6、ちゃんと褒めてよ
店員さんにクスクス笑われながらも、どうにかオススメの服を何着か見繕って貰えた。
値段と防御力とデザインの要望に笑顔で応えてくれる店員さん、流石です。
服を受け取った私はそのまま試着室に通され、喜六君は待ち人用の小さな椅子を勧められていた。
あまり待たせると寝てしまうだろう。
私には少し派手じゃないかと思う服もあるし、いくつか試着したフリだけして早めに切り上げよう。
カーテンを閉めて大急ぎで着替えていると、外から声がかかってきた。
「……着たぁ……?」
「え!? あ、うん。今二着目だよ」
「えー……着たんなら見せないとダメなんだよー……」
なん……ですと……?
私にとって試着はあくまでサイズを確かめる為のものであって、人に見せるという発想は微塵も無かった。
更に言うと居眠りしないで待っていてくれた事にも驚いている。
声がかなーり眠そうだけど、大丈夫なの喜六君。
何となくバツが悪い思いでカーテンを開けると、背中を丸めて膝に肘を付いた喜六君と目が合った。
おぉ、ギリギリ起きてる。凄い!
私は恥ずかしさを悟られないよう注意しながら、オレンジ色の刺繍が入ったワンピースを少しだけ広げてみせた。
君的にはどうですかね、この可愛らしい服は。
「えーっと、どうかな?」
「んー……良いんじゃない?」
「そ、そっか……!」
うわぁぁ! 良いんですかそうですか!
褒められたのは服だろうけど、それでも嬉しい。
すっかり舞い上がった私は次の服を試着するべくカーテンを閉めた。
◇
「良いんじゃない?」
「…………」
彼の四度目の言葉に私の気分はガタ落ちである。
だって喜六君、全部同じテンションで言うんだもの。
眠たげなのは仕方ないにしても、もう少し言い方のバリエーションがあっても良いと思う。
もはやこの言葉は「(どうでも)良いんじゃない?」という意味なのではなかろうか。
「……はぁ、もう良いよ、喜六君」
「? なにがぁ?」
「無理に褒めなくて良いって事」
あ、まずい。
彼に悪気はないって分かってるけど、つい棘のある言い方をしてしまった。
こんな事を言いたい訳じゃないのに、私の口は意に反して可愛げのない言葉が続く。
「喜六君にとって、どうせ全部同じなんでしょ。どれも変わらないんでしょ?」
ぎゃぁぁ、自重して私の意地と口ぃ!
そして私は何様だぁ!
そりゃ喜六君からしたら私が何着ようが似合ってようがいなかろうが関係ないし、どうでもいいって話ですよ。
誰か今すぐ私の口か息の根を止めて欲しい。
残念ながら出した言葉は戻らない。
早くも後悔しているくせに謝る事も出来ず立ち尽くしていると、黙っていた喜六君が口を開いた。
「同じじゃないよ?」
「っ、だって、全部『良いんじゃない?』って……!」
「? だって、全部良かったよー?」
胸が痛い。
ズキズキともズキュンともいえる、思わぬ激痛だ。
これが良心の呵責か。
「う……じゃ、じゃあ! 喜六君的には……どれが一番良かった?」
「三つ目ー。二番目はねぇ、最初のやつー」
まさかの即答に息が止まる。
え、君の中ではちゃんと順位あったの?
何て事を言ってしまったんだと改めて後悔の波が押し寄せてきた。
「あ、ありがとう。その、ごめんね、嫌な言い方しちゃって……」
「別に良いよー。それより服買うの?」
「! か、買うっ!」
買いますとも!
私は最初に試着した刺繍入りワンピースと、彼が一番良かったと言ってくれた水色のワンピースを購入しに店員さんの元へと向かった。
この服、大事に着よう。
「ありがとうございましたぁ。またのお越しをお待ちしておりますぅ」
会計を済ませる僅かな隙に船をこいでいた彼を起こし、色々な人に笑われながら店を後にする。
ふと気になってしまい、まだどこか寝ぼけ眼の彼の服を軽く引いた。
「そういえば、試着してる時は寝なかったの?」
「……んー……いつ出てくるか分かんなかったしねぇ……」
「そっか……何かごめんね。随分と無理させちゃって」
授業や食事ですら睡魔に負ける彼が頑張って起きてくれていた事が嬉しいけど申し訳ない。
反省の意を示していると、喜六君はキョトンと小首を傾げた。
「? そんなに無理してないよー」
「え、でも眠りたかったでしょ?」
「んーん。僕、楽しい事する時は大体起きてるよー、つまんなくなったらすぐ寝るけどねぇー」
何それ初耳なんだけど。
って事は何か。
私の着替えを待つ時間が楽しかったって事なのか?
それってかなりむず痒いんだけど。
「リーアヤードさん、着せ替え人形みたいで面白かったよー」
「せめてファッションショーと言って欲しかったかな」
台無しだよ。
ちなみにこの後は雑貨屋や魔法道具屋に寄ったり、普通に食事をして解散した。
驚いた事に、別れ際に魔力を高める魔水晶をプレゼントしてくれるというサプライズ付きだ。
「楽しかったからお礼ー」と笑う喜六君の幸せフェイスを見てしまっては受け取る以外に道はない。
彼が丸一日起きていただけでも奇跡なのに、贈り物までされるなんて夢にも思わなかった。
明日は剣が降るかもしれない。
そんな失礼な事を思いながら、私は小さな魔水晶をポケットにしまうのだった。