13、オマケとあとがき
ある休日、彼の家にお呼ばれした帰り道での事だ。
家まで送ってくれるという彼の厚意に甘えた私は、とにかくヘロヘロのクタクタだった。
「すき焼き美味しかったねー」
「……そうだね……」
大家族からの質問攻めという名の揉みくちゃに遭い、正直すき焼き所ではなかった私──
対して喜六君は日常茶飯事とばかりに平然としている。
これが慣れの差というやつか。
「剣五君や三番目のお兄さんが居なかったのは残念だったねぇ」
「えぇ~、そう?」
「え、ここでまさかの塩対応? 普段あんなに家族大好きオーラだしてるのに!?」
ツンデレなの? と彼の意外な一面に驚いたものの、表情から察するにどうやら違うらしい。
何なの。
「気になるから言ってよ」とダメ元でごねてみると、少し拗ねたように目を逸らされた。
「……ラズリー、すぐ剣五と七美の話するでしょ?」
「まぁ同級生だし、友達だし」
「七美はまだ良いけどさぁ……剣五の話されるのはなんかやだなぁーって思って」
「あ、う、うん……? ごめん……」
顔を逸らしたままでは歩けず、ムゥーッとしたまま足元に目を落とす彼が可愛すぎる。
え、やだ焼きもち!?
あの何事にも広い心でゆったりまったりのーんびりな喜六君が!?
「三番目の兄さんはねぇ、すごく格好良くて、女の子にモテるんだー。……だからラズリーにはまだ会って欲しくないんだよねー」
「兄さんが今日仕事で良かったよー」と呟く彼の横顔に我慢の限界を感じる。
これ以上はダメだ、心臓が辛い。
なんかもう今すぐ抱きしめたい、この生き物。
「あ、あのね、喜六君。もし良かったら、」
「……なんか昔っからさぁ、いつも僕ばっかりラズリーの事好きでいる気がするー」
あぁもう、いちいち許可取るのも面倒くさい!
そんな馬鹿な事を言うなら、こちらも好きにさせて貰うとしよう。
私は柄にもなく「えいっ」と問答無用で彼の首に抱き付いた。
「んぇ? どうしたのー?」という間の抜けた反応は想定の範囲内。
返事の代わりに唇を押しつけてやれば、彼はいつになく真面目な顔で両目を閉じたのだった。
<了>
<あとがき>
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。
いきなり数年後とか唐突では? とか、物語の大半が回想シーンかい!
……とか思われそうですが、この流れ自体は最初から決めてました。
(あとは単に表現と描写の力量不足です、大変申し訳ない)
喜六は以前、檸檬 絵郎様の個人企画「プロセニアム企画」に提出した短編小説、「一家だらーん」の登場人物です。
そちらでは台詞が一つしかない不遇な彼でしたが、まさかメインの登場人物となって作品になるとは思いませんでした。
元々はだらーんとしたお話です。
かるーい気持ちで楽しんで頂けたなら幸いです。
ご興味のある方は「一家だらーん」の方も覗いてやって下さいませ。
https://ncode.syosetu.com/n1588gc/
<登場人物の裏話>
ラズリー・リーアヤード
一見地味で大人しいけど内弁慶。
実は構って欲しがり屋で負けず嫌い。
女としての自信はかなり低め。
真面目で厳しい姉がいる。
姉 (ラピス)の方は同作者の別連載にてチラリと登場しています。
喜六
十人兄弟の六番目にして五男。
眠気のあまり思考回路と口調がトロいだけで、実は普通の男子。
眠すぎて発言を短縮化しがちだけど、目が冴えている時は普通(ただし滅多に見られない)
名前は喜び→ニッコリ→ニコと、六のフランス語→スィスを合わせたもの。
剣五
十人兄弟の五番目にして四男。
脳筋だけど熱くて良い奴。
喜六とは瓜二つ。
でも表情と動作と声のでかさですぐ見分けがつきます。
名前は剣→スパーダと五はジャンケンのパーを合わせたもの。
