神使がくれた契約家族探知マップ
僕の名前は田中顕示。
小学生の頃に交通事故で両親と姉妹を亡くしただけのどこにでもいる平凡な高校生だ。
先日まで大好きなおばあちゃんと一緒に生活していた。
そんな大好きなおばあちゃんも高齢のため先日亡くなってしまった。
今日はおばあちゃんのお葬式なんだけど、どうしても再び家族を失うことに耐えられなくて逃げ出してきた。
何も考えたくなくて頭を空っぽにして走っていたらいつの間にか昔おばあちゃんに手を繋いで連れてきてもらった神社に来ていた。
何も考えていないつもりがおばあちゃんのことで頭がいっぱいだったのかもしれない。
そう思うとジンワリ涙が出そうになる。
手の甲で目を拭って何とか涙を止める。
せっかく思い出の神社に来たのだからおばあちゃんのことを神様にお祈りしておこう。
幸いサイフは持って出てきたのでお賽銭もちょっと奮発して500円を投げ入れた。
おばあちゃんがやっていた神前礼拝を思い出しながらおばあちゃんが天国に行くに決まっているので天国で元気で過ごせるようにお祈りした。
「もしもしそこの坊主?」
目を瞑ってお祈りしていると男の子とも女の子とも思える可愛らしい声が聞こえた気がした。
お祈りを中断して回りを見渡すが木々を揺らす風の音がするだけで神社の敷地内には誰もいないようだ。
それもそうだこの神社は神主がいない普段は人なんて全く来ない神社なのだから。
「どこを見ておるこっちじゃこっち。足元じゃ。」
再び可愛らしい声が聞こえてきた。
声に従って足元を見てみると烏帽子をかぶったおそらく男の子がいた。
いや男の子と言って良いのかは分からない。
何故ならその男の子は顕示の手に乗るほどの大きさだからだ。
少なくとも人間ではないだろう。
そもそもこれは現実なのだろうか?
だって男の子が僕の目の前で宙に浮いているんだから。
もしかしておばあちゃんが死んだこと自体は受け入れたと思っていたけどあまりの悲しみから現実逃避して幻覚を見るようになってしまったのだろうか?
頬を抓ってみるけどただ痛いだけで目の前の宙に浮いた男の子は消えたりしない。
「坊主は自傷癖でもあるのか?それは我では治せないぞ。」
「いやそんなものはない。って普通に幻覚と会話しちゃってるよ俺。まさかそこまで精神を病んでしまったのか。それなりに気持ちは強いほうだと思っていたんだけどな。」
目の前の男の子にため息疲れている。
「我は幻覚ではないぞ。我は其方の祖母の願いを叶えるために来た神使じゃ。」
おばあちゃんを理由にするとは俺の幻覚とは言え許せんな。
いや、しかし俺がもしかしてこの子が言っているおばあちゃんの願いと言うのは俺が心の奥底でおばあちゃんのためにしてあげたいことなのかも。
聞くだけ聞いてみるか。
「それで神使の幻覚君。おばあちゃんの願いとは何なの?」
「我は・・。はぁもう良いです。其方の祖母の願いとは其方に幸せな家族を持ってほしいと言うものじゃ。」
早く彼女を探して結婚して孫を見せたかったってことか?
でもさすがにまだ高校生だから無理だよな。
「そこでこれじゃ。」
俺の思いとは関係なく男の子は古びた巻物のようなものを出してきた。
「その汚い巻物は何?」
「汚いとはなんじゃ汚いとは!これは由緒正しいき神器じゃぞ。」
由緒正しき神器って由緒正しくない神器なんて存在しないでしょ。
「はぁ、それでその由緒正しい神器とはいったい何のですか?」
俺の呆れたような顔が気に入らなかったのか未だに男の子の機嫌は悪い。
「ふん、聞いて驚くな。これは契約家族探知マップと言って持ち主と契約家族になるであろう人物をマップ上に記してくれるものだ。」
いや、神社で現れた神使が持っている神器にマップって付いているのが違和感しかない。
そこはマップじゃなくて地図でしょ!
百歩譲って現代風にアレンジされているとしてそんなピンポイントな神器とやらがあるのか?
「なんじゃ、その目は!」
それにしても良くできた幻覚だよな。
俺の表情の変化に敏感に反応するとはいや寧ろ俺の幻影だから普通なのか。
「ええい!良いからこれを開いてみるのじゃ。」
仕方ないおばあちゃんのお願いという俺の望みを叶えないとこの幻影は消えないのだろう。
「はぁ、分かったよ。」
男の子から古びた巻物を開いてみた。
「これはこの町の地図?」
そこには墨で描いたようなこの神社を中心にした地図が描かれていた。
そして川岸に朱色の丸マークが付いている。
「そうじゃ、これは持ち主を中心にした地図を表示するんじゃ。毎回最新情報を表示するカーナビもびっくりなほどの精度で表示する優れものじゃ。そしてこの朱色のマークのところに其方の契約家族候補がおるんじゃ。」
ふ~ん。
まぁ、早いとこ気持の整理をつけてお葬式に出席しないとな。
地図に示された場所には歩いて10分ほどで辿り着いた。
道すがら犬の散歩をしている人や自転車に乗った人、ジョギングをしている人とすれ違ったが宙に浮いた男の子に驚いている様子もないのでやっぱりこの子は俺の幻覚なんだろうな。
「地図を見るにこのあたりのはずだけど誰もいないぞ?」
「何を言っておるのじゃあそこにいるじゃろ。」
指さす方向をみるとダンボール箱がおいてあった。
もしかしなくてもあれか。
思った通りダンボールの中には子犬が蹲っていた。
ただなぜか一緒に犬の置物が入っていた。
「いや犬ってどうして?」
「何を言っておるペットも立派な家族じゃろ。それにコヤツは賢いから世話が楽じゃ。その上狛犬じゃから厄を払ってもくれると言う至れり尽くせりの犬じゃ。」
何か途中からテレビショッピングみたいになってるよ。
「っていうか狛犬!?」
わざわざ普通の犬じゃなく狛犬にするって俺の幻覚はどうなっているんだ。
「なんじゃ狛犬を知らんのか。最近の若い奴は。狛犬とはな『いや狛犬は知っているよ』なんじゃ人の話を遮るんじゃない。」
なんか可愛い男の子なのにえらく爺臭いセリフを言う子じゃな。
「それでこの犬を飼えば良いの。」
「そうじゃコヤツが一人目の家族じゃな。」
「え!?一人目?」
「家族がペット一匹ってどう考えても幸せな家族ではないじゃろ?」
マジかぁ~。
今日だけじゃこの幻覚終わらないのかぁ。
「そんなことより早く名前を付けてやれ。」
「クゥ~ン。」
おいそんなつぶらな瞳で俺をみるな。
それにお前狛犬だろ。
なんでそんな弱弱しい声で泣くんだよ。
う~ん、狛犬、ライオン、レオ。
よしレオだ。
「お前の名前は今日からレオだ!」
「ワン!!」
元気に鳴いたレオの頭をワシャワシャ撫でてやる。
「その狛犬の像も忘れずに持っていくのじゃぞ。それがレオの本体じゃからな。」
そんな設定まですると非常にめんどくさいぞ俺の幻覚。
結局幻覚を連れたままおばあちゃんのお葬式に出席したんだ。
俺の幻覚だからみんなに見えないのは変わらないのだけどちょっとだけ気分が紛れたのは救いだった。
後々分かることだがレオも神使も本物だった。
実は契約家族探知マップは困っている神や妖怪を見つけるもので様々な神様や妖怪と出会うのはまた別のお話。