2. 願いから成るイザナイ
『皆、集まってくれ』
白。 ――それは、無限に続く白。
宇宙などちっぽけに見えてしまう程に広大。世界の輪郭すら見えない程に巨大。
その限り無い空間の中心に、曖昧な存在が八つ、ふわりと姿を現す。
『皆、いるね? ――遂に、遂にっ、僕達の――希望の光が見えた』
『『『おお!』』』
一つの存在が輪の中心に投げ込んだ言葉。
直後、七つの輪郭は驚く様に、同時に、良き知らせを喜ぶ様に揺れた。
『なんと。永きに渡り、待った甲斐があったな』
『某、待ちわびたのである』
それは、声色も口調も性別も、雰囲気さえも定かではない。
『まぁ、落ち着いて欲しい。後は、“奴”が欲するだけだよ』
『それなら安心だ。“奴”は必ず欲する。君が“希望”と言うくらいだ。それこそ魅力的に見えるだろう』
だが、そんな彼等はお互いだけが知り得る、重みの籠った声をぶつけ合う。
『その通りだ。これで、我々も開放される』
『全ては私達の無力の所為。それでも……』
『ああ。それでも、“奴”のした事は許されるべきではない』
『そうであるな……』
そして一時訪れる静寂。それは噛み締めるための時間。
彼等が確かに歩み、それでいて踏みにじられた、そんな人生を想い、尊ぶ時間だった。
それから数分か数時間か、はたまた数年か。
時間さえ曖昧になる空間の中、ようやく満足した彼等は自分達の存在を確かめ合う様に集まる。
――満を持す。その言葉がピッタリと当てはまる雰囲気。
中でも、それを強く醸し出す存在が一つ、在りもしない口を開いた。
『――僕は、彼に全てを託そうと思ってる。本当に、全てさ』
『もちろんっ』
『某も』
『異議なし』
『賛成』
『『『異議なし』』』
それは全会一致での可決。
彼等だけが知り得る議題は、何一つ異論無く、審議を終えた。
そして突如。何の前触れも無く、誰から言う事も無く、彼等の存在は一斉に掻き消え、議会は閉幕した。
――ところが、挨拶も無しに消えた七つの存在に、一つだけ残った“彼”は呟く様に言う。
『随分、待ったなぁ。でも、これで、みーんな救われる』
存在の輪郭を悲し気に揺らし、彼はさらに言う。
『僕や彼等だけじゃない。道半ばで途絶えてしまった全てが、これで……』
そして、今度は輪郭を濃くし、あたかも輝く様に言い放つ。
『さぁ、来たれよ。僕達の……僕達の世界の、 ――――“最強の希望”』
輝きのピークを過ぎたそこには、もう誰もいなかった。
これにて本当の閉幕。
白に戻った世界は、静かに静かに、来たるその時を待つ。
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
「帰る」
「「「「……え?」」」」
翌日の高校。
昼休みの開始を告げるチャイムが鳴り響く中、水戸は突然家への帰還を宣言する。
当然、周りの同級生は驚きの表情をつくり、どうした、どうした? と集まり出す。
その中でも、ひと際騒がしい物が一名――。
「え、ええっ!! どうしたん? 完全無欠の無遅刻無欠席男、そのみ~と~が帰る? ……はっ!? 事件だ。おいお前ら、事け――、ぐぇっ」
バタリッ、と苦悶の叫びに続く様に、その結果が教室内に木霊する。
絞めを解き、被害者を横たえた加害者は実に清々しい表情で言う。
「……よしっ」
「え? え? よ、よ……」
一拍。
「「「吉沢ぁぁぁぁ!!」」」
「あー、今日もなんだね」
水戸の日々の健康ぶりをアピールしたかったのだろう。
水戸が早退する事を殊更大きな話題として宣っていた親友、吉沢常幸が無常にも当の水戸によって意識を奪われた。
……否、本当はそこまでする気は無かったのだが――普段もしない――水戸の羽交い絞めに対して“もがこう”とした常幸が早々に足を滑らせ、水戸の腕に自分の首元を強く押し付けてしまったのだ。
濡れても無い床でそこまで滑るとは……。それは加害者をして、全く以って不可解であった。
しかし、何故だろう。それにしても周囲の反応がおかしい。
周りの生徒に動揺は全く無く、まるでいつも通りの光景の様で……。
「よし、皆。“今日は”誰が保健室まで運ぶ?」
「じゃんけんしようぜ!!」
「はいっ、しゅぅぅごぉぉぉ!!」
同級生が気絶するなど、一般には尋常ではない出来事だ。
しかしこのクラスは異質。なんと、気絶した常幸を取り囲む様にしてじゃんけんを始めてしまった。
