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B・レイズ  作者: 島津 高志
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第五話 再会

埼玉県にあるバスケットボールのクラブチーム“埼玉ブルーブレイズ”。


ブルーブレイズはチーム存続の危機に晒されていた。


その状況を打開すべくとある人物を招集した。


その人物の名は本条蔵之介。


蔵之介は東北にある大学へ通う学生だが、インターンシップでスタッフとしてブルーブレイズのサポートを行う事となった。


そして、蔵之介は埼玉に戻り、インターンシップで必要な物を買い揃えていたところを幼馴染みであり、蔵之介を呼んだ張本人であり、ブルーブレイズの選手である八十順平から自宅へ来ないかと誘われる…

蔵之介は彷徨っていた。


「うーむ…」


左右辺りを見回すが、似たような建物が建ち並んでいる。


「…まったく、あいつの家はどこなんだ?」


蔵之介は軽く頭を掻く。蔵之介は現在、所沢市内の航空公園・新所沢周辺にいるのだが、この辺一帯はベッドタウンであり、集合住宅が多い。蔵之介はスマホを片手に八十から伝えられた住所を探していた。


「メゾン白糸…ここか。」


蔵之介はようやく順平の住んでいるマンションを見つけると、すぐさま教えられた号室に向かい、部屋の前に立ちインターホンのボタンを押す。すると、すぐに応答があった。


『はい?どちら様ですか?』


「俺だ。本条だ。」


『おう来たか蔵。今開けっから待っててくれ。』


「ああ。」


少し待つとガチャンと音がして、ドアが開いた。


「よう。」


「待ってたぜ。蔵。」


「おう、久々だな。八十。」


「まぁ、立ち話もなんだから上がってくれ。」


「遠慮なく邪魔させてもらうぜ。」


蔵之介は順平の自宅の中へと入り、リビングに通されると順平の奥さんである八十千香が待っていた。


「いらっしゃい。蔵之介君。」


元々、蔵之介と順平と千香は幼馴染みであり、顔見知りだった。


「よう、宮代…じゃなかった。今は八十夫人だったな。」


「いいよ、宮代で。昔からそう呼ばれてたから、そっちの方が慣れてるし。」


「そうか?ならいいんだが。…あ、そうだ。」


蔵之介は千香にチョコレートを差し出す。


「これ、つまんないものだが。」


「わぁ、チョコレートだ!ありがとう。」


「…にしても、沢山買い物したなぁ蔵。」


「まぁな。色んな店見ている内に、コレも必要だろうと思っていたら、次々と買い込んでしまってな。」


そう言いながら、蔵之介は荷物を部屋の隅へ置いた。


「ふーん。あ、バッシュ見せてくれよ。」


「ん?あぁ、いいぜ。…ほれ。」


順平は蔵之介にバスケットシューズの入った袋を渡され中からシューズを取り出した。


「へぇ、結構良いやつ買ってきたんだな。」


「まぁ、一応バスケットボールチームのスタッフとして来たんだ。型落ちではあるが、それなりのを…な。」

 

「そうか。サンキュー。」


順平はシューズを袋にしまい、蔵之介に返した。


「さて…と。」


蔵之介はテーブルの席に着く、すると千香がコーヒーとチョコを蔵之介の目の前に置く。


「はい。インスタントだけど。」


「お、すまんな。」


同じように順平の目の前にもコーヒーとチョコが置かれる。


「サンキュー。ん?美味いなこのチョコ。」


順平はすぐにチョコを頬張る。


「さて、八十よ。早速で悪いのだが、今のチームの内情を教えてくれないか?」


「ああ。わかった。」


「まず、今年の新戦力は?」


「とりあえず、ルーキーとして大卒の奴が一人加入したのと、東京のチームからトレードで一人。」


「助っ人外国人は?」


「去年に引き続き、同じ奴が二人。今のところはな。」


「逆に出た人は?」


「一人が引退。もう一人がトレードで東京のチームに。」


「なるほど。戦力的にはあまり変化ないのか。」


「まぁな。ただ、シーズン途中で新外国人選手は一人二人は入るだろう。」


蔵之介は考え込む。


(となると、スター選手を排出させて人気を上げる線は無しか…)


