随筆詩集 クレバスを見上げて
はじめに
ホッキョクグマは、流氷の上から海面に落ちてしまうとなかなか氷の上に戻れないという。這い上がろうという傍から自らの身体が不本意に氷面を崩してしまうからだ。
私はいつか観たホッキョクグマのドキュメンタリーを思い浮かべながら
クレバスの底から地上の光をぼんやり見上げていた。
地表はひどいブリザードに見舞われているようだった。
這い上がりたい、でも地表に出ても冷たい吹雪にさらされる。
クレバスの中は静まり返っている。
霜焼けの両手をさすりながら、私は途方に暮れて
ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
麦酒
麦酒を飲む。
ぼくは麦酒を飲む。
従兄弟の部屋の匂いのするばあが好きだ。
石油ストーブの匂い。
それは何年もかけて醸造される発酵体。
it is nt pretty much special the dudes who can be english freaks.
女といふものは
女といものは
そのたゆたふ胸を指でピンっと弾いてやると、
リズム達が官能的に、
ひょっとこのお面を顔に纏ってサイケデリックに踊り出す。
それは差し出されるやさしい小指。
阿波踊りの悪魔。
乙女の陰毛を指の腹でなぞうて
甘いしあんぷぅの匂ひを嗅ぐ。
どうしやうもない間延びしたトンネルを夜汽車は走る。
ブリティッシュポップの爽快感の向こうに柔らかい不安をみる。
森
森に静かに降り始めた雨の様に
ゆったりとした彼女の吐息が真っ黒な四畳半を暖めてゆく。
夏の緑の香りを含んだ僕の腕に彼女は優しく顔をうずめる。
そして僕達はゆっくりと眠りの中に落ちてゆく。
僕達はブループラネットの夢を見る。
僕たちと羊
僕たちは夢をみない
僕たちは夢をみない
羊たちは深く沈み込んでしまうから。
僕たちは夢をみない
まどろむことはない
部屋の灯りを絞るように
まどろむことはない
朝もやの彼方に聴こえる
行水の音
どこかで漏れる溜め息
今日も僕たちは夢をみない
羊たちはまどろむことはない
それでもパチリとスイッチを消して僕たちは毛布の中に潜り込む
そして時間は切り取られてゆくBlank
金曜日とウイスキー
金曜日とウイスキー
Friday and a whiskey
オンザロックでウイスキー
樽の内側に僕は鼻先をこすりつける
深くゆっくり息を吸う
樽はこそばゆくて笑ふ
僕も笑ふ
すとうぶの灯りに照らされる琥珀色
それを舐めながら彼女の腕にあるBCG注射の痕をかぞえる
ひとつひとつ数え歌
くちずさんでD51にバジル
秋の長雨
秋の長雨は思ったよりも冷たい。
雨宿りに銀座の古びたカフェ。
600円のコーヒーは冷えたからだを暖めて、懐かしい苦味を残した。
ふしぎと高いとは思わなかった。それが贅沢な時間なのだろう。
風邪で寝込んだ秋の一日。窓から漏れる電車の音は都心の喧騒を運んでくるやうで僕はどうにも落ち着かない。踏切の音はいつも頭の左後頭部でなっている。僕の脳内の暗闇でピンク色の遮断機がなっている。遮断機はぼんやりと街灯に照らされている。
赤、消えて赤。
秋の夜の風邪はなんだか心地よくて、甘い匂ひが致します。
ころりよおころりよ 20 09 2013
気怠くても身体火照り
いぢらしや眠り訪れず
気まぐれ子猫
ねんねんころりよ
おころりよ
喉をならして丸くなる。
断ち切れぬ想ひのうた
名残りおし
里の陽炎振り切りて
仰ぎ見んかな憂愁の名月
キンと冷えた朝
キンと冷えた朝
熱いコーヒーとHam sunny sides on the bread
open the window.
The toast.
Dip on a broken egg
The flavor.
a tip of my luxury.
