要塞と艦隊 5話
「――っ」
だしぬけに森は途切れ、急に意識できるほどの日差しを感じ。俺はうめいた。
目が慣れる前に。なにかが俺の周りを高速ですり抜けるような音がいくつもする。
「矢が飛んでくるけど気にしないで! マスターには当たらないから」
「なんだよ。それ!?」
そして。目が日差しに慣れてきた俺は見た。
見てしまった。
巨木の森を抜けた俺たちの目の間にいきなりの大草原。
そして出迎えてくれる謎の集団……。
それは身長2mはあるような戦士たちだった。
明らかに文明によって鍛えられた鎧兜を身につけ。
非装甲の部分などから垣間見える肌の色は、不気味な緑色だ。
盾と斧、槍やクロスボウで武装している。
明らかに俺の知るような人間ではない。
そう。
人類では無かった。
その人型の生物は、筋骨逞しく平べったい顔、つぶれた鼻、とがった耳、大きな口から覗く鋭い牙。
目は狂暴そうに鋭く、赤黒い目には瞳が無いように見えた。
そんな友人や隣人には遠慮したいような連中が100人なのか? 200匹なのか?
とにかく瞬時に数を把握できないくらいいた。
これがホブゴブってやつかよ……。
クロスボウの矢がビュンビュン飛んでくるが確かに俺たちには当たらない。
飛んでくる矢の軌道は素人目に見ても俺やラグナロクに直撃コースのものがいくつもあった。
しかし、そういう矢は俺たちの数メートル手前で急に力を失ったようにボタボタと地べたに落下していく。
「軽歩兵の偵察部隊ってとこね!」
「……」
そんな不自然な現象を、当たり前のようにラグナロクは無視して俺に笑顔で話しかけてくる。
「まぁ、マスターのデビュー戦には適当な相手かも知れないね」
「いやいや……。死ぬだろこれ、逃げよう! いや。逃げろ!」
「いいから! 今はとにかく私の真似をして!」
奇怪な言語で叫びながら、ホブゴブリンが矢を放ち。
盾や得物を構えてゆっくりと進んでくる。
ああ、敵との距離は50メートルくらいしかない。
その動きは、明らかに訓令されて統率されている。
よく見てみると、叫んでいるのは何かの指示のかもしれない。弓を射てくるのは隊列の左右に配置された兵だけだった。
無秩序な動物めいた恐怖は無いが。殺意は明らかだった。
死んだな。
いや逃げたい。
普通は逃げるだろう。一人ならば逃げていた。
だがラグナロクはヤル気満々というか、危機感は無いようだ。
……置いて俺だけ逃げ出すくらいならば死んだ方がマシなのかも知れない。
それに、俺は感じていた。
こんなムチャな状況でこそ、最近流行りのチート展開という奴が俺たちを守ってくれるのでないのか?
そう!
それに決まっている! 最悪捕虜になっても、クッ殺展開になれば神の助けとかある!
ワンチャンスある!
「はっしゃっ! と言って!」
「……はぁ?」
期待したチート展開は、どうやら俺の妄想に終わりそうだった……。
重い足音を立ててホブゴブリンたちは接近してくる。
「発射って言うの! 射撃号令! 用意! 撃てっ!」
「え? な、なにを?」
やばい。この女、危機的状況でなにを言い出すのだ。
「いいからマスター! 天に拳を突き上げて! 私と叫んで!」
「お、おう!」
もう。何でもいい、とにかくこの場から離れられるなら何でもしたい。
「「発射ーーっ」」
……そして。
天空から光の柱が降り注ぐ……なんてことはなかった。
「ん? あれ?」
「……おい、ラグナロクさんよ」
「おかしいな?」
近づいてい来る敵に当然、好意的な表情は一切無い。
気がつけば矢は飛んでこなくなっていたが、明らかに正面のホブゴブリン達は武器を構え近づいてくる。殺意を十分に感じさせてくれる演出だった。
「ああ、死んだな。俺たち」
「マスター。ごめん、ほんとに私は中口径ネットワークレーザー発射の要求したんだよ」
「なんのことか謎だが、気にするな……。それより俺は男なのに守れなくてゴメンな」
パンツ一丁の俺が、完全武装のモンスター数百とか倒すのは無理ゲーだろう。
近づいてい来る敵に好意的な表情は無い。
こういった生物の好みとか知らないが、ラグナロクが辛い目に合わないことを祈る。
別に何の意味もなかったが、自然と俺はラグナロクの前に立とうとした。
せめて最後は形だけでも守ってあげたい。
それが男の役目だろう。
不思議と恐怖はなく。
むしろ敵の姿をはっきりと見定めることが出来るほど、俺は落ち着いていた。
たぶん夢さ……これは全部、夢なのさ。
逃避なのだろうが。
俺はそんな事を考えながら、俺はふと空を見上げた。
空は青く、そう青く美しく。
そして……。
「!?」
唐突に視界は輝く閃光に包まれ、爆発音とともに俺の意識は途切れた。