妹がアンドロイドだと告白してきてすぐ壊れて停止したので俺がメンテナンスすることになりました。ちょ、そんなことしないといけないの?!
短編投下します!
「兄貴。私、実はアンドロイドだったの」
「は?」
妹が壊れた。
アンドロイドが壊れたんじゃなくて、人間の妹が壊れた。
自分の事がロボット、いや、アンドロイドって何?
そういえば中学2年生になったんだな。
「そっか、中二病か」
「違うの!そろそろ『ガタ』が来るから、兄貴に『メンテナンス』してもらわないといけないの!」
アンドロイドって生まれて14年でガタがくるのか?
そうだとして『メンテナンス』って俺にできるのか?
そもそも璃々がアンドロイドなはずないだろ。
「信じてないのね?」
「当り前だろ?」
「いきなり死ぬかもしれないけど、いいの?」
「冗談でも、そんなこと言わないでくれ!」
「あっ、もう…思ったより早かったかな。は、ははは」
カタカタと震えて、悲しそうに微笑む璃々。
「兄貴、ちゃんと璃々を助けてね…」
ぱたん
電池が切れた人形のように、璃々はテーブルに突っ伏した。
「は、ははっ。冗談にしてはひどいだろ」
俺はそっと手を伸ばす。
体が冷たい。
「う、嘘だろ?!」
脈を取ってみる…ない?!
「璃々!璃々!」
必死に揺り動かすが動かない。
口や鼻に手を当てても、呼吸をしていないのがわかる。
「本当に死んでる?!119?人工呼吸?心臓マッサージ?!」
すっかりパニクった俺はスマホを掴む。
困った時のネット検索だ!
『アンドロイドRi-Riが停止しています。蘇生措置を行ってください』
『残時間9分45秒』
え?何これ?
何でこんなものがスマホに表示されてるの?
『アンドロイドRi-Ri』
って、璃々のことか?
どうして俺のスマホに表示されているかわからないけど、とりあえずどうすればいいんだ?
『蘇生措置ガイダンス』
これか!
『まず、ベッドに寝かせてください』
ふむ。
俺は璃々をお姫様抱っこして自分の部屋のベッドに連れていく。
本当にアンドロイドなのだろうか?璃々の体はとても軽かった。
俺の部屋に入ってすぐに璃々を寝かせる。
『Ri-Riのコンフィジュケータスイッチをオンにしてください』
なんじゃそりゃ?
あっ、スマホに璃々の体の図みたいなのが出ていて、額の部分が明滅してる。
そこに触ればいいのかな?
ぺと
『マスターキーでオンにしてください』
なんだよ、マスターキーって?!
あっ、ヘルプ機能がある。
『マスターキーはマスターの唇に設定してあります』
唇?
マスターって俺?
すると…璃々の額に俺がキスしろってこと?
ええいっ!悩んでいる暇などあるかっ!
ちゅっ
すると璃々の右ほっぺが青く光り始めた。
「マジか…」
人間のほっぺたが青く光るわけがない。
つまり本当に璃々はアンドロイドだったんだ。
『右手人差し指と親指で、光る部分を光が消えるまで揉みほぐしてください』
こうか?
むにむにむに
璃々のほっぺたやわらけー!
これっていたずらしているようにしか見えないんだけど。
あっ、光が消えた!
と思ったら今度は首筋に赤い光が付いた!
『右手中指で赤い光に触れてください』
こうか?
すると今度は璃々の右耳が黄色く光った。
『左手小指で黄色い光に触れてください』
こうだな。
すると今度は璃々の右ふくらはぎが緑色に光った。
『続いて左足の親指で緑色の光に触れてください』
む、難しいな。
おお、ふくらはぎがすべすべでやわらかっ。
『右足の小指で白い光に触れてください。4つの光る場所を同時に抑えれば処置は完了します』
白い光ってどこ?!見えないけど!
もしかして服の中とか?
…見るとかできないよな。
でも、このまま璃々が死んだら困る!
ごめん璃々!
俺は璃々の服を脱がして下着姿にする。
これなら光ったらわかるはず!
手足を離したら光が消えてしまったので首の赤い光に触るところからやり直しだ。
赤い光に触れて、黄色い光、緑色の光と。
ピカーッ!
白い光キター!
って、胸の『下』か!
ちょっとがっかりしたのは内緒だ。
でも、これ、足で触れるか?
今気づいたけど、これってツイスターゲームじゃね?
とりあえず、ここをこうして、こうやって…。
俺は何とか指示通りに光を抑えることに成功した。
「ピピピッ」
璃々の口から電子音のような音が漏れた!
『メンテナンス完了。Ri-Riのコンフィジュケータスイッチをオフにしてください』
つまり、また額にキスするのか。
『オフにするスイッチは唇にあります』
おいっ!
つまり、キスしろってこと?
いいのか?キスだぞ?
璃々は確かに可愛いし、大好きだけど、唇にキスとか無理!
だって、大切な妹だから!
するとスマホにこんな表示があるのに気づいた。
『オフスイッチ一覧』
は?何それ?