流石はスポーツ校(?)、必ず真面目な役回りの生徒がいるらしく、タオルでつくった枕と濡れタオルを持って常幸の下へと駆け寄る。
心配、というのは当然だが、どこかちやほやされている感も大いにある。そう、これ“も”水戸が振るう理不尽が『どうせ』と思える原因だ。
いつも初めに駆け寄る二人の女生徒――美人女子――を後目に、水戸は自分の机に戻る。
「吉沢君、大丈――」
「あれ? 白目剥いて……」
「それにしても水戸、本当にどうしたんだ?」
そそくさと帰る準備を進める水戸に、同級生の一人がそう言った。
「最近頭痛と眩暈が、な。幻聴もひどい」
「おいおい。それは校医に診てもらった方が良いんじゃないか?」
やはりここは名門スポーツ校。それ故、校医には実際の医療の現場から優秀な者をスカウトしていた。
だが水戸は、その尤もな意見を聞いても尚、家に帰るという考えを変える気は無い様で、いそいそと帰宅の準備を進める。
しかしながら、自分を心配そうに見つめるクラスメイトを無下にもしきれず、水戸は少し柔らかい表情で応えた。
「まぁ、大丈夫だ。ちょっと寝れば治るだろ」
「………」
その言葉に……彼は口を閉ざした。
何故だろう。水戸の言葉が、どこまでも空っぽに聞こえたのは。
水戸は、未だじゃんけんで盛り上がる集団を尻目に、静かに教室を出た。
――いつもなら必ず集まる他の仲間達が、この時ばかりは何も言わない事。
そして、凛が鎮痛な面持ちで背中を見ている事……。それに、気づく事もなく。
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
「う、う゛ぁ」
教員室で早退届を書いた水戸は現在帰宅途中。今は駅のホームで電車を待っているところだ。
しかしその最中、彼は最近よく起きる眩暈に襲われ、うめく。
水戸自身、その眩暈と表現して良いのか、それすら疑問に思う感覚。それは言うならば“遠くから意識を引っ張られている様な感覚”だ。しかもそれはここ数日多発していて、今襲われている感覚はその中でも群を抜いて強い。
――ぉ、おい…………なんだ、こ……れ。
今の時間は通勤時では無く、いつもよりホームは混雑していない。次に停車する電車まではまだ時間があり、皆本やスマートフォンを眺めている。
『まもなく、一番線を列車が通過します』
誰もが暇つぶしの道具に夢中になる中、水戸はゆっくりと、そして着実に前へ、前へと足を進める。
それは光に誘われる虫の様に、哀れで、滑稽で、物悲しい。仮に観る者がいれば、そんな風に見えただろう。
――ぇ、ぁ……。
彼は朦朧とした意識の中、たどたどしく“そこ”に歩いて行き、そして……。
――ドッと、砂利と布と……肉がぶつかる音を響かせ、吐き出される空気は、声にならない悲鳴を上げた。
「な゛っ!?」
「え? あ゛、おい!! 人が落ちたぞ!!」
重なる悲鳴。驚きの怒号。
「駅員! おい!! 駅員はどこだ!」
「誰かっ、非常……ボタンだ! とにかくボタンを押せ!」
悲鳴や怒声、駅員を呼ぶ声。すぐさま非常通報ボタンが押され、警報が鳴り響く。
そして彼等は、ホームに進入してくる電車に向かって、線路の方に身を乗り出す様にして、必死に停止の合図を送る。
「「おぉぉぉぉいいい!!!」」
「「「止まれぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
「止まってぇぇぇぇぇぇ!!!!」
火花が散り、線路が人が、悲鳴を上げる。――だが、どれもが遅い。
彼等の必死の努力も空しく、速度を落とす事叶わなかった鉄の塊が……。
――まて…………やめ、ろ……。
警笛が鳴る。……何度も、何度も。
感じるのは冷たい地面、砂利の味。そして、血。
より一層曖昧になる意識の中、水戸の眼前に眩い光が迫っていた。
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
『――――本当に……いやはや、興味深い量だ』
『なんと清い魂だ。……ちと色が気になるが』
『しかし、やはりと言ったら良いか、この世界のものではないな』
『だが強大だ。これなら我々の力も』
『ああ、彼なら、我らの力を全て内包できる』
『つまり、我々はもう……』
『そうだね。……もう、僕達は去るべきかも、ね』
――ぇ? なん、だ……?