過ぎてしまった一日
大切な一日が気まぐれな覚醒によって
侵食されてゆく。
我が身のことながら、
悲しいかな、なにひとつままならぬ。
雪国
機関車は白き煙をあげて走る
定期的な滑走音。
わたしの背骨を通してしみこんでくる。
安いワンカップを飲みながら
ぼんやりと対岸の車窓をながめていると、
なんだかこの音が行軍の音に思えてくるのです。
大井町線
母を足蹴にした鬼畜が、
見知らぬ老婆に座席を譲っている。
姿は誠、滑稽の極みである。
人間とはいかなる生き方も貫くのは難しい。
女子高生、ひざ小僧、絆創膏、
青いマフラー、
生活を再建しなくてはならない。
ソフトボール詰めソーセージ。12dec13
かなり疲れる。現実感がない。
足場が不安定だ。
発車ベルが耳介の中でグロテスクに歪んで、吐きそうになる。
人間の眉毛のあたりの肉が美味である。
カレーと酒が胃の中にあって、
まるでソフトボールを胃袋に無理やり詰め込んだみたいにもったりとしてる。
笑っている。笑っている。
笑っている。笑っている。
半ダース焼けて小麦粉
煮て片栗粉
いないいないの時間
一週間が終わる。
いないいないの時間が終わる。
まるであたし
いないいない
どこにも
いないいない
八重洲の書店で
『おしゃべり/子供部屋』
この本と出会った。しかし数分するとあれほど衝動買いしたい気持ちはおさまった。かつてはこういったシュルレアリスムやエログロなどの本に魅せられ感性やらエネルギーやら何やらといったものに、活路を見出していた。今はそれを唱えることを恥ずかしいと思ってしまっている。こういった手合いの本を選ぶことを、いい歳していつまでも文学青年ぶって、幼稚なと思ってしまうのである。またこめかみが痛む。3000円酒を飲むことを厭わないのに、三千円分の本を本を買うことをためらう。笑ってしまう。
閑かな夜 15dec13
閑かな夜は
けだるい紙風船
フクロウがとまっている
その琥珀色の眼
甘い夜の水面にたゆたふ
僕達の吐く息は白い
君は僕が髭を指先で抜くのが痛々しいという
優しい時間の記憶
閑かな夜は
痛々しい
だから紅茶に輪切りの檸檬を浮かべよう
フクロウが鳴いている。
言葉を紡ぐのをやめて、眠りにつこう。
熟れた無花果の襞に 18dec13
熟れた無花果の襞に
根元まで甘く締め付けられて呑み込まれてゆくのを
僕は僕の中心で感じている
失業中、彼女ナシが、友人に女を紹介する時の心境 24DEC13
イブである。比べ、卑屈になることは思いやりという名の想像力がない人間のやることである。
僻むくらいならなぜ人の幸せなぞもとめるのであろうか。その時は幸せを願っていた。
ただ、それはただの偽善であったのだろう。会社という日本社会の縮図から追い立てられ社会適応する勇気を削がれて自信を失ったわたしには、これまさに虚勢。
偽善とは、自己の人徳を肯定するためのスパイス。私はモルヒネ中毒者なのである。
もし彼らが今回の合コンで出会った女性との逢い引きの斡旋を執拗に頼んでこようものなら、私は彼らを、自分の好意について全く無神経に受け取っている軽率な人間であると、心中嘲ることによって、あの中で唯一、仕事のない、取り柄のない自分の感性を肯定せしめ、優越感に浸ることを良しとすることができるのである。
しかし、
私がそう思った所で、社会で鍛え上げられ確固たる自分を確立しつつある彼らには、心を揺るがすほどのインパクトはないだろう。彼は自分が低俗であることを認めさせられ、受け入れている。自分を特別視する気持ちを捨てることができた人間。ゆえに、やってはいけないのは、それを自身の繊細さを理解せしめようとして彼らに正論であると主張することである。それは反作用、つまりするほどかえって警戒されるばかりか、面倒くさがられ疎まれ自己肯定の役目を果たしえないのだ。他人は思った以上に自分に興味などないことを理解していること、あえて書き記すことで、自己防衛を図ることにする。全ては自分を守る為に。無力な自分を認めない為に。だから他人に自分の気持ちを押し付けず、善であることで、リストラされて極めて惨めな私は私の中でかろうじて高貴であることができる。その偽善、私はモルヒネを打つのである。
思索する時間は貯蓄されたのだろうか。ただ自分をいきにくくしているだけなのではないだろうか。私は彼らがここに社会の中で奮闘し鍛えられている四年間、酒を飲み、膨張された性欲に胸を焼かれつつ、ただ役に立たないことを考えて過ごしていただけなのかもしれない。
チェリーコークとハイボール
Cherry coke and Highball.
SSDD sock in your mind
山下君の忠告とタイムリーな私の体験が紡いだ奇譚 27dec13
なんか、同世代から上くらいの年齢のにんげんが品川の高層マンションの一室にあつまって、トップの人が常人の日常や日本社会を否定し、21世紀このように生きないとおいて行かれると呼ばれるものを話した後、いかにアムウェイがニーズにあっているかということを話し出したよ。
やましたくん東京ってのは怖いところだね。すこしでも落ち込んでるとこういった手合いが声をかけてくる(ほっ)僕は今日ほど情けなく、群馬に帰りたいと思ったことはないよ笑
そうやって僕は支配下に置かれたくない。
そうやって僕は支配下に置かれたくない。
中国式マッサージ
操縦桿は壊れてしまってしまって、
僕は忘れようと四角いブラウン管の中の愛しいあの子のアイコラージュ
思考のひび割れにアルコールは染みて
僕は消毒と言い張って
ただ目を逸らすだけなんだ
吐く息は白く
僕は誰の体温も感じない。
そのチャイニーズポップス
僕はどこかのマッサージ店で聞いていたんだ。
操縦桿は壊れてしまって、
ぼくは落馬の恐怖に甘えている。
涙と鼻水、唇のひびわれ出血5パーセント
誰も泳いでいない川で泳ごうとしていた。
泳ぎ方を知らなかった。
浅い引き出し
僕の小さな戸棚から
僕は貴女の可愛い乳房を引き出して
可愛い黒のルークを甘噛みするんだ。
いろんなものごとが滑り落ちていって、ひたすら逃げる
僕は思い出す
貴女の骨張った身体と
つんと勃った乳首を
貴女の浮き出た肋骨と
荒い貴女の息遣い
潤んだ瞳
酒の香りふんわり
記憶されること、僕は憶えている全て
性癖が語り継ぐのは昔の女の濡れ姿。
女達は魅惑的に肢体に溶けいって僕をとろけさせる。
頭に理想の女を形作る。
それは未来にいるような過去の住人。