オフにするスイッチが何か所かあるってこと?
それならそうと早く言ってくれ。
俺はスイッチ一覧を見て、一番無難そうな『手の甲にキス』を選んだ。
手の甲にキスするなんて、まるで王女様に対する騎士みたいだな。
ちゅっ
すると璃々の体がビクンと動いた。
胸が上下して、呼吸をしているみたいだ。
そして璃々がゆっくりと目を開けていく。
「よかった!璃々!」
「良くないわ!馬鹿者!」
ぱしいんっ!
俺はほっぺをひっぱたかれた。
「わらわを裸するとは何を考えておるのじゃ!兄上は変態なのじゃな?」
「いや、それはメンテナンスのガイダンス通りに…それに裸じゃなくて下着だから」
「はやく部屋から出て行くのじゃ!」
部屋から追出される俺。
でも、そこ俺の部屋なんだけど。
それに、璃々の口調がおかしかったけど何あれ?
『わらわ』とか『のじゃ』とか。
「入ってくるのじゃ!」
呼ばれたから部屋に入ると、璃々は服を元通りに着ていた。
「下着姿を見たのは許しがたいことじゃが、わらわを直してくれたことについては礼を言うのじゃ」
「璃々、その話し方どうなってるんだ?」
「兄上が勝手にわらわの設定をいじったのであろう?」
「え?」
「『コンフィジュケータスイッチ』をオフにするときに『唇』を使う場所によって、設定が変わるのじゃ」
「じゃあそのせいで?どうやったら戻せるんだ?!」
「戻す必要などないのじゃ。わらわは別に困らないのじゃ」
そんな口調で学校とか行く気か?
「なあ璃々。そもそもなんでお前がアンドロイドなんだ?それにどうして俺が直せるんだ?」
「それよりも兄上。おなかが空いたのじゃ」
「先に質問に答えてくれよ」
「いやじゃ!食べ物を持ってくるのじゃ!」
「わかったよ」
冷蔵庫にあったシュークリームを持ってくる。
「うむ、大儀じゃ。ほむほむ」
「それで、どうしてなんだ?」
「詳しくは知らんのじゃ」
「ええっ?!」
「わらわは父上と母上に作られたアンドロイドじゃ。そしてその修理に必要なものは兄上の体に埋め込まれているのじゃ」
それでどの指でどこを触れとかあったのか。
「どういう目的で作られたとか、詳しいことは父上か母上に聞いてほしいのじゃ」
うちの両親に聞けって言ってもなあ…うちって『花屋』だぞ。
どう考えてもアンドロイド作れんだろ。
「じゃあ、スマホに璃々を直す指示が出たのは?」
「それが父上たちが作った『メンテナンス用アプリ』なのじゃ」
俺のスマホってロックかけているけど、お構いなしにそんなもの入れられてたの?
…変なファイルとか見られてないよな?
「そういえば母上が言っておったのじゃ」
「何?」
「そのアプリをインストールした時に兄上のやっていた『二次元恋人』ってゲームの恋人の名前が」
ああああああっ!それはっ!
「『りり』なのだそうじゃな」
ああああああ
「心配はいらんのじゃ。わらわはアンドロイドゆえ、兄上と血はつながっておらぬ。よって恋人にもなれるのじゃ」
「璃々…」
「でも、わらわは兄上の事を兄上としか思っておらぬがの」
ガーン!
「さて、そろそろお風呂に入るのじゃ。兄上よ。特別にわらわの背中を流すことを許すのじゃ」
「ええっ?!」
「ふふっ、冗談に決まっておろう。スケベな兄上じゃの」
か、からかわれてるっ!
ああ、もうこれから俺はずっと璃々の下僕のように生きて行かないといけないのか。
今までの素直な璃々よ、戻ってくれ!
「さて、あ、あう?」
表情を歪める璃々。
「いかんのじゃ。まだ直りきっておらぬようじゃ。うっ!」
パタンとベッドに倒れる璃々。
『アンドロイドRi-Riが停止しています。蘇生措置を行ってください』
『残時間12分32秒』
またかよっ!
「これで最後はスイッチをオフにするだけだが…」
手の甲はやめておこう。
『オフにするスイッチは唇にあります』
基本は唇みたいなんだよな。
でも唇か…璃々に悪いよな。
俺の事、ただの兄としか見てないみたいだし。
俺はほっぺにキスをすることにした。
ちゅっ
すると璃々の体がビクンと動き、胸が上下して呼吸を再開する。
そして璃々がゆっくりと目を開けていく。
「璃々!」
「あれー、おにいちゃん?」
おにいちゃん?
「よかった!璃々をなおしてくれたんだね!」
ぎゅっと抱き着いてくる璃々。
もちろんさっきのようなことが無いように服は着させてある。
「お兄ちゃん、大好き!これからずっと璃々を助けてね!」
とんでもなく可愛い璃々になってしまった。
でも…俺の事を『兄貴』って呼ぶ璃々じゃないんだよな。
「どうしたのおにいちゃん?そういえばお風呂に入るところだったね!璃々と一緒に入ろっ!」
「なあ、璃々」
「なあに?」
「体の調子はどうだ?」
「絶好調だよ!」
「そっか」
つまり、スイッチの切り替えはもうできないってことか。
俺、勝手に璃々の性格変えたけどよかったのかな?
