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(空白)  作者: 顔が盗賊
魂の一歩
3/6

3. パライドの人柱




「申し訳ありませんが、大人しくして頂きますよ?」


「なっ!?」


 燕尾服の男を合図で、騎士が一斉に飛び出す。水戸は驚きで仰け反り、祭壇から落ちてしまう。

 騎士はそこに殺到した。あの距離を一瞬で詰めた彼等は水戸に圧し掛かり、拘束。おおよそ穏やかではないのは確かだった。

 水戸は、痛みに苦悶の表情をつくるが、それを気にする者は一人もいない。それどころか、騎士の一人が出したロープを使って水戸を縛り上げてしまう始末だった。


 それを見た燕尾服の男は悠々と祭壇に近づき、階段をひとっ跳びしたかと思うと、目の前に来て水戸を見下ろす。

 対して水戸は、負けじと眉間にこれでもかと皺を寄せ、その男を睨みつけた。


「ふむ。黒髪とは珍しい。それに……おや? 魔力の方は、ちぐはぐな感じが……」


「何、をっ」


「で・す・が、今までと同じく、役に立たない事は明白。ほほほ。その反抗的な目も……、知識も然る事ながら、といった次第ですかね」


「何を意味わからない事言ってやがるっ。ふざけた真似しやが――」


直後、水戸を強い衝撃が襲う。

 水戸が反論した矢先、拘束していた騎士が水戸の首筋を打撃し意識を奪った。

 燕尾の男は、力を失った水戸を見下ろして言う。


「ふむむ。これだけ威勢がよければ、そうですね。“あちら”では、少しは役に立つでしょう。連れていきなさい」


 力なく垂れ下がった四肢。

 騎士は意識の無い水戸を、あたかも物を扱う様に運んでいく。――実際、これから物として扱われるのだから問題ないだろう、と。

 飛び出して来た時と比べ、世間一般の歩調で神殿を去った騎士達。

 そして、自分以外誰もいなくなった神殿で、燕尾服の男は言う。


「知識は、期待すべきでもないでしょう。おっと、これはもう言いましたか。いやはや。まぁ、今回はこれで良しとしますか」


 言葉の終わり、男がパチンッと指を鳴らすと、水戸の寝ていた祭壇を中心として、一瞬だけ魔法陣が浮き上がる。

男はそれを見ると満足し、騎士達を追う気も無く悠々と神殿を後にしたのだった。


 だが……ただ一点だけ。

男の意図で現れた魔法陣が、――水戸に使われた魔法陣と全くの別物だったことに、気付くことも無く。




―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――




 水戸は揺れる視界の中で目を覚ました。目覚めたばかりで目の前がぼやけている。

 辛うじて分かるのは、ここが薄暗く狭い空間という事と、唯一の光源が細いスリットの様な孔から差し込む光だけという事だ。

 水戸はぐらつく頭を何とか持ち上げ、気怠い体に鞭打って立ち上がる。

 しかし、突如として襲って来た大きな揺れに転倒、地面に腰を打ちつけてしまう。


「っ、痛ぅぅ……」


