5、一緒に出かけてよ
グループ研究もつつがなく終わり、特に何もない日常に戻る……筈だった。
そもそもの始まりはグループ研究の女子メンバー達によるお節介である。
彼女達は何かと私と喜六君の仲を取り持とうと盛り上がり、ついに行動に移してしまったのだ。
「ねぇ喜六! アンタ次の休み、ラズリーの買い物に付き合ってやってよ!」
「……んー? 何で僕ー……?」
「何でって……ほら、女の買い物には男手が必要だし! 必要なの!」
いやいやいや、食料品の買い出しでもないのに、そんな男手がいるようなデカい買い物した事無いんだけど!
そもそも私、今は買いたい物とか特に無いんだけど!
そう突っ込もうとしたけれど、喜六君が「そっか~」なんて納得しちゃうものだから閉口してしまった。
「じゃあ貸すよー」
「(貸す?)よっしゃ、決まりね! ちゃんとラズリーの事、エスコートしなよ!」
「んー……」
今の多分、(男手を)貸すって意味だったんだろうな……
圧縮言語すぎる。
っていうか巻き込んでごめんね喜六君。
けど折角了承してくれたのに今更断るのも申し訳ないし、彼には悪いけど次の休みは睡眠時間を犠牲にしてもらおう。
こうして私達はあれよあれよという間に二人で出掛ける事になってしまったのだった。
◇
で、休日。
私は多くの人が行き交う広場の片隅──のベンチで安らかに眠る喜六君を発見した。
少し迷ったものの、肩をつついて起こしにかかる。
震えるな、私の指。
ややあって目覚めた彼は目を擦りながらボケーッと私を見上げてきた。
……一体いつから寝てたのだろうか。
「ごめん、時間通りに来たつもりだったんだけど……待った?」
「……んー、寝てたから平気ぃ」
それ平気って言うのかな……
話によれば遅れないよう早めに待ち合わせ場所に来たは良いものの、そのまま寝てしまったらしい。
何やってんだ。
「じゃー行こっかぁ」
「あ、うん」
ゆったりと歩き出す喜六君が何だか新鮮だ。
いや、いくら彼でも学院の中を歩く姿位は目にするけども。
でもやっぱり、外を歩く姿は新鮮に思えた。
「そーいえば、何買うの?」
「えっと、服屋と魔法道具屋を見たいんだけど」
「あー……コートかぁ……」
「?」
噛み合ってるようで噛み合わない会話をしながらのんびり町を歩く。
これがまた妙に楽しいのだから不思議な話だ。
ところがどっこい、私が浮かれていられるのは店に着くまでの間だけだった。
「え、えと……ここ、なんだけど……」
「へー」
辿り着いたのは友人達に勧められた若い女性向けの服屋。
思った以上にお洒落感とキャピキャピ加減が凄まじい店である。
これはまずい。
いつも無地のシャツやワンピースにローブ着て誤魔化してるような低女子力の私には敷居が高過ぎる店だ。
しかも連れは男の子。
しかもそれが喜六君!
ただでさえ眠気に堪えている彼に、これ以上精神的苦痛を与える訳にはいかない。
「や、やっぱ他の店にしよっか! ほら、あっちの防具屋でも魔法使いの服とか売ってるし!」
「んー、でもこっちのが良いと思うよー。あっち可愛くないしさー」
そりゃそうだ。
鎧や兜を求める冒険者が訪れるような防具屋に可愛い物がある訳ない。
「でもほら、ここ入りにくくない?」
「? ドア空いてるよー」
「いや入りにくいって物理的な意味じゃないから」
薄桃色の扉をパカパカする喜六君は本当に何も気にしていないようである。
君の図太さほんと凄いな。
結局喜六君の後ろについていく形で入店してしまった。
華やかな装飾の店内に色とりどりの服──
可愛い子ばかりのお客さんに、美人の店員さん──
私達、ちょっと場違いじゃない?
自分の着ている白に近いグレーのローブをクシャリと握る。
持ってる服の中でもお洒落めの物を選んだつもりの結果がこれだよ。
何でシンプルなモノクロ系をチョイスしちゃったの、今朝の私!
最近流行っているのはパステルカラーや細かい花柄の服らしいけど、目がチラついてどれも同じ服に見えてしまう。
「何買いたいの? コート?」
「え!? あ、いや、中に着る服……かな」
「ふーん」
不審者よろしくしどろもどろになっていると、喜六君はあっさりと私から離れていってしまった。
ええぇ置いてかないでぇ!
……と思っていたら、どうやら彼は店員さんを探しに行ったようだ。
意外な行動力に驚きが隠せない。
「ねぇねぇ、この子に合う服、ありますかぁー?」
「はい! ただ今伺います!」
「あるってー」
いや今の「はい!」 はちょっと意味が違う気が……まぁ良いか。
のそのそと私の元へ戻って来る彼のペースが掴めない。
「どのような服をお探しですか?」
「んーと、魔法使いの服でー、中に着るやつでー、女の子の服でー」
「ちょ、喜六君! 私自分で言えるから!」
説明下手か! と思ったけど、店の空気に尻込みしている私に対する彼なりの気遣いだったのかもしれない。
……そう思っとこう。
噛み合わない会話の補足↓↓
ラズリーの友人の発言「エスコートしなよ!」に注目。
適当に聞いていた彼の中には「コート」という単語しか残っていなかったようです。




