3、気付いてよ
そこまで強く言われた訳ではない。
彼女達に悪気が無いのも分かっている。
友人としてのアドバイスなのだとも理解している。
それでも刺さる言葉というのは確かにあるのだ。
──ラズリーさぁ、ちょっと地味すぎない?
──もうちょいお洒落すれば良いのにぃ。
勿体ない、と言われたのがせめてもの救いだが、それでもかなりショックだった。
まるでありのままの自分を否定されたような気分である。
どうせ私は真面目でダサいですよー……
何度目かの溜め息を吐き、訪れたのは巷で評判の美容室だ。
長らく放ったらかしだったこの頭をどうにかして厄落としとしよう。
「いらっしゃませぇ~、こちらへどうぞぉ~」
げ、物凄~く今風な女性店員さんに当たってしまった。
少しだけプリン状態のブロンドヘアーが様になってる派手めのお姉さんだ。
うわぁ、今更だけど何で私こんなイケイケでお洒落な美容室をチョイスしてしまったんだろう。
場違いなようで恥ずかしい。
「どうされますぅ?」
「えと、カットをお願いします」
「ふんふん、どんなカンジに?」
「んーと……今どんなのが流行って……あ、いや、出来れば私に合いそうな感じでお願いします」
「アッハッハ! そんな不安がんないで、まっかせて下さいよぅ! アタシがバッチシお客さんに似合う流行りの髪型にしてあげるからさぁ!」
自信に満ち溢れているお姉さんの言葉を信じよう。
それにしても口調がどんどん砕けていってるような……気のせいだろうか。
「やっぱさぁ、髪型変わると気持ちも変わるよねぇー!」
「は、はぁ」
気のせいじゃなかった。
フレンドリーなお姉さんは髪の手入れやらアレンジの仕方やらを止めどなくレクチャーしてくれる。
その間にもショキショキと軽快に鋏を入れられ、洗われ、コテで巻かれ──あれよあれよという間に内巻きゆるふわミディアムヘアーとやらに変身されられてしまった。
凄いとしか言えない。
「どう? こんなカンジで」
「す、凄いです! 凄く可愛いです!」
「アッハッハ! そりゃ良かったぁ!」
派手過ぎず、でもお洒落。
髪型だけなら完全に今時の女子って感じだ。
まるで魔法にかけられたような気分である。
ありがとう、ギャル店員のお姉さん。
お陰で満足度の高い厄落としが出来ました。
お代を払って店を出る際に言われた「アンタ、店に来た時よりずっと良い面してるよ」と言う言葉は暫く頭から離れそうにない。
本業は学生だけど、これからはもう少しだけお洒落にも気を配ろうと心に決めた。
◇
「おはよう喜六君!」
「……んー……? おはよー……」
すっかり気力回復した私は、朝イチで友人達に褒めて貰った勢いのままに喜六君の元へと向かった。
まぁ彼の元っていうか、行き着く先はその隣の自分の席なんだけど。
前髪を整えながら興奮気味にドカリと着席すると、彼は音に驚いたのか少しだけ重たい瞼を持ち上げた。
あちゃ、今のは流石にテンション高すぎたね……反省。
「あ、騒がしくてごめんね。いやぁ、実はさっき友達に褒め」
「……んーと、そこはねー。リーアヤードさんの席だよー」
「……は?」
「来たらどいてあげてねぇー、おやすみぃ……」
今、何て?
彼はそれだけ言うとフワァと大あくびをして腕を枕にして眠りの体勢に入ってしまった。
「え、ちょ、嘘でしょ!?」
考えるでもなくパッと名前が出てきた事を喜べば良いのか。
髪型が変わっただけで別人認定された事を驚くべきなのか。
そもそも顔を覚えられてないという可能性を悲しむべきなのか。
ドスヤァと寝息を立てる彼にかける言葉が見つからない。
彼の誤解を何と言って解こうか──
この日、私は一日の大半を複雑な思いを抱えて過ごすはめになるのだった。