魔法のお勉強
それからさらに2年経った。
3歳にもなれば色々自由が利くようになる。
欲しい物の調達もなかなか楽で、料理を好きなものにしてもらえるのだ。
100年も経てば食事情も変わるだろう。料理の美味しさには驚かされる。
シシリーによると香辛料などの調味料は手軽に手に入るらしい。そのなかでも数点新しいものがあった。どれも期待できるほどの味はあるらしい。
他にも色々な出来事があったが、一番はこれだ。
「エル様、今日のお勉強の時間ですよ」
リリィである。
この年になると勉学を課せられるのだ。
「剣技」、「魔法」、「商学」の内からひとつ選ばされるのだが、迷うまでも無く「魔法」を選んだ。
100年も経てば料理と同じように魔法も増えているかもしれないと思ったからだ。
魔法使いの知的好奇心は抑えきれるものではない。
しかし残念ながら今習っているのは魔法の基礎知識だ。
よくよく考えれば当たり前だった。
3歳児にいきなり魔法を教えるものではない。
今日の課題を修了して、片づけをしているとリリィから話があった。
「今日はルドルフ・アルフォード卿がお越しになります。エル様の御祖父様ですね。それと御兄様も同伴なされるそうですよ。」
僕の祖父さんと兄さんが来るらしい。
余談だが一人称が変わったのだ。母さんの前でついうっかり「わし」と言ってしまったことがあった。
吃驚されたときには時既に遅し。矯正されたのはいうまでもない。
そこからなんやかんやあって「僕」に落ち着いたのだ。その時に父さんが「父様の口癖がうつったかもしれないね」なんて笑いながら言っていたのを思い出す。
その祖父さんが来るのだ。兄さんと一緒に他の領土を治めているらしく、ここ数年忙しく帰ることすらなかったという。
「御祖父様と御兄様がですか?とても楽しみです」
嘘ではない。転生したとはいえ家族に会うのだ。
家の決まりでは地位が格上の相手には家族であっても様付けをし、丁寧にもてなすことを義務付けられている。
父さんや母さんにも様付けをするなんて前世ではしなかったことだ。こういうところにも貴族だということを気づかされる。
幸い最低限の作法は分かっているつもりだ。この3年間は決して無駄ではないということか。
「じゃあ僕は部屋で本でも読んでいるよ。御祖父様が来たら呼んでくれ」
リリィは畏まりました、とだけ言うとどこかに行ってしまった。
大きい屋敷なのに家事のほとんどは彼女一人でこなしているという。なかなかすごいことだと感心する。
僕は僕で自分の部屋に戻る。
先日リリィに頼んで借りてきてもらった魔法書を読むために。