表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

5.忍者の風丸

「別に、アンタたちを狙ってたぁとかじゃぁ、無いよぉ」

 ロープで縛り上げられた二人のうち、腕を伸ばす能力持ちの方が先に目を覚まし、目の前で仁王立ちしている凛と綾乃に対して弁明を繰り返していた。

「たださぁ、二人だったし、一人はほらぁ、ね? できそこ……うひっ!」

 できそこないと言いかけたところに、額に血管を浮かせてガンを付ける凛の顔が近づいて、パーカー女は言葉を止めざるを得なかった。


 ぐり、とパーカーのフードを捲られ、ぼさぼさになった髪を掴まれた時点で、最早生意気を言えるような心境にないようだ。

 その隣で、相棒の方も気が付いたらしいが、縛り上げられた自分たちの状況を見るや、蓑虫のように縛られたまま器用に土下座し、「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」と念仏のように繰り返している。


「ふぅ、急に襲ってきたのは、本当に通り魔的なものだったみたいね。どこかのグループの差し金かと思って心配して損したわ」

「わかってもらえたぁ? じゃあさぁ、そろそろ自由にしてくれなぁい?」

「駄目よ。恨みを抱えて私たちの背後から攻撃されても面倒だもの。それに、隔離特区で破れたらどうなるか、あなたも覚悟しているでしょう?」


「ひえええ……」

 刀を生み出した綾乃が大上段に掲げるように構えると、パーカー女は首をぶるぶるとふっるわせて泣き出した。

「ちょっと待てよ綾乃。なにも殺すことはないんじゃないか?」

「甘いわ。こういう連中を放っておいたら、またいつ襲ってくるか」


「でもなぁ」

 流石に命を奪うのは気が進まない凛だった。喧嘩は数えきれないほどやってきたが、だからといって殺したりは当然しなかった。

 彼女にとって、能力を使ったバトルは喧嘩の延長であり、今ではリアルなゲームであるという認識もあった。


「助けてぇ……」

「うーん。そうだな、じゃあ情報をくれ。それが役に立つ話だとオレや綾乃が判断したら、命は助けてやる」

「ちょっと! 何を勝手なことを!」

 綾乃は怒っているが、凛は彼女の背中を叩いて落ち着かせた。


「こういう時は手懐けて舎弟にした方が良いんだって。また生意気な真似したら、改めてボコってやりゃいいんだから」

「ん、もう。好きにしなさい」

「さ、というわけだ。何でもいいから喋れ、ほらっ」

 しゃがみこんで顔を近づける凛の言い方は、犬でも相手にしているかの様なものだったが、命が助かるとあってはパーカー女も相棒も感謝しかない。


「えっと、えっと……」

 とはいえ、有用な情報と急に言われてもそう簡単に思いつくものではない。

 相変わらず突っ伏して唸っている相棒のうなじを見て内心で罵ったパーカー女は、顔を上げて凛を見ようとして、怖くなって綾乃を見た。

「あっ、そ、そうだ!」


「お、何か思いついたか?」

「そこの委員長みたいな姉ちゃん!」

「私? 何よ委員長って」

 ブツブツ言いながら続きを促した綾乃だったが、パーカー女が口にしたワードに顔を顰めた。

「あんた、シンのグループにいたんだろ?」


「……綾乃? どうした?」

「気にしないで。話を続けなさい。聞いてあげるわ」

 凛は様子が変わった綾乃を心配したが、聞く、といった彼女に希望を見たパーカー女は、チャンスとばかりに話を続ける。

「しばらく海沿いを縄張りにしていたぁシンのグループはぁ、最近このあたりもぉ掌握しつつあるみたい。あんたぁ、あのグループから逃げてるならぁ、そろそろぉ逃げた方が良いよぉ」


