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私のメシア様

作者: 猫神父
掲載日:2017/06/24

 僕は後一年で死ぬ。

 そう医者に告げられ、家族は泣いていた。

 死ぬのは怖くなかった、いや、興味が無かったんだ。

 病気で死ぬ、そう言われる前に僕は生きていなかったのだから。

 ずっと寝たきりな生活。

 外に出るだけで体調を崩すような軟弱な体。

 そんな中、僕が夢中になってた物がMMORPG「シーリーズ・オンライン」。

 別に今流行りなVR系でもない普通に普通なMMORPGだ。

 PC上でアバターを動かすだけの普通なオンラインゲーム。

 どうせ僕は寝たきり生活なニートさ。

 例え画面の向こうの世界だからって・・・、夢中にならないわけはないだろう?

 そして、新しいパッチが当たるメンテの前日。

 メンテが始まる前に仲間達と話をしていた。

 まぁそういう人たちは多いだろう。

 メンテが始まったら強制的に落とされる。

 そんなもんだ。


 けれど・・・、その日は違ったんだ。

 落とされたのは・・・ゲームではなく僕達が落とされた。

 ゲームの世界に、僕達は落ちたんだ。

 僕は、僕が作ったキャラクター「メサイア」として・・・。


 僕の仲間達以外にも似たような人は多かったらしい。

 メンテまで普通にログインしていたプレイヤー役2000人前後。

 メンテ前まで居たのは僕が購入したキャラクタールームだった。

 けれど僕らがゲームに落ちた時、居たのはシーリーズ・オンライン最大の都市「アロンド公国」。

 まぁ簡単に、わかりやすく言えば最初の街だ。

 そこで僕ら落とされたプレイヤー達は言われた。

 「七人の魔王を討伐したら元の世界に返してやる」と。

 けど僕は気づいていた。

 薬で抑えつけていた体のあの辛さ・・・。

 それが今は無いと、そして・・・今、僕は生きていると。


 それからの僕は活躍した。

 皆が嘆き恐れている間に一人レベルを上げ、武器を揃え一人で四人もの魔王を討伐して見せた。

 ボロボロになりながら、時には体の一部を失いながら。

 幸い一人で戦うのは問題なかった、元々ソロで活躍できるようにしてあるスキル構成だしジョブも聖騎士だ。

 けれどその程度どうでもよかった、僕は生まれて初めて生きる事が出来たのだから。

 その姿にみんなが立ち上がってくれたのは嬉しい誤算という物だ。

 おかげで失った体の一部も元に戻った。

 皆が一丸となって六体目の魔王を討伐して最後の魔王を討伐すると言う時。

 僕は恐怖した。

 きっとこいつを倒せば僕は・・・僕達は間違いなく元の世界に帰れるんだろう。

 それは嘘偽りはないはずだ。

 だからこそ・・・僕は怖かった。

 だって僕の体は余命一年と言われていた。

 そしてこの世界ではすでに一年以上が経過している。

 きっと元の世界に戻った時・・・、僕は死ぬのだろう。

 それがたまらなく怖かった。

 戦っている時は怖くなかった。

 僕は戦っている時に今を感じ、未来を感じ、生きる事を感じていた。

 あの一秒、一瞬がたまらなく愛おしいと思えるほどに。

 けど・・・元の世界に帰るのは違う。

 待ち受けるのは生きているという充実ではなく、死。

 けれど僕は止まれなかった。

 いや、怖くても止まる気がなくなったんだ。

 死ぬのは確かに怖い、けれど、僕が戦う姿を見て、僕を応援し、支えてくれ、共に戦っている仲間達。

 きっと死ぬだろう僕が最後に望むのは、彼らを元の世界に返してあげる事。

 それを成して死ぬなら・・・、怖いけれどまぁ悪くない。

 本当はもっともっと長く生きていたい。

 そう思えるほど僕は生を実感した。

 けど良いんだ、僕はここで死ぬ。

 最後の魔王を倒して、みんなと共に元の世界に帰って死ぬ。

 それが今一番、僕が欲しい未来。

 生きる事をしてこなかった愚かな僕が望んだ輝く様な死への未来。

 どうせ失われる未来なんだから、皆の為に死のう。

 そう、思っていたんだ。






 「ステラ!今ここでお前を断罪する!」


 今、私は兄であるロバート殿下から断罪宣言を告げられている。

 私はステラ・ウィルフォード。ウィルフォード公国の第七公女だ。

 第七公女と言っても王位継承権からほど遠いにもほどがあり、今いる王位継承者全員が死なないと回ってくる事は無いだろうレベルのものだ。

 私は疎まれた公女、今は無きある国の姫だった母から生まれ、私が生まれたせいで国が滅んだ呪われた子。

 誰も私を見てくれなかった、誰も私を愛してくれなかった。

 けど一人だけ・・・兄であるロバートだけは、私を見てくれていた。

 なのにその兄は私に敵意をむき出しにした目を向けてくる。


 「お兄様。何故そのような事をおっしゃるのかきちんと理由を教えていただきたい。」

 「何故だと!?何故というか!アリスにあんなにも嫌がらせをしておいて!!」


 嫌がらせ?何のことだろう?

