序章 開始がグダグダ
―――そう遠くない未来。
設定上最初にそう書くべきなのだろう。
「テストと管理を兼ねて新規登録してログインしてくれ。」
馬鹿兄にそう言われたのが始まりで、わたしは馬鹿兄が仕事の同僚と開発途上のオンライン対応の最新のゲームハード及びPCゲーム「こんぐろまりっと! Universe」の試作型をプレイすることになった。
馬鹿兄とは言うが、実はIT関係の会社に勤務し、さわやかな笑顔の似合う結構なイケメンで給料も性格もいい方だが、エロゲーやアニメが大好きで、仕事でして就職し成功を収めている。
尊敬はしているが、功も転じているが、問題は奇抜すぎる発想で、わたしを含めてこれが女にもてない原因で、ここのゲーム制作もその一つだった。
あるネットサイトに2、30年ほど前に投稿された3文小説の世界観を舞台にしたゲームで、著者から許可を貰い、印税を払い、ゲーム化したと言うのだ。
「絶対に売れる。お前も絶対はまる。この時代だからこそ可能になった。」
漫画の世界ならば女の子の眼がハートになりそうな笑顔で熱心に言い、この手の業界でも有名になっている兄の意見もあり、プレイしてみることにした。
どうでもいいが、投稿された当時から2、30年が経過し、多機能型携帯電話、言わばスマートフォンやPCは発展を遂げ、兄が言うには、作品のスペックがこの時代だからこそ対応して実現したと言った。
反面、試作品だけでも問題が発生しそうなので手伝ってほしいとも言われた。
『ゲームなんてどれも同じでしょう?』
心の奥底で少々毒づきながらも、少しすれば販売される最新鋭のゲーム用ハードにソフトを入れ、プレイを始めた。
兄の職業柄か、家風か家にはこう言った最新鋭のエンターテインメント機器が溢れ、ゲーム好きな友達には、兄の現在の仕事と言い、うらやましがられていたが、アウトドアなわたしには興味もなかった。
『だけど、わたしに頼むと言うことは、兄貴もピンチと言うことか。』
ゲームの設定を適当に始める中でわたしはそう思った。
「と、設定完了と?」
どんなことが始まるかわからないが、たくさん質問があったが、ある程度兄の指示にも合わせ、設定は完了した。
「兄貴~、設定完了したよ~?」
「よし、僕もアシスタントキャラとしてお前を助ける。」
わたしが新規登録し、兄はアシスタントキャラとして登場する仕組みだ。
実際は遠方から無線だが、ここでは家の構造上、試作と言うこともあり、ソファーに座り背中合わせにゲームをアシストすると言う奇妙な位置体制だった。
「ログイン」
ここから先はゲームの映像の描写の前に『ゲーム』、現実を『現実』にします。
『ゲーム』
―――いつの間にか眠っていたようだ。
机で寝ていて姿勢が悪かったのか少々だるい気もするが、僕は立ち上がった。
『現実』
「まてっ?!」
「―――――何よ?」
操作を続ける中で突然兄貴はわたしを止め、わたしは兄貴の方向を向いた。
「僕と言ったか? 男にしたのか?」
「え? どうだったけ? そうしたかな?」
「そうしたかなじゃないだろう?!」
設定を適当にやっていたので性別を間違えたかもしれず、適当に言うが、兄はかなり慌てていた。
「まぁ、でも、名乗るのは自由だし、―――――続けよう。」
「うん。」
「―――――」
慌てていたが、難しい問題ではないようで、兄は少しして落ち着き、続けるように指示を出した。
何にしても少し動揺していたから次同じことがあった時気を付けようと思う。
『ゲーム』
時間は5時間目が終わったころで、まだ授業はあるはずだが、教室の中は静かで人の気配がなかった。
『現実』
「ほら、もう始まっているよ、動かして?」
「え?」
「フルセルアニメーションに見えるけど、2D3Dを巧みに利用した映像でアクション主導なんだ。カメラアングルもフリーで普通のビハインドヴューやホラーみたいな固定アングルに―――――」