七美
十人兄弟の七番目にして次女。
猫被り系の優等生美女。
ちゃっかりしてるし、兄弟相手なら容赦も遠慮も躊躇もない。
髪色や髪質は上記二人とよく似てる。
名前は七のスウェーデン語→フュと、美しいで適当に調べたら出てきたベルダ(beldad)を合わせたもの。
<各話裏話>
1、名前くらい覚えてよ
ラズリーが彼に対して明確に興味を抱いた日のお話。
元々「変わった子だなぁ」程度には気になっていました。
喜六が名前を思い出せたのは本当にたまたまです。
2、話を聞いてよ
喜六がラズリーに興味を持った回。
ラズリーは「ちゃんと聞いてるの?」と不服かもしれませんが、そもそも彼が話を切り上げずに会話をしている事自体が珍しい事でした。
3、気付いてよ
悲報:髪型変えたら気付かれなかった
彼は素でした。
ちなみに美容室のギャル店員さんは彼の姉(長女、四葉)です。
世間は狭い。
4、変な事言わないでよ
彼は素です(二回目)
ただ楽しそうな友人達にラズリーの行動の好きな所を丁寧に教えてあげただけなのです。
5、一緒に出かけてよ
姦しい女兄弟がいる彼にとって、女性らしいお店は何の苦でもありませんでした。
6、ちゃんと褒めてよ
姦しい女兄弟がいる彼にとって、試着した服の感想を言うのは義務であり、何の苦でも以下略。
7、説明してよ
誤解回。
お出かけ楽しんだ代償に寝坊したようです。
日頃から「恥ずかしいから学院では話しかけないで!」な妹七美。
学生らしいですね。
兄妹喧嘩となれば流石の喜六も激おこだったようです。
8、先に言ってよ
「いやぁ、俺マジでピンチだな!」
無意識にラズリーとベタベタしてしまった剣五。
彼には喜六の地味な苛立ちが伝わった模様。
兄妹に対抗して急にラズリーを名前で呼びだす喜六の年相応ぶり(?)が注目ポイントです。
9、自重してよ
一気に懐かれた回。
そして親しくなればなる程に簡略化されていく会話。
喜六の圧縮言語は非常に面倒くさい奴のそれです。
それだけ気を許しているのでしょう。
10、見つけてよ
唐突なシリアス回。
全く笑えない展開の筈なのにどこかズレてる所がラズリーです。
綺麗な泣き方は女優さんにしか出来ないと思います。
ちなみにこの時点でのラズリーは喜六への好きはライクだと思ってる節が強いです。
そう思い込もうとしているだけなのかもしれませんが。
11、助けにきてよ
ヒロインのピンチに颯爽と現れる格好いいヒーロー……にはなってくれませんでした。
あくまでも彼は充電パック要員として頑張りました。
でも喜六が居なければ誰もラズリーの元まで辿り着けなかったので、やっぱりヒーローです。
余談ですが、彼の魔力タンクはチートとまではいかないまでも、かなりの物です。
自分一人ではその力を引き出せない残念仕様。
12、ちゃんと紹介してよ
最終話にして設定詰め込み回。
本当はもっと早く出したかった彼の設定が、こんなギリギリ発表になってしまったのは誠に遺憾の意であります。
あ、安心して下さい。この二人、ちゃんと交際してますよ。
二十二~四歳位を想定しています。
13、オマケ
この後の展開はご自由にお考え下さい。
喜六が「すき焼き味だねぇー」と台無し発言をかましてラズリーに怒られるも良し。
目を開けた喜六の眼差しが熱っぽい男の目になって送り狼になるも良し。
「ラズリーさーん、お土産忘れてるー……あっ……!」と追いかけてきた末っ子に目撃されて、ラズリーと末っ子が真っ赤になるも良し。
……いや、これ以上はヤボってもんですね。
も う 何 も 言 う ま い (※散々言った後です)
以上、あとがきという名の蛇足でした。
最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました!