オレはオウノ ~魔王様が保父
『魔王様が保父』『とかげ娘ティーナの一日は忙しい』のリンク作です。
魔王様から、任命された。
「今日からお前が、いちご組のリーダーだ」
いちご組のメンバーは、妹のスミレと、サバトの街で一緒に暮らしていたジルとヤグの双子と友達のセン。
ドミニクの森に隠れていたのを拾われたミズキとヨウとスギ。
それから、オレの8人だ。
魔王様は、目が行き届くのはせいぜいその位までだろうと言った。
オレたちは、飢えて汚れて警戒心に溢れた孤児だった。
面倒をみるのは大変だろう。
これ以上、子供を増やしたくないという意味だと思っていた。
魔王様がオレたちを、いちご組のネームプレートが貼られた部屋に案内してくれた。
「今日からここが、お前たちの仕事場だ」
「広いお部屋ー」
「ぞうさんの鼻がある~」
「コレ、積み木?」
「絵本だー。すごいよー」
みんな、初めて見るものたちに興奮している。
「それは、滑り台だ。それは、黒板だ。教える時に必要なものだ」
広い部屋に、見たことのない遊具。
魔王様が1つ1つ説明してくれたが、意味がよくわからない。
「お前たちが役に立つように私が仕込んでやる!ワッハッハ!」
それから……りんご組、もも組と。
プレートの掛けられた部屋が、段々と増えていった。
聞こえる声も、どんどん明るくどんどん大きく増えていった。
自分の名前を書く練習をする。
魔王様が書いてくれた、各々のお手本を見ながら練習していると、お隣のりんご組から歓声があがった。
「「魔王様ースゴイーっ」」
「この様なもの私には、お茶の子サイサイだ!ワッハッハー!」
いちご組のみんなが、浮き足立つ。
書き取る手を止めて、ソワソワする。
「魔王様、なにしてるのかな?」
「昨日見せてくれた、バック転かなぁ?」
「早口言葉じゃないか?魔王様得意だから」
「名前書けるようになったか?魔王様に見せるんじゃないのか?」
オシャベリを始めたメンバーに尋ねると、あわてて書き取りをはじめる。
皆、いい子だ。
でも、魔王様が言った通りだ。
これ以上いたら、オレには面倒みきれないよ。
「お前たちのボスはこの私だ!私の手を煩わせぬように、自ら励めよ!ワッハッハ……」
魔王様は高らかに言い放つ。
「「はーい」」
元気に返事をする。
街で大人たちは、魔王様の悪業や非情さを噂していた。
勇者が守ってくれると、王様が宣誓して戦争が始まった。
もう皆、知っている。
魔王様がどんな人か。
スミレが顔を洗っている時、石鹸が目に入った。
゛あっ゛と小さな声をあげたら、何処からともなく魔王様がやって来た。
「洗顔はすすぎが大切なのだ、水でよくすすげ、目元もすすぐのだ!」
オレが手を出す間もなく、スミレは抱えあげられ、びしょぬれにされてしまった。
タオルでゴシゴシ拭かれながらも、スミレはニコニコしていた。
ティーナさんに教わった雑巾がけをしていると、魔王様が横取りをする。
「水拭きした後、乾拭きするとキレイになると聞いた。どれ、私がやってみよう」
みんな困った顔をしながらも、一緒に並んで嬉しそうだ。
ジルとヤグは好みが同じで、自分だけの物を欲しがる。
魔王様から頂いた、ノートや鉛筆を入れるカバンを、どちらが青色にするかで大喧嘩を始めた。
「俺が青色だ!」
「俺が青だ!シルが緑にしろ!」
「ふざけんなー、俺が兄貴なんだぞ」
「関係ないだろ!」
オレが緑にするから、二人で青にすればいいと、助け船を出せば。
「「お揃いはイヤだ!」」
揃った声で却下された。
お揃いの顔で。
話を聞いていた魔王様は、赤色のペンを取り出すと、カバンに゛星゛と゛三日月゛のマークを大きく書いた。
「片方は青の゛星゛、片方は青の゛三日月゛。さぁ、好きな方を選ぶがよい!ワッハッハー」
ジルとヤグは魔王様の行動に呆気にとられて、喧嘩を止めていた。
喧嘩はいけない。
けど、出来るようになって良かった。
兄弟喧嘩なんて、やる余裕はなかった。
ただ怯えるだけの毎日だった。
息を潜めて、ただ今を生きる術しかなかった。
ジルは゛星゛を、ヤグは゛三日月゛を選んだ。
歪んだマークが入ったカバンを、二人とも大切そうに受け取った。
オレたちは城の中で、魔王様に守られている。
美味しいご飯を作ってくれるケロックさんに、お姉さんのようなミーナさん。
色んな事を教えてくれるアリオスさんに、優しいトトさんペロさん。
みんなに、助けられている。
スミレは、おねしょをしなくなった。
無口になっていたセンも、新しく仲間になったヨウとスギも、よく笑ってよく食べる。
ミズキとスミレは女の子同士仲良くなって、二人で花冠を作っていた。
魔王様にプレゼントしてるのを横目で見てたら、ちゃんとオレの分もあった。
「にーに。ハイ」紫のキレイな花冠を、頭に被せてくれた。
萎んでも、それは枕元に飾ってある。
夜は暗闇が怖くて眠れず、オレの体にしがみついて震えていたスミレが、ベットの上でスースー寝息をたてている。
寝顔すら、笑っているように見える。
誰もが、笑っているように見える。
あの時魔王様に会わなければ、オレたちは死んでいた。
魔王様は、よく食べて、よく遊び、大きくなるのがお前たちの仕事だ、と言った。
そして、そのお手伝いをするのが、オレの仕事だと。
オレは、オウノ。
あの時食べた、ハニードーナツの味は、絶対に忘れない。
職務は必ず、全うする。
オストリウス城いちご組のリーダーだ!
最後まで読んで頂いてありがとうございます。次に投稿したのが『ケロックさんの里帰り』です。一読頂けると嬉しいです。