「ん?どうした蔵?」


「ん?ああ、悪い。まぁ戦力に関しては今ある戦力を地上げするしか無いな。その辺の問題はコーチ陣が何とかしてもらわないといけないし、俺が干渉できんだろう。となると、問題は運営状況かの方だな。」


「そうだな。ただ、電話で予め話したように、最近は新規のスポンサーの獲得や、観客動員数の増加が困難な状態が続いててな。」


「そういう話だったな。」


「今のリーグが発足されて以来、昇格どころか、入れ替え戦すら一度もできてなくて万年弱小チームのレッテルを貼られているからな。なかなかファンの獲得が上手くいかない。」


「まぁ、強いチームが好きって言うのはどのスポーツでもあるからな。」


「そうだな。でも、地元愛が強いブースター(バスケにおけるファンの人)の人たちがいてくれるから、今もなんとかほそぼそとやって行けている。」


「だったら、そういった人達を大切にしつつ、新しいブースターを獲得しなくてはな。」


「ああ。」


「…さて、どうしたもんかな。」


蔵之介は天井を見上げる。すると、千香が。


「ねぇ、蔵之介君。晩御飯食べてく?」


「いや、話だけしたら帰るつもりだから、お構いなく。」


「おいおい、遠慮すんなって。食べてけよ。」


「そうだよ。せっかく三人揃ったんだし。」


「…そうか?じゃあ、いただこうかな。」


「それじゃ、準備してくるね。」


「悪いな。」


千香は台所へ向かった。


「それで、まずは何からするんだ。」


「まず気になったのは、試合で空席が多い事だな。特にホームにしている体育館なんだが、あれだけ大きく、収容人数も申し分無いからな。何とかして人で埋めつくさないと、勿体無い。」


