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ハルノアメ

この作品は5割の作者の実体験と、5割の誇張表現及びフィクションで構成されてます。

そのため矛盾や文がおかしいところが死ぬというほどあります。

それでも気にならない方は、拙い作品ですがどうぞお読みください。

誰もいない部屋にこもってお気に入りの小説を読む。

それは、俺の趣味…というより日課だ。

…いや、正確には『だった』と言うべきだろうか。

まあ、何はともあれ、誰にも邪魔されずに自分の世界に浸り、納得が行くまでその世界、価値観、全てを想像することが、俺の楽しみだった。

これがなかなか面白い。

同じ小説や、その作者が書く別の小説を何度も、満遍なく読み返すことで、作者が何を伝えたいか、どんな考えを持っているかわかる。

だから俺は、1度しか読まずに読み終わった本を捨てたり、ましてや本を読まない連中がいるこの世界を、ずっと馬鹿にしてきた。

しかし、それが変わったのはいつだろうか。

眼鏡をかけて、冴えない顔で、塾にも行かずに、如何にも周囲から嫌われそうな俺に、突然幸せが舞い込んだ。

そこそこ親しかったクラスの女子から告白を受けたのだ。

その時は何かの冗談かと思ったが、真剣な彼女の顔をみると、そんな考えは毛頭なくなった。

それからだろうか。自分でもわかるほどに性格が変わったのは。

家に帰っても外に出なかった俺が、周りと親しくなり、遊びに出かけ、明るくなった。

周りはそれを喜び、俺自身も悪いとは思わなかった。


でも、幸せが突然やってきたのと同じで、不幸もまた突然にやってきたんだ。


その日、俺を変えてくれた彼女からのメールを見たとき、何かがおかしいと思った。


『明日さ、あと一人くらい誘ってカラオケでも行こうよ』


どこにもおかしいとこなんてない…筈なんだが、何か違和感を感じた。

しかしその時深く考えなかった俺は、勘違いだろう、と頭の中からその違和感を捨てて、一番親しかった友達を誘い、二人っきりをわざわざ崩すか、と苦笑して、翌日のカラオケを楽しみに床に就いた。



翌日は、生憎の雨だった。

春の雨だったのだ。

つい昨日までは快晴快晴とうるさかった天気予報も、一転して春の嵐になると告げていた。

アスファルトを強く打っている雨を見て俺は、友達と彼女にメールを送った。

今日カラオケ行く? と。

友達からは行くと返事がきたが、彼女からはメールが来なかった。

ひょっとしてもう行ったのかな?

そう思って俺は傘をさして、雨の中を走った。

遠くで鳴り響く雷鳴が、二人の行く末を暗示しているように聞こえて、俺は走る足をさらに早めた。



雨が少しだけ弱まった頃、俺はカラオケに着いた。

早まる鼓動を抑え、中に入る。

彼女の姿をさか探すが、いっこうに彼女は見つからない。

嫌に大きく響く雨音に心を焦らされた俺は、傘をさすことも忘れてカラオケの外に出た。

また強くなってきた雨粒が俺を叩くが、そんなことは気にならない程に俺の心が動揺してしまっていた。

ーー彼女が楽しそうに話している相手は、一体誰だ?