 それでも、何とか痛みをこらえて立ち上がる。ここがどこか確かめねば、と。

今度は転ばない様に壁にしっかりと両手をついて、不格好な中腰で移動を始める。

 そして、光が差すスリットまで着くと、そこから向こう側を覗き見た。


「嘘、だろ……」


 驚きべき事。スリットの先に広がったのは、――大空だった。

 焦点が合ってきた視界の先。青と緑の水平線と、眼下に広がる雄大な自然があった。

 そして、気付いた様にそこから見上げると、さらに驚かされる。――バサ、バサ、とファンタジー御用達の、飛竜の翼が目に入ったのだ。

 水戸は思考が戻ってきた頭で悟る。どうやら、自分は飛竜が抱える(かご)の様な乗り物に乗っている様だと。


「す、すげぇ……」


 その光景に“凄い”と、ただそれだけが水戸の頭を支配する。

 ここがどこなのか、誰に連れて来られたのか、何が目的なのか。その景色が全てを些末な事にする。挿げ替えてしまう。

あの忌々しい記憶。神殿で意識を奪われた事さえも、水戸の頭から消し飛ばしてしまう。

それ程の感動があったのだった。


それからしばらく、水戸は無限に広がる大自然を堪能した。すごい、すごい、と同じような意味を繰り返し口にしながら。

 ……だが、幸か不幸か。その呟きに反応し、そこから現実に引き戻してくれる存在が水戸の近くには、いたのだった。


「おい、そこの若いの――」


 水戸は驚き、振り向く。するとそこには――初老を完全に越え、白い髪と髭の伸び放題にした、鎧の男――老兵士がいた。

 水戸は、あの光景を見るまで視界不良と頭のふらつきが重なっていて、この狭い空間に他人がいる事すら分からなかったのだ。

 男は言う。


「そんな若いなりで“こいつ”に乗っちまうとは……。この帝国が終わりなのか、それとも、世の人間がみーんな腐ってんのか」


「え、あ……。何っ? 一体、何のことだ。――“こいつ”とは、何だっ」


 どこか意味を含む男に、水戸は詰め寄る。狭い空間にも関わらず、復調しきらない水戸の身体では、その距離が遠く感じた。

 やっとの思いで辿り着き、うって変わって険しい顔で先を促す水戸。しかし男は、憐みにも似た顔で言う。


「それとも、おめぇさん、犯罪で捕まったりしたか? 高位魔導士の親が捕まって、その子供もぉ、てぇ線もあるな」


 馬鹿にしているのか。男は水戸に耳を貸さず、話が続かない。

 しかし、それは水戸を無視しているのではなく、既にこの世に達観している、そんな顔だった。

 だが、それでも知らなければならない。水戸はその一心で男を揺さぶると、その激しい動きに対して男は、どこまでも緩慢な動きで応えた。


「んお? あ、あぁぁ、“こいつ”の事だったか。まさか……知らねぇ、とはな」


「だからっ、“こいつ”とは何だっ」


 水戸はそろそろ頭にきてしまう。普段ならここまで感情的になる事は珍しいが、何しろ分からない事だらけだ。それに、揺れが幾分か激しくなってきたのを感じ、決して小さくない焦燥感も生まれていた。

