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プロローグ

ーー嫌だ!僕を、一人にしないで!!ーー


「行って!いきなさい、ダイア。」


ーー嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!ーー


 赤々と燃える炎、寂しく静かに鳴り響く風。100歳の吸血鬼、ダイアは、炎に包まれた自分の家をただただ見ていた。ダイアの目の前には走馬灯のように今までの想い出が流れた。

 しかし、たいして楽しい想い出はない。火傷をさすると、痛みに顔がゆがむ。


「お父様、お母様…」


 そう呟くと、少しばかり楽しい想い出がよみがえる。今も家にいるであろう父と母がどうなっているかくらいはダイアにもわかった。そして、これが事故でなく、意図的に放たれた炎だということも。彼は小さいながらも3つのことを確信していた。


 一つは、自分が生き残ったこと。

 二つ目は、この世界から出ていかなくてはならないということ。

 三つ目は、自分が唯一生き残った最後の吸血鬼だということ。


 不思議な事に、ダイアは涙の一つも出なかった。

 悲しくはない。どれだけたくさんの想い出がよみがえっても、涙はでない。思ったことは、一つだけ。


ーー何て美しい炎なのだろう。ーー


 炎の美しさに心を奪われたのか、悲しみで彼がおかしくなってしまったのか、ダイア自身にもわからなかった。

 ただ、そう思う自分が嫌になる。


「あぁ、僕はなんて無慈悲むじひなんだ。」


 そう言いながらも、やはり思う事は“何て美しい炎なのだろう”ということ。

 無慈悲な自分を呪いたいほど腹が立つ。


 そもそもダイアは変わった吸血鬼だった。

 吸血鬼だというのに、血を喉に流し込むことを嫌い、神に助けを求める時さえあった。

 人間的で、非邪悪な生き物なのだ。しかし、体質的に無理があった。血を吸わずにいると、やがて激しい餓えに襲われ、十字架を見るとめまいや頭痛に苦しんだ。

 周りの邪悪な生き物たちは、ダイアを軽蔑し、この世界から出ていけとわめいた。

 幸い、彼の両親は評判が良く、階級が貴族だったために、魔界から追い出されることはなかったが、けして楽ではなかった。


 両親が死んだ今、彼を受け入れる者はもういない。ただ、逆に出ていくことを決心する時間はたいして必要なかった。

 なぜなら、"貴族の息子"に猫かぶりする連中と共に歩む気はなかったし、魔界から出ていったとしても悲しむものはいない。むしろ喜ぶものが多い方だ。


 家を包んでいた、赤々と燃えていた炎が、ついにはすべてを焼き付くし、ゆっくりと消えていった。今はもう、親の遺体は黒こげになっているだろう。それと同時にダイアは決心した。“魔界を出ていき、人間界へ行く”と。


 唯一生き残った最後の吸血鬼が、魔界を出ていくなどという事は賢い選択でないことは本人も重々承知していた。ましてや人間界へ行くなど、ありえない考えだ。

 だが、ここに居てもなにもできないことも分かっていたためにこの決心をしたのだ。


 ダイアは静かにその場を去った。家の方を振り返ることもなく、まっすぐと人間界の方へ向かった。

 マントをひるがえし、空をかける。もう二度と見ることのない景色を眺めながら。

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