「うーん。やっぱりか?」


「ああ。」


「でもさ。さっきから言ってるように、ブースターが増えんことにはな…」


「まぁ、確かに…そんな都合よくブースターは増えないだろう。そこは地道に集めんとな。しかし、座席を埋めるのは意外と楽にできるさ。」


「何か考えがあるのか?」


「もちろん。ただ、それをするにはちと問題があるがな。」


「なぁ、それって大丈夫なのかよ?」


「安心しろ。そのための俺…だろう?こっちの件は上手くやるから、お前さんはお前さんのやるべき事をやりな。」


「わかった。頼んだぜ。」


「おう。」


ここで話に区切りがついた頃、千香が台所から土鍋を運んでやってくる。 


「あ、ちょうど話は終わったかな?」


「まぁ、あらかたの話はな。」


「じゃあ、御飯にしよう。順平君、ガスコンロ出して。」


「ん、ああ。ちょっと待っててくれ。」


順平は慌ててテーブルの上にガスコンロを設置した。すると、千香はその上に土鍋を置いて、火を着けた。


「煮えるまでちょっと待っててね。」


「今日は何にしたんだ?千香。」


「寄せ鍋だよ。」


「おー。今日は冷えるからな。ありがたいぜ。」


「あ、そうだ。」


順平は何かを思い出し、急に立ち上がり台所の方へ行き、すぐに戻ってきた。すると、順平は一升瓶の焼酎をテーブルの上に置く。


「よし!今日は飲むぞ、蔵!」


「ああ、いいぜ。付き合うよ。」


「じゃあ、私も久々に飲もうかな。」


「おいおい、あんま無茶するなよ千香。」


「あら、少なくともあなたよりは強いわよ。」


「はは、言われてんぞ八十。」


「よーし、そこまで言うならとことん飲んでやろうじゃないか!」


順平は酒をグラスに入れた。


「蔵、水割りでいいか?」


「おう。」


順平はペットボトルの水を取り出して酒の入ったグラスの中に注ぎ、それを蔵之介へと渡す。


「ほれ。」


「すまんな。」


「ほれ。千香も。」


「ありがと。」


順平は二人に酒の入ったグラスを渡すと、自身もグラスを持つ。


「まぁ、何はともあれこうやってまた三人で揃えた事を嬉しく思うぜ。久々の再開に…乾杯!」


「「乾杯!」」


三人はグラスを交わし、酒を飲み始める。


「ふぅ…久々に酒を飲んだが、こうやって飲むと美味いな。」


すると、土鍋がグツグツ言い出す。


「お?そろそろ良いんじゃないか?」


「うん。そうだね。」


千香は土鍋の蓋を外した。すると、鍋の中の具材は程よい感じに煮えていた。


「おー。美味そうだ。早速食べようか。」


「はい。これ使って。」


千香は蔵之介と順平に取皿を渡す。


「ありがとう。それじゃ、いただきます。」


そしてここから、ささやかな宴が始まり昔話に花が咲くのであった。


しばらくして…


「もう…飲めましぇん…」


順平は酔いつぶれて、ソファーで横になっていた。


「はぁ…」


それを横目に見ていた蔵之介は、ため息をつく。


「やれやれ、案の定真っ先にダウンしたか。」


「まぁ、順平君は昔から飲みたがるくせにすぐ酔っちゃうからね。」


「…まったく、しょうもない奴だな。」


蔵之介はグラスの中に残っていた酒を飲み干す。


すると、突然千香は神妙な顔になった。


「ねぇ、蔵之介君…」


「ん?」


「ごめんなさいね。」


「何がだ?」


「あの人の我儘に、蔵之介君を巻き込んじゃったみたいで。」


「気にすんな。無理だって言って断ればよかったものを、俺が好き好んで勝手に首突っ込んだんだ。それによ、あいつには借りがあるからな。」


千香は突然笑い出す。


「ふふ…」


「何だよ?」


「いや、蔵之介君は変わらないな…って。」


「そう…かもな。結局、俺は昔から何も変わっちゃいないガキのままさ。」


「でも、それが蔵之介君らしくて良いよ。」


「…そうかい。」


蔵之介は立ち上がる。


「さてと、後片付けでもしますか。」


「いいよ蔵之介君。後で私がやっておくから。」


「いや、飯を御馳走になったから、何かしないと悪いなと思ってな。」


「いいんだって。君はお客様なんだから。」


「…そうなのか?」


蔵之介は釈然としない顔になる。


「今日は泊まっていく?」


「そいつはありがたい…だが、家に帰ってまだまだ準備しなくてはならない事があってな。」


「そう…残念。」


「さて、ボチボチ帰るとするかな。色々世話んなったな。鍋、美味かったぜ。」


「うん。また遊びに来てね。」


「ああ、またな。」


蔵之介は荷物を持ち部屋を出ようとしたが、一旦立ち止まる。


「…なぁ、宮代。」


「どうしたの?」


「なるべく気をつけるようにするが…もしかしたら、俺が八十あいつに無茶をさせてしまうかもしれない。その時はあいつのフォローしてやってくれ。」


「うん。わかった。」


「頼んだぜ。じゃあな。」


蔵之介は順平の家を後にした。


「…さてと。」


千香は立ち上がり、寝室からブランケットを持ってきて、酔い潰れている順平の上に掛けた。


「順平君、風邪引くよ〜」


すると突然、順平は寝言を言い放つ。


「蔵〜、俺たちを最高のチームしてくれ〜。」


千香はその寝言を聞いて、クスクス笑う。


「まったく、二人とも仕方ないんだから。」


一方、駅への帰路を歩んでいる蔵之介は…


「へっくしょん!」


豪快にくしゃみをしたあと、鼻をすする。


「あー、寒っ。もう秋も深まって、気温が低くなってきたな。」


蔵之介は空を見上げた。すると、そこには数多の星が煌めいていた。


「やれやれ…今年は騒がしい秋冬になりそうだな。」


そう言ったあと、再び前を向き、歩み始める蔵之介であった。

…いやぁ、ようやく更新できました。


最近、仕事を辞めて色んな手続きやら訓練所の申し込みやらで忙しくてなかなか書けませんでした。


本当に書くのが遅くて申し訳ございません。

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