 男は、剣呑な雰囲気を出す水戸に変わらずといった姿勢で続けた。


「本当に知らねぇのか……ここは、……“こいつ”は――」




 ――しかし突如、ガチンッ、という音と共に、水戸を浮遊感が襲った。


「な゛!?」


 床の破片、埃、塵の様な欠片。それらが全て宙を舞い、この粗末な空間を満たしていく。

 それも、幾らか秩序だった動きは突然、空間をない混ぜにする激しい動きに変わった。

 光の差していたスリットが明滅を繰り返し、重力がごちゃ混ぜに訪れる。

 そう。“こいつ”の正体は――。


「こい、つ、は――俺達、を燃料にし、た――“爆弾”(棺桶)、さ」


 落下。

 飛竜から切り離されたであろう(かご)は、水戸と男を激しく振り混ぜながら、きりもみして落下する。

 そして、数秒か数分か、時間の感覚も曖昧なった世界で、水戸は最後に――激しい衝撃を受け、意識を手放した。




―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――




「一番、投下。魔女の庭に着弾」


 飛竜の上で一人の騎士が言う。――彼は帝国の誰もが羨望を送る“竜騎士”の一人だ。

 帝都の防衛に就く彼の部隊は本日、特殊な任務を言い渡された。それは決して初めてという訳ではなかったが、前回から久しいのは誰に聞いても同じ。

 そしてそれは、国に仕える騎士にあって珍しく、選抜を“拒みたい”と思う唯一の任務だった。


「“救国の爆弾”投下任務、完了。帰投する」


 聞こえは実に良い。だが現実は――生きた人間を燃料にした魔力爆弾。

 人間は死ぬ時に残った魔力を爆発的に放出するというのは、あまりに有名な話だ。

 戦争では、高位の魔導士が魔法の流れ弾に当たって死んだ時、その放出魔力で味方陣営に被害をもたらしたという。

具体的には、魔道具の暴走や魔力に敏感な従魔、使役魔獣の混乱があったらしい。

 戦時において、その被害は戦況に大きく作用し、ある戦線では撤退を余儀なくされたという話も耳に新しかった。

 それ程までに“死”によって放出される魔力は膨大なのだ。


 ――そこで、魔導士者達は考えたのである。人間が死で放出する魔力を効率的に、現世の現象に転換できないか、と。

 魔法は本来本人の意思で実行される。体内の魔力を意思で変換し、それを現象として世界に“与える”のだ。

 魔力はこの世界形作る最小単位、というのが今の定説。現に魔力を変換する事で人は超常した現象をつくりだし、それを魔法と呼んでいる。

 だから、それを人工的に――“外的”に引き起こす事ができれば――。


「囚人、二・五・五・一。魔力暴走を確認」


 飛竜の背後、深い森の中から光が漏れる。――竜騎士が知る中で、特別強い光ではない。


 帰投といえど一応は避難と同じで、竜騎士は飛竜に増速の指示を出す。

 ――いつもの事だ。火系の魔核を飲まされた囚人は死の直後激しい炎を以って有終の美を迎える。囚人には元高ランクの冒険者などが選ばれるため、中には落下の直後には死なず、“半死”の状態で体中から炎を噴き出しながら闊歩する者までいるが。

 そして彼等は例外なく一つの目的――帝歴千年をもって尚、焼き払う事叶わない森<魔女の庭>への“爆弾”になる。それだけは変わらない。


(――? もう一人が遅いな……)


 本日の囚人は二人。反逆罪で逮捕された元帝国兵と――珍しい、黒髪の青年だった筈だ。

極東には、そういった人種がいると聞く。もしや、その周辺国のスパイだろうか。

 ともあれ、竜騎士は『腐っても兵国兵。当然力をもっていたであろうし、そこそこ死ぬまでに時間が掛かるのかもしれない』と半ば感銘を含む感情を得る。

 彼を投獄した帝国に異を唱える事はしないが、それでも元は立派な兵士だったのだろうと、最後に帝国のために死んだ老兵へ静かに礼を捧げた。

 ……そう、この時点で、先程の光は青年の死によって発せられたものだと、竜騎士は疑っていない。


 ところで、近年頻度を増す『パライド』――魔獣の大量発生と、近隣の一都市に集中する攻撃――は、帝国にとって頭痛の種だ。

 そこで魔獣の絶対数を減勢するために、最近は少々力の弱い囚人でも爆弾として選ばれる事がある。もしかしたら、あの青年もそうだったのかもしれない。

 まぁ、彼がどんな理由で選ばれたか知らないが、それを詮索するのは仕事ではないし、すべきでもない。それは職務上も、精神衛生上も変わらない。




 既に飛竜は森の上空を抜けた。あとは郊外の駐屯地に帰還するだけだ。

 本当のところ、“爆弾”投下後には監視の任務などなく、竜騎士の言った通り帰投するだけだった。

 勤勉な彼は、自ら任務に項目を追加していた訳だが、本来“魔女の庭”は人が生存できる環境に無いのだ。


 ――瘴気と呼ばれる魔力の亜種。それは人間にとっての猛毒。

 その具現たる霧が立ち込める森はたちまち方向が分からなくなり、またどこから魔獣が襲って来るか見当がつかない。

 しかも、運良く見当がついたとして、その魔獣は近衛騎士をもってして一対一で戦う事が(はばから)れる。奴らは、恐ろしい強さ、狡猾さを持ち、あらゆる面で人間を凌駕するのだ。