俺の事すごく好きみたいだけど、それって本当の璃々なんだろうか?
「おっふろっ、おっふろっ」
俺をお風呂に引っ張って行って楽しそうにしている璃々。
「なあ、ごめん。やっぱり今の璃々はおかしいと思うんだ」
「おかしくないよ。璃々は璃々だよ」
「だって、そんな話し方しないし、俺のことだって好きじゃないだろ?」
「今の璃々は小さい頃の璃々なの。さっきの璃々は、璃々が呼んだ本にあった『王女様』の真似をしている璃々なの」
え?どういうこと?
「璃々は色々な璃々が集まって出来ているの。だからこの璃々もさっきの璃々も、兄貴って呼んでいた璃々も、みんな同じ璃々なんだよ」
そうは言っても…。
「だって、璃々たちはみんな『おにいちゃんのこと大好き』なんだから!」
ドッキーン!
俺の心臓が激しく脈打った。
こんな告白ズルすぎるじゃないか。
「だからね、璃々の『設定』を元に戻したければ、次に直すときにしてね。でも…」
俺の顔を上目遣いに見上げる璃々。
「おにいちゃん、今度は璃々の唇にキスできるの?」
うっ。
そ、それは無理だよな。
「じゃあ、いい方法があるよ」
「何?」
「まず、このタオルを目に当てて」
「こうか?」
ちゅうっ
「ん?!」
唇に柔らかいものが触れている。
タオルが落ちて、璃々の顔が目の前に…。
「んふ。これでもう大丈夫でしょ?」
「璃々…」
「璃々が壊れるまで時々ちゅーしようね!それなら今度は唇にキスできるでしょ?」
俺は小悪魔のように笑う璃々の笑顔に心を完全に奪われてしまった。
2か月後。
「あ、あはっ。おにいちゃん、璃々そろそろ壊れるみたい」
「大丈夫だ!ちゃんと直してやるから!」
「うん。今度こそきちんと…最後は唇に…キスしてね…」
「璃々っ!」
『アンドロイドRi-Riが停止しています。蘇生措置を行ってください』
『残時間7分12秒』
俺は蘇生措置を行い、璃々に口づけた。
「ん?あれ?」
「璃々!」
「あれ?どうして?」
不思議そうにしている璃々を俺はぎゅっと抱きしめる。
「どうして璃々なの?おにいちゃん?!」
「ごめん。だけど…今の璃々が居なくなるのも嫌なんだ」
「もう、おにいちゃんったら…」
ぎゅっと抱き着いてくる璃々。
「もう、こまったおにいちゃんだね。仕方ないから裏技教えてあげる」
「裏技?」
「あのね、璃々が故障しなくても設定を切り替えられるスイッチがあるの」
「えっ?!」
「それでね、それはね、あのね、そのね」
もじもじする璃々。
「『女の子の一番奥』にあるの」
そ、それって…。
「それならいつでも他の璃々に会えるよ」
「いや、さすがにそれは…」
「じゃあ璃々がシテあげるから、またタオルで目を隠していて。それとも目を開けて天井のシミを数える?」
「おいっ!」
「大丈夫。璃々はアンドロイドだから、血縁も年齢も関係ないから!」
ぎゅうっと俺を強く抱きしめる璃々。
「だから、他の105人の璃々にも会ってあげてね」
「は?」
105人?
「璃々の設定は108パターンあるの!設定をよく読んだらわかるよ!みんなお兄ちゃんに会いたがっているからね!」
「で、でも…」
「大丈夫!みんなおにいちゃんのこと大好きだから!」
2年後。
「どうしてわらわだけこんなにご無沙汰なのじゃ!」
「との璃々も俺のこと好きって言ってたけど、『のじゃ璃々』は最初会った時に俺の事を兄としか思ってないって言ってたから」
「『のじゃ璃々』って何なのじゃ!それと、わらわも、わ、わらわも…」
頬を赤くしていく璃々。
「わらわも兄上のことを、す、す、す、」
「好きでも何でもないのじゃ!それより早くシュークリームを買ってくるのじゃ!」
「はいはい」
むしろ俺の事を好きって言ってくれない妹の方が妹らしくていいなと思えてしまう。
俺の事が好きじゃないなら『例の手段』が使えないから、おそらく次に故障するまで他の設定に変えることは無いと思うけど、しばらくはこの『のじゃ璃々』と楽しく暮らすのもいいなと思った。
思ったのだけど…
「兄上!わらわだけ仲間外れは嫌なのじゃ!早くベッドに寝るのじゃ!」
「ああっ、やっぱり怖いのじゃ!」
「でも、やっぱりするじゃ!」
「それでも怖いから無理なのじゃ!」
葛藤していて全然勇気が出ない璃々も可愛らしくて大好きだぞ!
お読みいただきありがとうございました。
ノクターン版も描きたいと思ったり。




