4、変な事言わないでよ
グループ研究の課題が出された。
決められたテーマの研究を行い、後日発表するという物だ。
私は運悪く第一希望の魔法薬研究からあぶれてしまい、魔法陣の研究グループになってしまった。
そしたらなんとその研究メンバーの中に喜六君が居たのだから驚いた。
このグループは男子十人、女子六人の全十六人。
一年生は百人以上もいるのに凄い確率である。
活動開始早々、男子が詳細案を出し合う間に女子が関連資料を借りに行く手筈となり、偶然にも魔法陣に詳しい先輩と出会えた事で、私達は早く研究室へ戻る事に成功する。
……が、ここで問題が発生した。
「な、な、うちのグループの女子どう思うよ?」
「そりゃもう断然メアリアナだわ。オッパイでかいし」
「あ、俺も俺も! 巨乳最高!」
そう、研究室内でボーイズトークが展開されていたのだ。
しかも内容が酷い。
扉に手をかけたまま固まるメアリアナの顔が恐ろしくて直視出来ない。
息を潜める私達に気付かず、彼等の無神経な話は続く。
「俺はキャサリンかな。服エロくね?」
「わかる!」
「ベル一択。顔が三十点なのが良い」
「お前ほんとブス好きな」
もうやめてー!
キャサリンの目は据わり、ベルからは殺気が漏れている。
盛り上がる彼等に対してこちらは完全にお通夜状態だ。
扉を開く勇気もなく冷や汗を流していると、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「なぁ、喜六はどうよ?」
「んー? んー……」
「お前まさか目ぇ開けたまま寝てんのか?」
「いやー……まだ起きてるふぁ……」
あくび交じりの間延びした声に安心する。
誰かが「喜六に聞いても女子の違いなんて分かんねぇだろ」と笑っているが、私もそう思う。
お願いだからそのままマイペースな君でいて欲しい。
彼等の興味はあっさりと喜六君から別に移る。
録な返事がないんだから仕方ない。
少し残念な気がしたのは多分気のせいだ。
「おい誰かアンジーにも触れてやれよ」
「流石にねーよ」
「ケンタウロスはなぁ」
「ケンタウロスは擁護できねぇわ」
本当にもうやめてー!
鼻息を荒くしたアンジーが鬼の形相で扉をブチ開けた。
バキッとドアノブが壊れた音がして騒がしかった室内が静まり返る。
ヒェ……
ふとケミィと目が合った。
そういや私とケミィは名前すら上がらなかったな。
何か言われるのも嫌だが、全く何もないのも癪である。
どう転んでも不快だなんて、なんて罪深い話題なんだろう。
「……あんた達、随分好き勝手言ってくれたわね……」
「あ、や、悪ぃ……」
真っ青になる男子一堂……いや、九人か。
喜六君は一人ポヤンとした顔で頬杖をついている。
「サイテーなんだけど」
「マジあり得ない……」
「つーかアンタらに好かれてもキモいだけだわ」
「あとアタイ彼氏いるから。ケンタウロスでも彼氏いるから」
「ヒィィ!」
静かにキレるってこんなに恐ろしいものなのか。
いや立場的には私も怒れる側なんだけど、彼女達に圧倒されてしまって何も言えない。
どうにもならない最悪な空気の中、唐突に間の抜けた声が上がった。
「……あー、僕はねぇー、リーアヤードさんが良いなぁって思うよー」
「「「はぁぁ!?」」」
綺麗に全員の声がハモった。
まさか今まで返事が無かったのって、ずっと答えを考えていたからなのだろうか。
どんだけ思考が遅いんだ。
話題の乗り遅れにも程がある。
いやそんな事はどうでもいい。
君今何て!?
「僕を起こしてくれる時、控えめにツンツンしてくれるんだぁ」
わぁー、やめてぇー!
「他の人はよく知らないけどさぁ、お喋りで面白いんだよー」
わぁぁー、本当にやめてぇぇー!
急に色めき立つ周りの視線が痛くて辛い。
っていうかお喋りって思われてたんかい!
そうでもないよ!
ただ私から話しかけないと会話にならないからそう感じられるだけだから!
言いたい事は色々あるのに言葉が出ない。
ヒューッとざわつく周囲の声に一瞬怯んだ喜六君は、私と目が合うとフニャリと笑って「ね?」と同意を求めてきた。
いや私に聞かれても!
何だか照れるのも馬鹿らしくなって、私は乱暴に資料を机に叩きつけた。
もう知らん!
下らない話は止めてさっさと研究進めなくちゃ!
因みに喜六君は活動再開と同時に寝落ちしてた。
いや、そこは起きててよ。