 この話も、当時最強の騎士隊長が、重症を負いながら持ち帰ったもの。なんとも恐ろしい話である。


 とどのつまり、監視などと言うものは全くの不要。それどころか、貴重な戦力である飛竜と竜騎士をいち早く安全圏に退避させる事の方が重要。それが現状、帝国軍の判断でもあった。

 かくして、飛竜は自らの拠点へと帰投した。

 終ぞ、投下した囚人二人目の、――命の輝きを見る事も無く。




―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――  ―――




「ぅ゛、うっ、ぅぁ?」


 口の中が苦い。砂だろうか。唾液と混じってじゃりじゃりと不快な音を立てる。

 右の頬。湿った地面がジトジトとネバネバの中間で冷たく体温を奪う。顔どころか、うつ伏せに倒れる体は酷い有様になっているに違いない。

 ――水戸は頭を必死に動かし、ぼやける視界で周囲を視る。

 薄暗がりのそこは、ただでさえ視界の確保できない水戸にとって、ここがどこであるかを明かさそうとしない。

 チラチラと、否、濃い霧がかっている事だけは分かるが、それ以上の情報は何も分からなかった。

 水戸は何とかして全身の筋肉に指令を送る。鉛のような腕を動かして、せめて体を仰向けにしようと全身を捻る。


「――っ、はぁ、はぁ……」


 やっと地面から解放された。ぼやけていた視界も、全力の寝返りで頭に血が回って来たのか、幾分か明瞭になった。

 ――荒い息が霧になって周囲の白と混じる。ここは気温が低いのか。

 ただ、雪がある訳でもない。あるのは、見上げても天辺の見えない――巨木の森だけ。

 水戸は背中に湿り気を感じながら頭を左右に振る。泥が付こうが気にする気力もない。

 視界の中はどこもかしこも木、木、木。まるで、自分がどれだけ矮小であるかを知らしめる様に、天に向かって真っすぐとその威容を伸ばしていた。




 それから水戸は、自分を見下ろす巨木の軍勢を眺めながら体の感触を確かめていく。

 いくらか楽になった呼吸で全身に酸素を取り込み、各所を点検していく。


(肩、腕……よし。手の指も、全部動く)


 両手は大丈夫なようだ。次は脚。


(股関節、膝、足首、指……動くし、痛くもない)


 手は最悪痛みがあってもよかったが、脚だけは頂けない。

 それは、人間の最初にして最後の移動手段だ。いくらぼやけた思考でも、その重要性だけは分かる。

 人は何をするにも移動から始まるもの。そうでなくては何も成し得ない。

だから、そこに痛みが無い事は大いに喜ぶべき事だった。


 それから腰や背中、体の主だった部分を点検した水戸は、腹に力を込める。ゆっくりと慎重に体を起こして、立てた片膝に腕を乗せる。

 もう視界のぼやけていない。水戸はピントの合った風景を改めて眺めた。


(湿地帯の森……か?)


 それも早朝の。

 水戸は気候などに詳しい訳ではない。ただ、霧があって木が乱立している、という光景からそんな事を言ったのだ。――しかし一点だけ、何故こんなにも息が白いのか、という疑問は明確に持っていたが。


 水戸は、疑問はさておき、と立ち上がる。

 体重の乗った脚に違和感が無い事を確認してから、どこへともなく歩き始めた。

 何しろここは森。――霧が立ち込め、視界が不十分な……異世界の森だ。

 普通『異世界』や『世界の壁を越えた』などという考えは眉唾物。しかし、神殿でも味わった確かな“死”の記憶と、先程まで水戸を運んでいた飛竜(の翼)の事を考えれば、現実味を帯びてしまう。

