生まれくるきみへ
原曲:Sound Horizon 「11文字の伝言」
作中には、曲をイメージにした表現が多々あります。また、原曲をイメージもとにしただけですので、原曲解釈とは異なります。
ああ、あなたは恨むでしょうか。
あなたを置いていくことを、恨むでしょうか。
私は何より、あなたを愛していました。
私は誰より、あなたを愛していました。
いいえ、今でも愛しているのです。
けれどどうか、許してください。赦してください。
私には、あなたのそばにいることができないのです。
私はありふれた生活をしてきました。ついてない人生を送ってきました。
貧しくもなく裕福でもなく、特別目立っているわけでもなく穏やかで温かな生活でした。
しかし家族がいながら、私はいつも孤独でした。私の心は、いつの時も独りだったのです。
寂しさに潰されそうなときもありました。一人ぼっちの孤独感に耐えられなくなり、心が瓦解してしまったときです。どんなに家族と笑いあっても、その孤独感が消えずに私の心を塗りつぶしてしまった時でした。
優しい姉と幼い弟は、私のそばにいてくれました。感情のままに傷つけても、そばにいてくれました。穏やかな父と美しい母も、私を気遣ってくれました。その時ほど、家族に申し訳なさが生まれた時はありません。私のことを、何よりも考え愛してくれていたのだと心が感じたのです。
それでも、私の孤独感は消えずさみしい時間はなくなりませんでした。
けれど周りの人々に、そして家族に助けられて、私は生きてきました。
そうしてやがて独り立ちして、私も家族の家から飛び出しました。
初めての一人暮らしで、何もかもが新鮮だったのを覚えています。それほどに何もなく、それほどに何かがあり、それほどに私を震撼させたのです。
いかに私は、助けられてきたのでしょう。
少しして、愛する人と出会いました。何よりも愛しい人でした。
その人といるうちに次第にさみしさも孤独も失い、家族となった特別の日を迎えることができたのです。
けれど家族となり、共に過ごしていく時間の中で、その人はいなくなりました。
私とは違う時間に身を置くことになったのです。違う場所へと逝かなければならなくなったのです。離れた時の孤独感は、何物にも耐えがたい衝撃でした。
再び独りになった悲しさが私を襲ったとき、救ってくれたのはあなただったのです。
あなたは知ることもないでしょう。私がどんなに、あなたを待っていたのか。
愛する人との別れすら、あなたへ出会うための道のりだったのです。
温かな光とともに、あなたは私の元へ訪れました。
あなたは知るすべもないでしょう。その時私が、どれほどに感激したのかを。
それまでのすべての人生も、生活も、些細なことに思えたのです。
私はあなたに会いたかった。私に宿った確かな光。
だから何を言われようと、あなたに会うために頑張った。頑張れた。あなたが私を支えてくれたのです。
あなたに会うことが、私の生きるすべてになったのです。
そばであなたの時間を見守ることは、もうできないでしょう。
傍らであなたの成長を見届けることも、叶わないでしょう。
けれど私は今でも鮮明に思い出せるのです。あなたが私と出会った瞬間を。
あなたはすべてに祝福されて、すべてに愛されて、生まれてきました。
私はあなたの傍にはいられないでしょう。その時間すら、もうないのです。
けれどどうか、忘れないでください。あなたは、望まれて生まれてきました。
それだけを、忘れないでください。覚えていてください。それこそが、あなたの始まりなのです。
あなたは私の誇りです。出会えたことを、これほどに喜んだことはないでしょう。
私の生涯は、あなたのためにあったのかもしれません。
たとえ傍にいられずとも、私はあなたの傍にいます。
どんな苦難にも、諦めず立ち向かいなさい。凛と往きなさい。
愚かな母の、最期の願いです。唯一の願いです。
ごめんなさい。独りにしてしまうことが気がかりです。
ありがとう……。あなたに出会えて、私は幸せでした。
あなたが今生きている、そのことこそが、私の生きた証。それが私の物語。私の人生。
ありがとう…。
あなたは、幸せにおなりなさい。