無限の白。その空間に水戸はいた。
だが、身体の感覚が無い。それは麻痺というよりは明確に存在を否定する様な“無”だった。
『だが、意思は伝えねばならん』
『でも、“奴”も必死だ』
『きっと最後の抵抗に出るだろうね』
それはどこから聞こえているか分からない。誰が言っているのか、どんな人が言っているのか、それすらも。
『ならば、やはり“意思”だけ伝えよう。それなら“奴”の妨害も潜り抜ける事ができる』
『だが、それでは状況を飲み込めまい。今は我々でも“視えない”のだぞ』
『長い事、外界を視ていない……』
『仮に、儀式に下手な場所を使われていては彼の命も危ない』
『生き延びたとて、運悪く深い所に奴隷印でも刻まれれば、力技での対処は難しい』
『ならば力の開放は……』
『ああ。“奴”の支配崩壊と、彼が目を覚ますのはほぼ同時……いや、どちらかと言えば彼の方が遅い』
『やはり、意思のみか……』
『否、何か方法がある筈だ』
『しかし、この姿になった時点で我らは……』
『そうやって諦めるから、――』
『それ以上は――言うな。……お前も、分かっている筈だ』
――ぉ、おい……一体……一体、何を言っている。
議論は過熱。そこに水戸の入る余地も、方法さえもない。
遠くからか、近くからか、今も声の場所は分からない。……だが、彼等の必死さだけは、ひしひしと伝わってくる。
水戸は疑問に思いながらも彼等の言葉を、意思を、感じる様に、信じる様に聞く。
『――大丈夫。どの道、僕達はすぐには消えない。それに、彼はもう一度来るよ。僕が保証する』
『“いつもの”か。ならば致し方ない』
『そう言うなら……』
しかし、白熱していた議論は、まるで嘘の様に、たった一人の言葉によってあっさり収束を迎えた。
そして、誰から言う事も無く、彼等は己の存在を移動させる。
――あぁ……あ……。
水戸は“存在”などと言う感覚は知らない。だが、自分の周りに集まる様にして、近づいて来る彼等の事を確かに感じとっていた。
しかもそれは、壮大で、荘厳で、偉大で、どんな言葉も陳腐と思えてならない。
そう。言葉にする事自体、彼等の事を愚弄していると、そんな風に感じてしまう程の高潔。水戸は近づく彼等に対し、存在しない体で大きく息を呑んだ。
『おっと、そろそろ彼が目を覚ますね。 ――皆、準備は良いかい?』
『『『おう!』』』
直後、水戸の視界が変化する。
無限に続く白の世界に地面が生まれ、それは、水戸を中心にして勢い良く盛り上がった。
円盤の上に小さな円盤を乗せていく様に、小高く積み上がったウェディングケーキの様に――四段高くなった水戸の周りに、輪郭の曖昧な“椅子”が八つ、姿を現した。
その椅子達は水戸より一段下の段で円形に並び、水戸の事を取り囲む。
そして、その内の一つ。どれもが、静謐な雰囲気を醸し出す中。一番柔和な雰囲気を纏った椅子が、一歩、前へと歩み出た。
すると直後、彼等は水戸に語り掛ける様に、知らしめるように、――口を開いたのだった。
『さてさて――――ようこそ。強大な魂を持ち、それ故、導かれた者よ』
『そなたの魂は美しい。それでいて、膨大な力が渦巻いている』
『我々は、そう、囚われの存在』
『我らは、かつての伝説。今は忘れ去られし、哀れな伝説』
『しかし、ようやく現れた』
『君が、君こそが、それを紡ぎ直す担い手』
『君は資格を得た。我ら全ての賛同を得てして』
『君に、我らの全てを託そう。その力は君を、我らが終ぞ掴めなかった、高みへと導くだろう』
『――ここに僕達の全てを置いていく。使い方は君次第』
『さぁ、お行きなさい。君の新しい人生に、幸多からんことを』
ッ、――――――――
そうして、口を開く間も無いまま無限の白は輝きを増し、水戸の視界を急激に塗りつぶしていった。
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
――――っ!!