 確かにあのアリス嬢には苦言を言った事はある。

 けどそれは「婚約者がいる殿方と二人きりになるのはよくない」だとか「きちんと貴族のマナーを」と言った貴族であれば当たり前の事だ。

 彼女だって男爵家の者なのだ、きちんとその教育は受けているはずなのに、なっていないから注意はした。

 なのになぜそれが嫌がらせなのだろう。


 「確かに私はそちらのアリス嬢に苦言を申しました。けれどそれは貴族として当たり前のマナーについてだけです。それの何が嫌がらせだと言うのですか?」

 「この俺を謀るか!お前が彼女の命までも狙ったとアリスが涙ながらに教えてくれたわ!!」


 何の話だろう?

 もう訳が分からない・・・、私がアリス嬢の命を狙う?

 そんな事するわけないじゃないですか・・・。

 私は王家の人間、アリス嬢は男爵家。

 命を狙う必要は無く王族の命で「貴族の娘として教育を施せ」と命令すればいいだけなのになぜ命を狙わないといけないのか・・・。


 「アリス嬢の命を狙ったというのは私の記憶にございません。確かな証拠でもあるのですかお兄様。」

 「貴様!白を切る気か!!」


 そう言ってお兄様は剣を抜きました。

 あぁきっと私の命はここで終わってしまうのでしょうか・・・。

 第一王位継承者が腹違いとはいえ妹を斬る。

 きっとこの国は荒れるでしょうね・・・。

 けれどきっとこれはお兄様が公平に物を見る為の試練。

 甘んじて受け入れましょう・・・。



 バリーン!



 何かが割れる音がした、私が斬られたのを見て驚いた誰かが窓でも割ったのかしら?

 そんな音だった。

 けれど目を開くとお兄様は目の前に無く、そこに居たのは一人の騎士と考えられないような化け物だった。

 騎士の顔はわからなかった、けど見た事も無い様な見事な装飾が施された白銀の武具だ。

 そのあまりの見事さからこの国の騎士ではないでしょう。

 そして化け物。

 確かにこの近郊に魔物が出ると聞いた事があります。

 きっとそれらの王、魔王の様な物なのでしょうそれは。

 それ位の恐怖を感じると共に、なぜか安堵も感じます。

 そして彼らの向こう側、まるでガラスの様に空間が砕けていました。


 「来るなぁぁ!!」


 目の前の騎士が叫びました。

 よく見ると空間の向こう側から何名か・・・、この騎士と似たような姿をした人達がおりました。

 なぜ仲間を呼んでこの魔王を倒そうとしないのでしょう・・・?


 「お前達はそこで見ていろ!決して次元を超えるなぁ!!」


 そう言って彼と魔王の激闘が始まりました。

 初めの内は集まっていた貴族たちは逃げてました。

 お兄様はアリス様を見捨てて真っ先に逃げていましたね。

 アリス様はゲームと違う!なんなのこの展開イベント!と訳の分からない事を叫んでおりました。

 なんだか哀れですね。

 皆が逃げる中、私だけはじっと彼の戦いを眺めていました。

 なぜかわかりませんが私はその場を動けなかったのです。

 恐怖から動かなかった・・・?いいえ、恐怖は一つもありませんでした。

 ただ、命を賭けて魔王と戦う騎士に・・・なぜだか悲しみを抱いたのです。

 彼は傷ついている。

 いえ、確かに戦いで少なくない傷を体に負っているのですが・・・心が傷ついている。

 彼はきっと孤独なのでしょう、家族に捨てられた私と同じように・・・。

 けど彼の孤独と、私の孤独はどこか違うように感じます。

 だからなのでしょうね、彼をしっかりと見ていたいと感じたのは。


 会場から貴族が消え、騎士団が到着しても彼はそれと戦っていました。

 騎士団は誰一人、彼の援護をしませんでした。

 というよりも困惑しているという感じがしました。

 私に騎士の強さという物はわかりません。

 けど彼ら騎士団からは彼に対する尊敬と畏怖の眼差しを感じました。

 それほどまでに見事な戦い方だったのでしょう。

 そして・・・、決着がつきました。

 魔王は打ち倒され、彼が勝ちました。

 魔王はその場で玉の様な物になり、彼はそれを割れた空間へと投げました。


 「僕はこれで良い。一度次元を渡ったらもう帰れないとこっちに来た時理解した。」


 それは・・・とても穏やかな声の、仲間への決別の言葉でした。

 向こう側の彼らは、泣いていました。


 「僕に報いたいと言うなら生きてくれ!元の世界に生きて帰り、生きる事を繋げてくれ!生きる事は素晴らしいんだと!それが、それだけが僕の願いだ!!」


 そう言って彼は・・・、空を斬りました。

 向こう側の彼らが何かを叫んでいたようでしたが、彼がそれを斬った事により、まるで初めから何もなかったように・・・空間は元に戻りました。

 それを笑顔で見送った彼は倒れそうになりましたが、私があわてて彼を受け止めました。

 けど重いです。

 騎士という方達はこんなにも重い鎧を着て戦うのですね。

 彼が何か空を切るように指を動かすと、彼が着ていた鎧や武器が消え去りました。

 これが噂に聞く魔法という物でしょうか?


 「ごめんねお嬢さん・・・。余りに疲れてもう一歩も動けないんだ。」


 彼はとても弱弱しい笑顔でした。

 それは何かに満足して・・・満足しきって死んでいく、そんな死者の笑顔でした。

 彼のそんな笑顔を見た瞬間、私は初めて思ったのです。

 彼を生者の笑みを浮かべさせてやりたいと、そしてそれを間近で見ていたいと。

 きっとこれが私の初恋なのでしょう。


 「私はステラ・ウィルフォード。騎士様、あなたのお名前は?」

 「僕は騎士って程の人間じゃないよ、名前は・・・。うん、メサイアって言うんだ。」

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