映像に映った私の分身となる男は正確には少年のようで、きれいな白い学生服を着て外の風景が見える窓際の後ろから2番目の席の近くに立っていて、この後どうなるかと見ていると兄が指示を出した。
長い話を聞き流し、何にしてもわたしはある程度適当に操作してみた。
『ゲーム』
人の気配がないと言うのが逆に奇妙すぎ、窓から校庭や少し先のグラウンドを見てみると、休み時間にしても、体育の準備もあると思うが、授業がないのか、人の姿は一切見えず、周囲からも人の声が聞こえなかった。
「……」
ガラスや何かで音が遮断されているのかと思って窓を開けてみたが、普段の学校の騒がしい声は聞こえず、人の気配もなかった。
『現実』
「どうなってんの?」
「解らない。」
「え?」
何気なしに昼寝して起きたら学校に人がいないと言う奇妙な事態で、わたしは何が起きているか聞くと兄は真剣に正直に答えを返し、わたしは言葉を疑った。
「解らない? お兄ちゃん作った人でしょ? わから―――」
「BGMも既存のものから的確な曲をランダムで選択されるし、解らないんだ。」
「―――」
そんなことないと言う風に言い返すわたしに対し、兄は真剣に返事を返した。
「設定をほぼランダムにしただろう? 何が起きるかわからないんだ。」
「それってわたしのせいだって言いたいの?」
「違う、こういう設定がこのゲームの世界観の醍醐味なんだ。」
ゲームが作った人も解らないと言う異例の事態に対し、わたしは少々怒るが、兄は冷静な反応で返した。
「……どういう意味?」
「このゲームの原作、こんぐろまりっと! シリーズはそういう設定なんだ。」
困っているわたしに対し、兄は『言葉では、意味は解るがどうしようもない』と言うかのような真剣な表情であごに手を添え、考えるそぶりを見せた。
「あの細かい設定は、何にでもなれるための設定なんだ。」
「どういう意味?」
「何にでもなれる。人、動物、車、植物、神、吸血鬼、ドラゴン、―――――」
先ほど兄の指示もある程度あるが、自分が適当に設定した結果だが、兄が言いだした例は超高速の物言いで、ありえないほどのものやありえない量のものだった。
「何のメリットがあるの?」
「自分だけのヒーロー、ヒロインが本格的に個人で作れる。」
「意味わかんない!」
宇宙人から、宇宙人のUFO、ペット、ちりやくず、宇宙、巨大ロボット、本格的に設定すれば自分の想像の存在も生み出せると言う兄の言葉を聞く中で、わたしは突っ込みを入れたが、兄はうれしそうな声で返し、わたしは少し腹が立った。
「怒るなよ? 0からなんでも作り出せるんだ。人間である必要もないし、なんでもできるんだ。」
「これから作るの? 面倒くさい?」
「―――――これは、違うと思う。」
話を総合するとこれから後面倒なことをしなければならないと考えオックな気持ちになる中で、兄は違うことになると言う意見を返した。
「え?」
「ランダムに設定したから、多分、何か設定がランダムでできて、これからイベントが始まるんだと思う。」
わたしがおどろくのを無視し、兄は自分のプレイしていた映像のほうへ画面を向けた。
「オリジナルもそうだったんだ。突然ソーに襲われて―――――」
「イベント?」
「とりあえず、適当に歩いてみて、こっちでも補助する。アイテム画面も見てみて?」
兄が何か言ったが、何にしてもわたしはゲームを再開した。
『ゲーム』
窓を閉め、廊下に出てみたが、歩く生徒も教師もおらず、自分の足音だけが廊下にこだました。
『現実』
「インカムを使えば声を届けることができる。試作とは言えオンラインだ。テストプレイヤーは実は300万人以上いる。誰かいるかもしれない」