 よって水戸の中では、ここが異世界である事は半ば確定していて、それは同時に、……この森にあらゆる危険が潜んでいる可能性を示唆して止まない。


 魔物、魔獣……ゴブリン、オーク、とファンタジー御用達の面々が水戸の頭の中で顔をそろえる。

 仮に自分に何かしらの能力があったとしても、正体も使い方も分からない今、彼等との邂逅は避けるべきと考える他ない。

 だから水戸は、ひとまずここを離れようと思う。落下してきたという事は大きな音を立ててしまった筈だ。

 あの高さからの落下で生きていた事に水戸は、奇跡が過ぎる、とも思ったが、やはりまずは移動が重要だと、それに専念した。


 しかし、行くあても無く歩き始めたというのに、水戸はとある現場に到着してしまった。

 それは“穴”だ。正確には、水戸を二十人は埋められそうな巨大な窪み。

 窪みの周りは盛り上がり、まるでクレーターの様だった。そして、その掘り返されたような地面には、大小様々な木片が混ざっていて――。


(落下、痕……)


 それ以外に考えられない。木片はバラバラで元の形など全くの不明だが、その一つを叩いてみると、水戸は覚えのある感触を得る。

 あの粗末な感じだ。――恐らく、壊れる様に作られていたのであろう、あの(かご)の。


(あ、あいつは……)


 ここで水戸は思い出す。ここに落ちたという事は、あの老兵士はどこへ行ったのだろう、と。

 地面に落ちる瞬間の事は覚えていないが、少なくとも同じ乗り物にいたのだ。――彼の安否は不明でも、近くにいる筈である。

 水戸は探し始めようとするが、その一歩を踏み出した時、それを見つける事になった。

 足跡だ。それも、片方を引きずる様な。それでいて、もう片方は力強い様な。

 水戸は、その歪な足跡を追っていく。躊躇などは一切ない。

 なにせ、歩行できる人間だ。そして、同じ運命を辿った者同士でもある。

押しつけがましい同族意識でも構わない。今はただただ人がいると、それを信じて足跡を追った。


 ――そして、それは巨木の影から垣間見えた……。

 水戸は、それを信じられず、恐る恐る、巨木を回り込む様に横に歩く。徐々に見えている向こう側の景色に、思わず息を呑む。


「――っ!? う゛ぇぅっ」


 その光景を見た瞬間、水戸を強烈な吐き気が襲った。

 しかし、元から吐き出すものなど無かったらしく、胸を押さえ中腰のまま顔だけ前に突き出す格好になる。

 その原因となったもの。目の前にあったのは――血肉の絨毯だった。


 何モノか、誰のものか。本来どんな姿をしていたか、何一つ分からない不定形の散乱物。

 血みどろ、ごちゃ混ぜの内臓と思しき“何か”が、森の一角にこれでもかと散乱、混在していた。

 しかも、それは地面を覆い隠す程の厚みを持っていて、本来液体を吸う筈の地面の能力を超え、あたかも内臓を土手にした様な血だまりを各所につくっている。


 ――水戸は、胃に感じた激痛をなんとか(おさ)めると……その中へと進んだ。そう、まるで何かに誘われる様に。

 進む足は嘘の様に軽く、そこには抗うという意識を許さない。

 何故。“おかしい”と分かっていても、ただ“おかしい”と言う疑問のままに終わってしまう思考のループ。

 想いに反して、びちゃびちゃと踏む足は、増々速度を上げていく。

 そして、それが走る一歩手前まで達した時。水戸は“目的の場所”へと、到着したのだった。


「ぅあ゛っ」


 すると突如、水戸は身体の支配権が戻ってきたのを感じた。

それと同時、いままでループに叩き込まれていた疑問の束が、どっ、と一気呵成に水戸の思考へと流れ込む。

 ……だが、今の水戸には、それさえも全て些末で取るに足らないものに思えてしまっていた。

 何故なら、それらを凌駕する光景が目の前に広がっていたからだ。


「ぉ、お……いっ」


 水戸の眼前。血肉の絨毯の中心にあったのは、焼け爛れ、灰色の肉を僅かに残した――“人間の死体”だった。

 その死体は、まるで内側から破裂した様にも思えて……。

 綺麗に肉が引き剥がされた骨は物悲しく、外側だけが白くて、なんだか、美しかった。





続けてお読み頂き、ありがとうございます。

次話も、よろしくお願いします。

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