目覚めた瞬間、水戸は覚醒を己に告げる様にして、勢いよく空気を吸い込んだ。
咽かえりそうに見た天井は高く、今まで見た事がないもの。それどころか、本当にこの世のものか、と疑いたくなる程。
「――綺麗、だ」
口をついたのは、そんな真っすぐな言葉。
驚きも感情も、ない混ぜにした様な心の声は、広い空間にゆっくりと木霊した。
そう。ここはまさに神殿と言うべき場所。
高い天井は淡い光を放ち、ふと横を見れば細部まで精巧な彫刻、紋様の彫られた芸術の壁。
視線を僅かに下へと移すと、厳かな雰囲気の石像が神殿の中心を通る石畳の通路を挟み、まるで睨む様に見下ろしている。
地面には何本もの水路が刻まれ、その清流は遮る音も無く、水戸の耳を心地よく打っていた。
そして最後に気付くのは、自分のいる場所。
石畳の通路から階段を上った上。ピラミッドの上を切った様な構造物の上の、そのまた上。
まるで“祭壇”とでもいうべき場所に、水戸の体はあったのだった。
ともあれ、襲って来た感動はあまりにも大きく、水戸はしばしその光景に見惚れていた。
しかし、我に返ってみると頭を渦巻くのは疑問。
……何故、こんなところにいるのか。至極当たり前で、ありきたりな疑問だった。
――自分は高校生だ。電車とバスを乗り継いで学校に通い、友人と話し、勉強し、そして人生の大半を費やした、これからも費やす予定のアーチェリーに勤しむ、そんな。
家に帰れば母が夕飯を用意し、仕事から帰って来た父も一緒に食事をとる。風呂上りには牛乳を飲み、野球中継を見る父と同じソファーに座る。そして、熱くなった父の横で自分も熱くなり、親子そろって母に近所迷惑だと叱られるのだ。
その後、部屋に戻ると友人からのメールを確認して、宿題と、それから趣味に没頭する。
一日に終わりにはベッドの中で、明日は何が起こるのかと、日常に僅かな期待をしながら目を閉じるのだ。
それから、それから――。
それ、から……。
「――っ!? どうし、て……」
何故。
頬が、濡れる。どうして、涙が止まらないのだろう。声にならない震えも、止まってくれない。
ただ、自分の日常を思っているだけなのに。これからも続く人生の、ほんの少し先まで思い描いていただけなのに。どうして。
――ごめん……ごめんね。
「っ!!」
不意に訪れた言葉に、水戸は顔を上げた。
気付けば俯き、寝ていた石のベッドに暗い痕をつくっていた彼は、はねる様にして体全体を引き起こす。
そして周りを見渡し……しかし、そこには誰もいない。否、いる筈もなかった。
聞こえる世界も、見える世界も、全てが一人ぼっちの空間で、水戸に語りかける者など、いやしない。
でも、何故だろう。微かに、それでいて確かに聞こえた空気の言伝は、水戸も知らない力を持っていた様で……。
「なん、で」
――水戸の涙が止まる。堰を切った様に流れていた頬の二本は、すっかりと鳴りを潜め、水源から順番に乾いて干上がっていく。
溢した涙は全て神殿の空気に連れ去られて、触れる頬には何も残らない。
「そうか……。そうだよな」
水戸は体育座りの両ひざに頭を埋めると、涙を流していた時より悲し気な表情をつくった。
鎮痛、その表現が似合う。冷え切った顔をした水戸は、心の深いところで思う。
