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出会い

 突然聞こえた女の子の声に、僕は心臓が飛び上がりそうな程驚いた。「うわっ!」と声を出すと、向こうも同じように驚いたらしく、「きゃっ!」という悲鳴とともに、何かを落とす音が聞こえた。 

 声の主は、僕と年のそう変わらない、黒く短い髪の少女だった。こちらを見たまま、ひきつった顔で硬直していた。視線がぶつかり、僕と彼女はにらみ合うような態勢で、固まった。

 光に照らされた顔は、一見してわかるほどにきれいだった。

 長い睫毛は同じように切れ長の目を覆っていて、今は恐怖のせいか、涙で濡れているらしい。鼻筋は整っており、西洋人程ではないが、日本人にしては高い。唇は満開の桜の色で、これもまた恐怖でひきつっている。

 何よりも、肌が透き通るように白かった。

 光に照らされているせいかもしれないが、それを差し引いても、なお目を見張るほどに、少女は雪のように白いのである。

 僕は最初は恐怖と不安で少女の顔を凝視していた。しかし、やがてそのうち、僕は半ばうっとりとした心持で、少女を見つめていたのだった。


「……。」

「……。」

 長い沈黙が続いた。

 やがて、相手が幽霊ではなさそうだと見た僕から、口を開いた。

「肝試し…。」

「肝試し…。」

 僕が言ったことを、少女はそのまま繰り返した。

「貴方は…?」

 僕が恐る恐る聞くと、少女は慌てたようにして、後ろに手を組んだ。照れ隠しだろうか。

「わ、私…? 私は…肝試し…かな?」

 最後が疑問形だったのが、少し気になった。どうやら彼女も、僕を生身の人間であることを、認めてくれたらしかった。

「へえ…奇遇ですね…。」

「ま、まあ…あはは…。」

 有名な幽霊屋敷で、しかも夜のおとずれもはっきりしている頃だというのに、うぶな会話だった。僕は女慣れしていなかったが、向こうも同じようだった。

 僕は勇気を出して、

「あ、あのさ…一緒に回ろうか…?」

 怖さも減るだろうし、とは女子の手前言えなかった。火照った身体に夜の闇が冷たく染みた。

「う、うん! そうしようか!」

 相手は思ったよりも好反応を示してきたので、僕は安心したが、いくら夜の幽霊屋敷でも、初対面の、しかも異性の誘いにやすやすと乗るのは、不自然に思え、もしや男に慣れているのかとも考えたりした。


 少女は名を紗雪といった。年は17で、僕よりも一つ下なのが、少々意外に思えた。見慣れないセーラー服を来ている。少し遠い地域から、この噂を聞いて、わざわざ来たのだろう。その証拠に、ここらの若者とは違う雰囲気をまとっている。「素敵な名前じゃないか。」というと、はにかんで笑った顔が、より一層かわいらしかった。

 僕らはぴったりと身を寄せて、おびえながら二階を探索した。その間、ずっと、彼女の甘いかおりが鼻をくすぐり、おまけに身体が、想像以上にやわらかいから、ずっと気が散っていた。結果何もなかったが、女という生命を、初めて肌身に感じたような気がした。

「何もないな…。」

 返事はなく、彼女はずっと僕の真後ろにぴったりとくっついている。そこまで怖いのなら、なぜわざわざここに、しかも一人で来たのかと思ったが、声には出さなかった。

 夜も深まり、湿気の高まった階段を降りて、下の部屋を一部屋ずつ捜索した。

 5つの部屋のうち、4つまで見て回ったが、何か出てくるわけでもないまま終わった。

 5つ目の部屋には様々な服が散乱していた。どれも一様にひどく汚れてカビが生え、部屋は悪臭に満たされていた。僕は引き返そうと思ったが、雪子は何かを見つけたらしく、慌ただしく部屋へ入っていった。入り口で待っていると、5分もせずに戻ってきた。

 手には鍵が握られていた。

「それは…?」

 僕が聞くと、頑として答えようとしなかった。ただ、「鍵だよ。」とだけ言い、あとは口を開こうとしなかった。僕も強いて尋ねることはしなかった。


 結局、幽霊らしいものに会うことはできずに、時刻は9時を回ったので、このまま肝試しを終えることになった。

 玄関を出ると、彼女とは帰る方向が真逆だったから、ここですぐさま別れることになった。僕はなんだか惜しい気もしたが、またここに来るつもりもなかったので、これで終わりだと思い、ただ「さようなら。」と言って、涼しく帰ろうと思ったが、背中に、彼女が

「また会いませんか?」

と声をかけ、足を止めた。

「また明日の8時に、ここで会いませんか?」

「もっと人が多いところじゃダメなのか?」

「はい…苦手なので…。」

 人混みが苦手らしく、喫茶店や映画館などに誘ってみたが、首を縦に振らなかった。だが僕も、どうしてもここに来たくないわけではないから、結局約束して、今度こそ僕は自転車にまたがり、家路についた。少し行ってから振り返ると、彼女の姿はもうどこにも見えず、ただ三日月のあたたかい光が、屋敷を寂しく照らしているだけだった。

 不思議な子だな、というのが、正直な気持ちだった。

 

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