第一話 埼玉ブルーブレイズ
日本バスケットボールにおける最高峰のリーグ“JBリーグ”
そこの三部リーグに所属している、あるチームは危機に近づきつつあった。
日本のバスケットボールにおける最高峰のリーグである“JBリーグ”。そのリーグの第三部リーグに“埼玉ブルーブレイズ”というクラブチームが所属していた。
埼玉ブルーブレイズはJBリーグの前進であるリーグから参戦しているキャリアの長いチームだが、成績が振るわず、JBリーグ開幕の時に三部リーグからのスタートとなってしまい、リーグ開幕後も二部リーグへの昇格も果たせず、現在もなお低迷を続けており、所謂弱小チームとなっていた。
ある七月の初旬に埼玉ブルーブレイズの選手及びスタッフ達はある公共施設の会議室にスーツ姿で集まっていた。この日は、シーズン開幕前の目標設定や役割分担。スケジュールのその年のスケジュール確認等が行われる。そんな中、ある選手達はボヤいていた。
「さて、今年も決起会の季節が来たか。」
「どうせ、オーナーの愚痴を聴かなきゃならんのだろ?」
「だろうな。」
選手達がうだうだ話していると、時計の針がきっちり3時を示し、会議室に初老の男と髪の毛をきっちり七三分けしたビジネスマン風の男が入ってきて、演題のある方へ座る。
初老の男が埼玉ブルーブレイズのオーナーである富永和夫。そして、隣の七三分けの男が埼玉ブルーブレイズチーフマネージャーの山口真司。この二人が会議室に入ってきた事でミーティングが始まった。
「えー、それでは人も集まったので、今から定期ミーティングを始めさせていただきます。よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「それでは、富永オーナー。お願いします。」
富永は名指しをされると咳払いし、話し始める。
「えー、毎日の忙しい練習をされている選手や、そのサポートをされているスタッフが大勢いる中で、今日の決起会に集まっていただき、ありがとうございます。」
富永は頭を下げた。
「さて、今シーズンの開幕があと2か月となっているのだが…今年こそ三部リーグ脱却を実現したいところだが…」
(ほら来た。)
ある選手は思った。
「幸い、チーム創立当初からスポンサードしている地元企業が惜しみなく我々をフォローしてくれたり、地域の熱狂的なブースターがいてくれるおかげで、なんとか今日までやってこれる事ができた。しかし、いつ愛想を尽かされても仕方がない。」
(まぁ、ある程度予想はしていたが、やっぱ愚痴か。)
厳しい事を言い続ける富永であるが、一旦ここで息を吐く。
「…だが、君たちが弛まない努力をしている事も理解している。本来ならば、我々運営側が設備の拡充や戦力の補強を積極的に行わなければならないのだが、知っての通りうちのクラブは裕福では無いのでな。我々もやれる事はやってきたが、なかなか上手くいかずに選手やスタッフのみんなには迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳無いと思っている。」
富永は頭を下げた。
「しかし、この状況を打破しなければチームの存続は難しくなり、他のチームの合併…最悪の場合は解散も現実になってしまうかもしれん。」
選手達はざわつき、不安の声が上がる。
「マジかよ…」
「おいおい、そしたら俺達はどうなるんだ?職を失うって事か?」
すると、段々エスカレートして運営を批難するようになる。
「大体、毎年主力選手が他チームに移ってしまうのは運営の待遇がわるいからだろ!」
「そうだそうだ!」
「戦力補強と言っても、今年はまだコーチ陣だけだろ!しかも、訳の得体のしれないヘッドコーチなんか連れてきやがって!」
富永は言い返す事ができなかった。すると、一人の選手が怒鳴る。
「うるせぇ!!」
すると、選手たちは静まる。
「関さん…」
怒鳴ったこの男は、関義治。関は埼玉ブルーブレイズ一筋で35才になってもなお現役を続けているベテラン選手である。
「とやかく言ったところで何も変わらないだろ。」
「ですが…」
「言いたいことは分かる。だがな、何時までも三部リーグにいる訳にもいられないのも事実だ。俺たちも選手やスタッフも運営側もリーグ昇格を望んでいる。だがな、それを一番望んでんのはブースターの方々なんだよ。」
「…。」
関の言った言葉で選手たちは静かになったが、空気はかなりギクシャクしている。
「…あの〜。」
一人の選手が挙手をした。
「ん?八十君、どうかしたかね?」
挙手をした選手の名は八十順平。今年で3年目の若手の選手だ。
「一人、この状況をなんとかしてくれそうな人物に心当たりがあります。」
「君の知り合いに良い選手がいるのか?」
「いや、そいつは選手じゃないんですが…うちに来てくれれば何を変えてくれる気がするんです。今シーズンだけ、スタッフとして呼び寄せてみてもよろしいでしょうか?」
「スタッフを増やすのは構わないが、今のうちでは満足な賃金は払えんぞ。それでも、うちに来てくれると言うのか?」
「大丈夫です。そいつは、金の事でとやかく言うような男では無いので。アルバイトと同じくらいの賃金でやってくれるはずです。」
「そうか。それならば呼んでもらっても構わんよ。」
「ただ、問題が…」
八十の言うその男は、仙台にいた。
次回、主人公登場。