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要塞と艦隊 2話

 ……声が聞こえる……


『マスター君

 ねぇ。どうして?

 昔話のおじいさんとおばあさんは、なぜ名前が無いの?』


 ああ。

 夢だな。

 はっきりと、そうわかる夢を見ることがある。

 これもそうだろう。そういう夢さ。

 なんだか俺の周りに濃霧がまとわりついている。

 誰かが。女だな。

 俺の前に立っている。霧でよく見えない。


「ねぇ。マスター君おしえてよ」

「……マスター君って俺のことか?」

「そうだよマス君」


 マス君ってなに?

 すでに名を略され……ん?

「俺は? 俺は……名前は……」

「ねぇねぇ。なぜ昔話のおじいさんとおばあさんには名前が無いの?」


 女の影が霧を払うように俺に歩み寄ってくる。

 現れたのは……。


 美しかった。

 ゲームで見た第一印象と変わらず。と言うか夢補正もあるんだろうが。

 とにかく魅入ってしまう薄紫の瞳。

 微笑みを湛えた優しげな眦まなじり、軽くウェーブのかかった白銀色プラチナブロンドの髪。

 白を基調としたフリル付きのドレスタイプのコスチューム。 

 フォートレス&フリートの要塞娘。マリスカレンだった。


「なぜ昔話のおじいさんとおばあさんには名前が無いの?」


 マリスカレンが、また俺に聞いてくる。 

 完全に夢だ。

 一昨日ゲットしたガチャ娘が。夢に出てきて昔話の話題とか……。

 やれやれ……。


「わからない。そう言えば……そうかもな」

 完全に夢だが。俺は答えた。


 マリスカレン。

 フォトフリの最新の最高レアのキャラクター。

 ディスプレイに表示される画像ではあまり意識しなかったが。

 俺の頭半分くらいは低い身長だ。

 まだ成長の余地を残した若さ。

 将来はさらなる美人になるだろう。


「昔話のおじいさんとかには名前はない?」

 ゆっくりとした眠たげな声は。あどけない。

「……そう。みたいだな」

「でもね。私が私であるために、私たちのお話には名前が必要なの」

「マス君の名前は? 私はマリスカレンよろしくね」

「あ……ああ。よろしく」


 なにを、よろしくなんだ?

 それより俺は。俺は……思い出せない。


 自分自身の名前を。


 ひろゆき? たかひろ? まこと? まさかのマス男?

 何かの名前は思い浮かぶが、どれも俺の名前ではなかった気がする。

 なんだ? この夢は。何かがヤバイ。 

 俺の思考が、どこか遠くで危険信号を鳴らすがその音は遮られるように消えていく。

 マリスカレンの微笑みの前で……。


 とにかく俺の全てが彼女を求めているような気がした。

 まだ出会ったばかりの彼女の問いも、願いも。

 なんでも叶えてあげてくなるような……。


「俺の……名前?」

「そう。マスター君のなまえー」

「わからねぇ。ど忘れか? 名前が思い出せない」

「だよね」

「だから、マスター君の名前は。マス君に決定! 以上!」


 ……決定したらしい。


「俺の希望は聞かないのか?」

「まぁまぁ。これから私はマス君と愛の結晶をつくるんだから」

「は?」


 何を言い出すんだ?


「難しく考えない~」

「おいおいおい」

「マスター君は名前を取り戻せるかのテストなんだよ」


 なんだと?

 再び俺の思考に危険信号が警告音付きで飛び込んできたが。

 またマリスカレンの微笑みの前にフェードアウトしていく。


 マリスカレンが俺に近づいてくる。

 なんだろう。

 異常なのはわかっているが。

 夢で心地良い予感のイレギュラーはご褒美じゃないのか?


 そんな思いを馳せる間に、マリスカレンは俺の目の前まで来ていた。

 そのまま彼女は腕を俺の首に回し、俺の顔を引き寄せる。


 ああ。キスするんだな。俺たち。

 そんな気がした。


「マス君」

 マリスカレンの額が、俺の額に押し付けられた

「何だ?」

「目を閉じて……」

 マリスカレンの要求に、俺は逆らえない気がした。

「……ああ」

 目を閉じて。俺は次の展開を待った。


『だからマス君』

 マリスカレンの声が、俺の頭に直接響いてくる。

 ありえない?

 ……か、どうかは正直わからなかった。

 俺はこんな体験は初めてだったから。案外、他の人たちもそうなのかもしれない。

 マリスカレンのゆったりした声が、俺の頭のなかに流れ込んでくる。


『私と 一つに 

 なって……。

 産まれるの……私たちの結晶が』


 俺の下半身が柔らかい何かに包まれる。

 目が開けられない。

 え、なんだ。

 なんだこれ。あれか?

 甘くて気持ちがいい。下半身からの何かの迸りを感じて――


――俺の意識は途絶えた――

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