管理者は管理者として大変なようだった。
「―――――」
「操作方法も確認して、そうだ。リアルヘルプを使うんだ。」
「リアルヘルプ?」
何にしても兄は聞きなれない言葉を口にした。
「アイテムとかに携帯電話とかないか? リアルヘルプは現実にプレイヤーを補助するシステムだ。」
「あ、携帯電話ある?」
「よし、それだ。適当にある程度操作して、リアルヘルプを探すんだ。」
簡単に言うとパソコンのヘルプのような仕組みを出せると言うことで、わたしは操作して彼に携帯電話を操作させた。
『ゲーム』
何気なしに携帯電話を取り出してみたが、特に何か意味があるわけでもないが、僕は着信やメールはないが、適当に操作してしまった。
『現実』
「ないよ?」
「―――――本当だ。どうなっているんだ?」
「と言うかこれ携帯古いよ? 何年前の?」
携帯を操作するとそれらしいものが見受けられず、携帯も古い携帯だった。
「古いドラマで見たことあるけど、これ電話とメールしかできないやつだよね?」
「一般化し始めたころだよ、まだキー操作で、タッチパネル未対応だ。折り畳み式でもない―――――」
「詳しい分析はいいから、さっき言ったリアルヘルプどこよ?」
携帯電話が古く、リアルヘルプが出せそうになかった。
「えっと、あ?」
「あったか?」
「あったけどメニュー画面。」
何にしても探していたものを見つけ、操作した。
「よし、これで僕も介入できる。」
『ゲーム』
「え?」
「We l Come to こんぐろまりっと! Universe!」
携帯の操作を終えると、不意に目の前に淡い光のようなものが現れたかと思うと、奇妙な物体が姿を表した。
「……」
あらわれた物体は最初丸まった物体だったが、少しの間回転すると、漫画やアニメで出てきそうなゴスロリ風の服を着た2頭身の少女へと姿を変えた。
声も幼女のような声だった。
「ようこそ白鳳さま! 本日からあなたを助ける謎のアシスタントです。」
謎のアシスタントと名乗った物体は楽しそうな笑顔を僕へと向けた。
加えてなぜかわからないが僕の名前を知っていた。
『現実』
「なにこれ?」
「リアルヘルプ用のアシスタント表示だ。設定をランダムにしたから表示設定にされたんだ。」
訳が分からないのに突然わけのわからないことがプラスされてわたしが兄は冷静に答えを返した。
「設定を変えれば非表示にできるから、何にしても、こちらからも、ゲームからも補助される。」
「と言うかこれ兄貴が動かしているの?」
「一部だけ。」
何にしてもわたしはゲームの設定を変え、謎のアシスタントを非表示にし、ゲームの画面からは文字が表示された。
Mission Object(ミッション内容)
周囲に人の気配がありません。
人を探しましょう。
*学校から出てもかまいません。
「ナヴィゲーション設定が無効になっているんだ。バグだな、訂正しないと……」
背後からはコントローラーのキーとPCのキーボードをたたく音がしながら、わたしは何にしてもゲームを再開した。
よく考えると、先ほどの映像の字幕でわかったが、わたしのプレイしている男の子は「白鳳」と言う名前のようだ。
『ゲーム』
何が起きているかわからないが、謎のアシスタントは消えたが耳に装着する用のインカムを渡されると先ほどとは違う冷静そうな低い男の声で、指示を出され、異常事態のようなので僕は廊下を歩いて人を探すことにした。
『現実』
探せばほかにも操作や機能があるが、どうすればいいかもわからず、とりあえずわたしは自分の分身となったこの少年「白鳳くん」を走らせ、誰かいないか探すことにした。
どうでもいいけど、後で調べたが、ここで流れているBGMはあるアニメの音楽らしい。
あとの話になるが、のちに知ることになるが、プレイすることを少し後悔することとなった。