涙を止めてくれた“存在”に感謝すべきか、それとも――。
――憎むべきか、と。
何故なら……。
「俺は……死んだん、だよな」
水戸は思い出した。涙が止まるのと同時、あたかも“何か”が語り掛けてきた時を発端とするように。
水戸の頭の中は、まるで取りこぼしていた記憶が追いついて来た様に、一気呵成と情報の奔流に押し流された。
そして、水戸は知ったのだ。自分に訪れた悲劇を。
――駅、電車。
――叫び、血の味。
――死。
――死。
そう、やはりあの涙は“悲しみ”だったのだ。僅かに悔しさも含まれていただろう。
ところが、謎の存在はその熱を冷ます事を強制し、水戸の悲しみを“悲しませる事無く”止めてしまった。
だからこその、迷い。
感謝と憎悪――。感情を制御してくれた“何か”に、どちらを差し出したら良いか、最良の選択が判らない。
確かに、今は何もかもが判らず仕舞い。だから、状況を判断する上で冷静さを保つことは極めて重要。それは水戸の頭でも十二分に分かる事だ。
こんな状況の中、制御の言葉が一番当てはまらない人間の不完全なところ――『感情』という不安要素を一瞬で解決された事は、本来、喜ぶべきなのだろう。
だが、それでも思う。そんな不完全な人間だからこそ、水戸は。
「もう……会えないのか」
父、母、祖父、祖母。
親戚のみんな、そして、クラスの仲間達。もう、会えない彼等を強く想う。
……悲しめない心で悲しみを精一杯表現する。一向に熱くならない目頭を歪め、心の痛みを会えない彼等に必死で捧げる。
ところが、それが原因だろうか。まるで祈るような悲しみに、応えた声があったのは。
――君は、“必ず”死んで、“必ず”この世界にいる。
「う゛っ? なん、だ……?」
それは遠い声だった。
しかし、直後に襲ってきたのは、それが罠であったと疑ってしまう程の衝撃だった。
水戸は、頭をかち割られるような痛みの中で、これは何だ? と答えの無い問答を繰り替えす。
――突如襲って来た感覚。横からバイパスする様に入って来た“何か”。
その“何か”は、水戸の頭に“告げられ”、“教えられ”、――刷り込まれそうになる。
――プツッ。
だが、その混沌とした違和感の束は、一瞬の内に幕を下ろす事になった。
割り込み、まさに“水戸の根幹”へと乗ろうとしていた“何か”は、弾かれる様にして主道から外れ、頭の隅、ブラックボックスに似た場所にストン、と収まった、そんな感じがした。
荒くなった息、心拍。水戸は、それが急激に収まっていくのを感じる。
そして、重い体で石のベッドに座り直し、項垂れる様にして呟くのだった。
「本当、何なんだろう、な」
知らないと知っている場所、悲しめない悲しみ、成否・可否。
事柄の両極端にいる存在が、水戸の中で憎たらしい程仲良く同居している。
おかしな感情の宿主になってしまった。そんな自分に深く項垂れ、水戸は深い溜息を吐いた。
「――えーーっと、いい加減、終わりましたかな?」
「っ!?」
だがそれも束の間。水戸は、その嘲笑う様な声に顔を上げる。
神殿の入口、扉の無い門の向こうには――二十の騎士を引き連れた、燕尾服の男がいた。
お読み頂き、ありがとうございます。
次話も、よろしくお願いします。