「ふぅん。詳しくは知らねぇけどさ、そのグループってヤバいのか?」

「あんたぁ新入りみたいだからぁ知らないのね。シンのグループって言ったらぁ、特区の中でもとびきりやばぁい連中よ。トップの“シン”が特にね」

「止めて。そこまでで良いわ」

 言うが早いか、綾乃は持っていた刀を振り下ろした。


 斬られた、と一瞬は身体を強張らせたパーカー女だったが、切断されたのはロープだけだった。

 全身を縛り上げていた圧迫感が失せ、ふと見ると相棒も解放されている。

「話は終わり。聞きたくもない名前だったけれど、それはそれで役に立つわ」

「お、おい。本当にもういいのか?」

 吐き捨てた台詞のあと、背を向けて歩き出した綾乃を凛が慌てて追う。


「気になる話だったんだけどな……」

「知る必要は無いわ。とにかく避けておけば良いだけの相手よ」

「でもよ……」

「待って、何かいるわ!」

 綾乃が止めたのは、パーカー女たちとは別の気配を察したが故だった。


 しかし、その正体は掴めず、居場所もわからない。

「何かがって……あっ!」

 綾乃につられて周りを見回した凛が見たのは、首筋から血しぶきを上げて倒れるパーカー女と、その相棒だった。

 首筋に金属の棒が突き刺さっており、凛から見ても完全に息絶えているのがわかる。


「なんてことをしやがる……」

 グローブを握りしめた凛が構えて臨戦態勢に入ると、背中合わせに綾乃が刀を構える。

 周囲三百六十度に注意を向けた彼女たちだったが、声は上からだった。

「そう怒らないで欲しいでござるな。せつはお主らを助けてやったというのに」

 妙な話し方をする声の主は、錆に塗れて立っている街灯の上にいた。その姿は一見して忍者であり、鉢金が付いた覆面からは、紫のアイシャドウを引いた切れ長の目が見降ろしている。


「助けた、ですって?」

「然様。あの者たちは背を向けたお主らに攻撃を加えようとした。余計な手出しかと思ったが、どうやら気付いていない様子だったのでな」

 つい助けた、と忍者は軽やかに飛び降り、音も無く凛達の前に着地する。

 見た目は完全にコスプレのようではあったが、身のこなしは忍者らしく静かでしなやかだ。


「そうなのか、助かった。ありがとうな」

「いやいや、貴殿もお強いようだから不要な手助けだったかも知れぬ」

 素直に礼を言い、和やかに話している凛とは対照的に、綾乃の方は訝しむ視線を向けていた。

「ん? まあ、実際にあ奴らが何かしようとしているのを見たわけでもなかろうから、疑うのは仕方ござらぬ。だが、そんな目を向けるものではないぞ。ほれ」


 片眉を引き上げて諭す忍者は、顔を覆っていた覆面を引き下げた。

「顔を隠しているのが怪しいというなら見せてやろうさ」

 露わになった顔は、凛や綾乃と同じくらいの年齢か、ひょっとすると少し下かと思えるような、可愛らしいものだった。

「満足かね? まったく、折角助けてやったのに、こうまで疑われるとは。隔離特区とは何とも業の深い場所か」


「……ありがとう。一応、お礼はしておくわ」

「よろしい。礼は確かに受けた。人助けの報酬など、それで充分というものよ」

 うんうん、と大げさに頷き、忍者は再び顔を隠した。

「名前を教えてくれよ。オレは麻木凛。こっちは神久綾乃」

「ちょっと、何を勝手に教えているの!」


 怒っている綾乃を宥める凛に、ふと目を細めて聞いていた忍者が答えた。

「そうか……拙のことは風丸とでも呼んでくれ」

「おお、忍者の愛称って感じだな。カッコいいぜ」

「ふふ、ありがとうな。ところで、お主らは二人で行動しているようだが、これからどこへ向かうのかね?」


 風丸の問いに、凛は肩をすくめた。

「さぁな。綾乃に聞いてくれ。オレはとりあえず、ここのことがちゃんとわかるまで、こいつについていくだけだから」

「十日間だけよ。それを過ぎたら好きにしなさい」

「へいへい」


 仲が良いことだと目を細めた風丸は「良いことを思いついた」と切り出した。

「少し同行させてくれまいか。拙はしばらく一人で移動していてな。流石に疲労が溜まってきている。お主らなら信用もできそうだ。どうだろうか、その十日間、拙も何かと教える故、同行させてはくれまいか」

「良いんじゃないか? 一人だと大変そうだし。なぁ?」


「はあ、もう勝手にしなさいよ。私はもう疲れたから、今日は早めに寝床を決めるわよ!」

「これは僥倖。では、よろしく頼む」

 刀を髪の中に納め、のしのしと歩いて広場を出ていく綾乃に、風丸もするすると静かに歩いてついていく。


「自業自得だとは思うけどよ……喧嘩は勝っても負けても恨みっこ無しってことで、成仏してくれ」

 もはや完全にこと切れているパーカー女たち二人の死体に手を合わせた凛は、首筋に苦無を受けている様子を見てしばらく考えていたが、続ける言葉も出てこず、もう一度短い黙祷を捧げてから、綾乃たちを追った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