第2話 本条蔵之介(ボンクラ)は仙台にて
埼玉県に本拠地を置くバスケットボールのクラブチーム“埼玉ブルーブレイズ”。現在、ブルーブレイズは弱小チームと化してしまい、チーム存亡の危機に陥っていた。そのチームに属する若手選手の八十順平はある男をチームのスタッフとして招き入れようとしていた。
そして、その男は…
ここは杜の都仙台。仙台市の中心部にある繁華街から少し離れた丘の上にところに、“青葉台大学”という大学があった。
そこに、八十の言っていた男がいる。男の名は本条蔵之介。社会人を経てから大学生になったため、25歳にして大学生三年生である。そして、今は…
「ふぅ…」
蔵之介はある講義室の一角で、アイスコーヒーを飲んでくつろいでいた。
「本条さーん。」
「ん?何かようか?松岡、島。」
蔵之介の元に、同じゼミナールに所属している松岡健一と島恵梨香がやってくる。
「明日の試験の予想範囲を教えて欲しいんですけど。」
「またか…まぁいい。明日は地方統計学とマクロ経済学だったか?」
「ええ。」
蔵之介はタブレット端末を取り出して、必要なデータを呼び起こす。
「ほんま、本条はんが一緒で助かりますわぁ〜。」
「お前たち、少しは自助努力というのをだな…」
「もう、そんな事言っても、なんだかんだで本条さんは教えてくれるんだから。」
「あのなぁ…あまり調子に乗ってると、嘘の範囲教えんぞ。」
「へへ、すんません。」
「さて、まずは地方統計学から片付けるか。」
蔵之介はタブレット端末を机の上に置く。
「まず、今回の範囲はここから始まってだな…」
しばらく、蔵之介によるテスト対策講座が行われる。
「…というのが、今回の内容だ。」
「なるほど。じゃあ、ここを押さえれば大丈夫って事やね。」
「まぁ、あらかた問題はないだろう。」
内容を理解している島に対し、松岡は全く理解していなかった。
「…ダメだ。何を言ってるのか全然わかんね。」
「…後で最低限の事をまとめたデータやるから、それだけ覚えてこい。」
「あざーす!」
「あと3日だけ試験を頑張りゃ、夏休みに入るから必死にやる事だな。」
すると、松岡は過剰に反応する。
「そう!夏休み!!」
突然の叫び声に、蔵之介と島はビビる。
「どうしたんだ急に?」
「いやぁ、ついに夏休みですよ。あーんなことやこーんなことが出来ちゃうんですよ。」
「お、おう。そうか…」
「いやぁ、楽しみだなぁ〜。」
松岡は高笑いする。
「ところで、本条はんは夏休み中に実家に帰るん?」
「そうだなぁ…一応、どこかしらで親に顔を見せに行くつもりではあるが、夏休み前半か後半にするか決めてないな。そういう島はどうなんだ?明石に戻るのか?」
「ええ。試験が終わったら、すぐに帰らせてもらいますわぁ。今年は向こうで過ごそうかと。」
「そうか。…さて。」
蔵之介は立ち上がり、松岡の肩を軽く叩く。
「浮かれるのはいいが、そろそろ現実に戻ろうか。まだ、マクロが残ってるぞ〜。」
「うっ!」
松岡の顔は一気に暗くなる。
「さて、マクロ経済は…」
すると突然、蔵之介のスマートフォンの着信音が鳴り出し、ズボンのポケットから取り出す。
画面には着信画面には八十順平と表示されている。
(八十から電話?緊急か?)
蔵之介は首をかしげた。
「すまない、少し外すからこのデータを流し読みしててくれ。」
「了解ッス。」
蔵之介は松岡にタブレット端末を手渡すと、講義室を後にし、エントランスへ向かいながら電話に出た。
「もしもし。」
『蔵か?今大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ。どうしたんだ八十。突然電話なんかよこして。」
『なぁ、蔵…今シーズンだけでいい。俺を…俺たちを助けてくれないか?』
「ヤブから棒に何言ってんだ?」
『実はな…』
順平は先に行われた会議の話を蔵之介にした。
『…という訳なんだ。』
「なるほどな。大体の事情はわかった。しかしだ、何故俺に頼むんだ?他に適任な奴がいるだろう。」
『そうかもしれないけど、蔵ならなんとかしてくれる。そう思ったからさ。』
「あのなぁ…。」
蔵之介は順平の言葉に呆れて、ため息を吐いた。
「まぁ、お前には恩があるからな。出来る事なら俺も手助けしてやりたいところだ。だがな、俺みたいな素人が行ったところで何も変わらないかもしれないぞ。そうなった場合、お前も何らかの責任を負わされるかも知れないが、それでもいいのか?」
『もちろん、覚悟の上さ。』
「…。」
蔵之介は電話を持っていない方の手で軽く頭を掻く。
「…わかった。俺で良ければ力を貸す。」
『ありがとう、蔵。』
「礼はいい。ただ…」
『ん?』
「BJリーグのシーズンと大学の後期と被るが、どうしたもんか…」
『やっぱり、その問題があるよな。仙台から埼玉まで通うってのは難しいもんな。』
「ああ。…そうなると、半年間休学するしかないか。」
『いや、何もそこまですることは…』
「あのなぁ…週末に何回かちょろっと行けば解決すると思うか?まぁ、半年間でもかなり無理はあるけどな。」
『すまん。』
「まぁいい。さて、となると教授に許可をもらわないとな。」
『大丈夫なのか?』
「さぁな?あの教授考えは読みにくいからなぁ…一応断っておくが、これで許可が降りなかったら、その時は諦めてくれ。」
『…わかった。』
「まぁ、心配すんな。いざって時は土下座やら泣き落としやらすっから。」
『おいおい。あんま無茶するなよ。』
「わかってるよ。…今は試験期間で原則、教授との接触は禁じられてっから、数日後に教授と話し合ったら、こっちから連絡する。」
『ああ、頼む。』
「じゃあな。」
蔵之介はスマートフォンの通話終了をタップすると、ため息を吐く。
「…はぁ。俺のお人好しも、大概だな。」
蔵之介はスマートフォンをズボンのポケットにしまった。
「さて、どうやってあの教授を説得させるか…」
蔵之介は松岡と島の待つ講義室へと戻って行った。
「本条はん長い電話みたいでやったけど、何かトラブルでもあったん?」
「いや、たいした問題じゃない。ただ…」
「ただ?」
「里帰りは後期が始まってからになりそうだ。」
「?」
「さ、マクロ経済やるぞ。今回の範囲はだな…」
そして、数日が経ち、試験期間が終了するのであった。
今回でようやく、主人公である本条蔵之介が登場します。
本当は蔵之介の青春時代や生い立ちを書いた物語も書いているのですが、そっちは中々上手く書けなくて、先にこのB·レイズが初登場となりました。まぁ、そっちの方はおいおい書いていければなぁ…と思います。
ともあれ、出したかったキャラクターが出せたので嬉しいのと、これから先にどうなっちゃうのかな?という不安もありますが、これからのボンクラの活躍を生温かい目で見守って上げてください。何卒よろしくお願い申し上げます。
by島津高志