するつもりではなさそうだ。
ふと、ツイッターてみた彼女のツイートを思い出した。
(もしかして)
俺は試しに心の底に沈めていた特殊能力 der die t Welt siehを引っ張り出した。
痛い、胸が痛い、心情的に!
「ブラックラック」
「……!」
ハッと顔を上げる黒木さん。
あぁ、うん、食いつくよね。
たぶんこれが正解のようだ。
「俺は事象を読み解きたい」
「今朝の接触を組織の人間に見られた」
とたん黒木さんは饒舌にことの次第を話し始め、一度言葉を切りこちら様子を伺ってくる。
言葉がわかっているか気になるのだろう。
まこと残念なことに俺は彼女の言葉をおおかた理解できた。
己の過去を思い出し、胸が切り裂かれる思いだ。
「理解している続けて」
「組織全体から尋問と圧力が私にかけられた。そこから逃れるべく、偽りの情報を彼らに流した。しかして彼らは飢えた獣、真実を目にしない限り、疑惑は消えない」
「把握、つまりに深き絆を結ぶあらず、偽りを真実へと偽装し、状況を打破すると」
「肯定」
状況は何となく理解でした。
朝、俺が黒木さんに声をかけた場面を見た彼女のクラスメイトがクラス総出で黒木さんを質問攻め、結果追及を避けるために俺と付き合っていると黒木さんは嘘をついてしまったわけだ。
で、何もアクションを起こさないとクラス全員に嘘をついたことになってしまい悪評が立つので、俺に頼んできたわけか。
「……なに話しているの?」
完全に二人の会話に入ってこれなかった先輩が困惑気味にこちらに声をかけてきた。
「そうか、先輩はこっち側の人間じゃないんですね」
「……残念」
「え、ちょっとまってどっち?」
「とりあえず状況を説明しますね。えっとーー」
俺は加美川先輩にも黒木さんがなぜこんなことをしたのか伝えた。
ややあって、「なるほど」と先輩は状況を飲み込み、ニンマリとステキな笑顔を浮かべた。
悪魔の尻尾がひょっこり見える。
俺には見えた。
「なら、二人とも付き合えばいいじゃない」
俺の人生をなんだと思ってらっしゃるあなた様。
「……不束者ですが」
ペコリと頭を下げる黒木さん。
俺は逃げる言葉が思いつかなかった。
「ハイヨロシクオネガイシマスネ」
よくわからないけど俺は泣きそうな声で、了承した。
おっとさん、おっかさん、ワタクシ、佐々倉サク、17歳、初めて彼女ができました。
登場人部メモ(更新)
黒木スズネ
ゴスロリ服が戦闘服な黒髪パッツン少女。
演劇部一年生。喋り出すまでやや間がある。
(訂正)
性格 内向的のような違うような。
(更新)
実は中二病の言葉遣いに慣れすぎて標準の言葉を話すのにタイムラグが生まれてしまっている。
また、長い標準語は突然出てこない。




