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要塞と艦隊 4話



 人生には急展開というのがある。


 朝起きて飯を食べて学校なり仕事なりに出かけたさきで、事故など何かの拍子で死んでしまう。

 世界中で普通にある事だ。


 ただ、その急展開が自分自身に起きうることを毎日意識する人間が少ないので。

 俺のように、いきなり目の当たりにする運命に戸惑うのだ。

 

 訳の分からないほこらめいた遺跡から俺たちは走り飛び出し。

 森の中を走る。

 昔写真で見たメタセコイアとかいう木に似た巨木が幾本もそびえ立ち。

 木々の間は広く落ち葉の敷き詰められた平坦な地面なので走るのに不便はない。

 

 目的地はわかっているらしいラグナロクは形のいい尻を振るように駆け、そのあとを俺は続いていた。


 ラグナロクが言うにはこの先に敵がいるらしいのだが……。


「ねぇ。マスターって戦闘経験は? 戦闘スキルとかある?」

「あるわけないだろ。ていうか戦闘スキルってなんだよ」

「いやいや、またまた。戦えるからこの場所にいるんだよね?」

「いやいやいや! そんな訳ないだろっ! どういう理屈なんだよ!」


 なぜ敵に向かって走り出すのか?

 そして俺はなぜラグナロクについていくのか?


「えー? 出し惜しみ? やだなー」

「……」


 こんな謎の土地で一人きりでいるのは自殺行為なのはなんとなく察したが。

 それでもこの女と同行して戦闘とやらにまき込まれるリスクとを天秤に掛けたくなった。


 未知の土地でジワジワ野たれ死ぬか、訳も分からぬバトルで死ぬか……。

 どちらがマシなのだろう。


「ゴメンゴメンよ。わかってるからさー。怒んないでよ~」

「どうせ役立たずだよ」


 戦闘とか言う経験は俺には無いが。

 なんだか今日は妙に体が軽い。


 と言うか、俺はこんなに速く走れたのか?

 裸足はだしだぞ? 

 しかも余裕で話しながら走り込めるとか。

 疲れるどころか、走るにつれて身体がほぐれ力が湧いてくる気さえする。

 俺って、ひょっとして戦えちゃうのか?

 素手で、パンツ一丁だけれど。



「大丈夫だいじょうぶ。私の戦い方みて次は真似してくれればOKだから」

「なにがOKなんだよ? つか、なにと戦うんだよ!?」


 走りながら俺が叫ぶと、ラグナロクは振り向きながら笑った。


「んとねー、この先に武装したホブゴブの歩兵が待ち構えていて。マスターには見えないだろうけれど、私たちにを囲むように敵の見張り小僧スプリガンが走っているよぉぉ!」

「そーですかよぉ!」



 なんだ? ホブゴブとかスプリガンって?

 なんかファンタジー物に出てくる、ホブゴブリンとかの事なら。

 スぺオペ調のタイトルだったフォトフリには出てこないモンスターだぞ?



「ドキドキするよねーー!」

「……嬉しそうだな」



 実は戦闘狂とかいう不治の病に犯されているのか、ラグナロクはやたらハイテンションだった。


「いやさー! マスターの戦闘訓練を兼ねて、こんなに敵の接近を許してるなんて。私的にはあり得ない話だからさーー」

「はぁ」

「なかなか無い経験だから、楽しくって! マスター! とにかく楽しんでっ!!」

「……」


 こういう状況で『楽しむ』回路を搭載している日本人は少ないと思うな俺は。


 そんなことを考えていた時だ。


 俺は気がついてしまった。

 俺の走るちょっと先。そう、ほんの二、三メートル先の腐葉土めいた地面に新しい足跡が次々と産まれていくのを。


「うおお!?」

 

 俺のすぐ側を、俺の進む先を。見えない誰かが走っている!

 ビビってコケそうになった。

 

「あ? 気がついたー? その周りでウロウロ走っているのが見張り小僧スプリガンだよ」

「なぬ? 透明なのか? 危険じゃないのか?」

「だいじょぶ。妖精みたいなもんだから、気にしなーい。見られているだけだよー」


 ……それってこちらの様子が敵のボスに丸見えとかのオチは無いですよね?

 わたくし。パンツ一丁なんですが。

 

「ほらほら! マスター、そんな事より。あと5分で敵正面に出るよっ!」

「はい?」

「近接戦闘よぉーーーーい!!」

「は? はぉ?」


 作戦とかは? 


 私の戦い方見て真似してくれればOKって、言ってなかった?

 つか、くどいけど俺は丸腰のパンツ一丁なんすけど?

 

 そう。

 そうだ! ファンタジーとかするなら。

 あれだよ。流行りのチートスキル付与とか、伝説の武器の授与とかあるだろ?

 戦闘スキルとか言ってたじゃん? あるんだろ?

 なんか、そういうハッピーなアレがよぉ。


「ちょ……っと」


 待ってくれ。

 少し止まって作戦会議を……と思ったが。

 ガサガサと俺の周りに確実に居る見張り小僧スプリガンの気配が超キモイ。

 でも、このまま敵に飛び込むのも不安すぎるーーー!


 俺の逡巡などお構いなくラグナロクは駆け抜ける。

 俺もなんだか続いてしまう。

 そして気がついた。

 いや聞こえてくるようになった。

 

 やたら低音の破裂音に似た、怒号のような言語めいた音が。

 なにかの金属が打ち鳴らされる音が。

 ドロドロとうなる太鼓のような音も。


 

 「ヤッホーーー! そろそろ会敵だよーー!」


 ラグナロクが嬉しそうに叫んだ。

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