きッと、ちガウ。

アイツジャない。

ゼッタイニチガウ。

暗く光る心から目を逸らし、そんなことはおくびにも出さず、俺は明るく接した。


「遅かったね。何かあった?」

「ああ、ごめんごめん。準備するのが遅くなっちまってな。」


苦笑しながら言葉を返す彼に俺は心の中で蔑みながら、早く入ろうか、と先を促した。



部屋に入ってすぐ、俺はトイレに向かった。

気持ちを整理するためだ。

トイレに入り、便座に腰掛けたあと、俺は大きくため息をついた。


ーーなにを悪く考えすぎているんだ。

ーー少し仲良く話してるだけじゃないか。

ーー男の嫉妬は見苦しいぞ。


昔の自分が少しずつ顔を覗かせていることに気づかなかった俺は、しかし嫌にでも気持ちを明るく持ってトイレを出た。


そして、すぐに俺の心は打ち砕かれた。

改めて部屋に入った時、二人は肩を並べて何かを書き込んでいたのだ。

普段なら流せたような行動も、積み重なれば流せない。

扉を閉める音に気づいた二人は、何かの紙を隠しながら、何事も無かったかのように歌い始めた。

暑くもないのに噴き出す汗を拭いながら、俺は、その向かいに座った。


それからも俺を焦らせるような行動は続いた。

やけに二人のデュエット曲が多かったり。

俺が歌っている最中に二人がこっちを見ては笑っていたり。

仕組まれたかのような展開に俺は、正常な判断能力を失っていった。


制限(リミット)である4時間が経ち、部屋を出た俺達は支払いを済ませて店の出口でたむろっていた。

ーー時間が微妙だね。どうしようか。

ーーうーん…少し早いけど帰ろ? 疲れたし。

ーーそうだね。じゃあここで解散にしようか。

でも、心の内の制御に忙しかった俺は、そんな会話を全く聞いていなかった。

気づけばここで解散ということに話はまとまっており、妙な焦燥感に苛まれながらも俺はその場を後にした。

後少しでも風が吹けば崩れてしまうジェンガ。

その不安定な存在に引導を渡そうと、ゆっくりと、しかし着実に嫌な風が近づき始めた。


二人とは帰る方向が違う俺は、携帯片手に怒りを鎮めるためアプリのなかの雑魚敵をボコっていた。

しかしそれで怒りが鎮められるはずもなく。

異常なまでの怒りを抑えきれなくなった俺は、そこらにあった小石を蹴り飛ばした。

ーー落ち着け。

頭の中の理性が叫ぶ。

でも怒りは収まらずに。

頭では理解している。

でも頭以外の何かが、俺に怒りを与えていた。

ムシャクシャの限界が来て、頭を乱暴に掻く。

アプリの中の雑魚共は既に消え失せており、俺は八つ当たりの標的としての興味を失った。

強まる雨に苛立ちながら、しばらくして俺は傘を投げ捨て雨の中をずぶ濡れになりながら走り去った。

家に帰り着く頃には頭も心も落ち着いて。

そして。

冷静になった俺は、自分が戻ったのだと、昔の自分に戻ってしまったのだと自覚した。


冷えた体を風呂で温めたあと。

何気に携帯を開いてみれば、そこには彼女からのメールが届いていた。

食い入るように見つめた先には、今日のカラオケ楽しかったね、と、そう書かれていた。

なんだ、そんなことか。

そりゃ楽しかっただろうな、俺は完全に除け者にされていたからつまらなかったけど。

随分楽しそうだったな、二人肩を並べてさ。

そんな軽蔑の言葉が頭に並ぶ。

憎悪の矛先は彼女にも向いたのだ。

だがやはりそんなことは伝えず、そうだね、と、簡素な、文とも言えないような文を返して携帯をポケットに仕舞う。

しかし1分後には再び携帯が鳴った。

なんなんだよ、と毒づきながらも中身を見る。

そこには、明日大事な話があるから会えない? と、やはり簡素な文。

そして俺は、全てを悟った。

やっぱりあの行動は。

肩を並べて、無駄にデュエットの多かったその選曲は。

意味を含んだようなあの笑みは。

そういうことだったのか。

自失の念に包まれながら、まだ時計の短針が7と6の間を指しているというのに、俺は布団に身を投げた。


雀の鳴く音で目が覚めた。

来た。

ついに来てしまった。

この日が。

親に何も言わずに着替えて外へ出る。

もう思い残すことはない。

思い切りフラれた後、俺はその惨めな後ろ姿を見せながら逝くのだ。

それでいい。

取り憑かれたかのような歩みで目的地へ向かう。

いっそこのまま道路に身を投げようかとも考えたが、いや、やはり死ぬ前にハッキリさせておきたい。

そんな最後の感情がその身を突き動かし、やがて目的地が視界に入った。

そこには何かを待ったかのような表情をしている彼女の姿が。

受け入れるしかない。

気を入れなおして彼女が待つ場所へと向かう。

そして。


「はい、誕プレ。今日誕生日でしょ?」


あまりに予想外な答えが返ってきた。

ほぇ、誕生日?

思い返してみれば、今日のカレンダーは5月29日を指していた・・・気がする。

春と初夏の間のその時期は、確か俺の誕生日があったはずだった。

そうか、今日が誕生日だったのか。

すっかり忘れてた。

手渡された可愛らしい小包。

それがすべてを物語っていた。

さっきまでの暗暗とした気持ちが一気に晴れる。

そうか、あの時の紙は、まさかこれについて相談でもしてくれていたのか。

あの時、二人が同じ方向へ帰っていたのも、これを選んでくれるためだったのか。

心が踊る、とはまさにこのことだろう。

まさに小躍りでも始めんとしていたその時だ。

この時までは、俺の人生は幸せだった。

多少足を踏み外していた時もあったが、やはり幸せだった。

そう、親友が、彼女の横にいきなり出てきて、


「でね、こっちが私の新しい彼。今日限り、そのプレゼントで縁を切って欲しいの。」










それからは何を言っているかわからなかった。

どうなっているかもわからなかった。

ただ、わかったことが一つ。

自分の周りから、唯一無二の親友だと思っていたアイツが、たったさっきまでは真相を知ることのなかった彼女が、消えていなくなったのだ。

なに、予想していたじゃないか。

そして決めていたじゃないか。

だから。

無意識にたどり着いたこの場所で。

轟々と音を立てる濁流に向かって。

人生を終えるのだ。

橋の欄干に腰を掛け、真下を流れる川に目を向ける。

ポツポツと降り出した雨が川へ吸い込まれる。

そして。

濡れた欄干に手を滑らせた彼の体が、雨と一緒に濁った世界へ吸い込まれた。





その日は、この季節にしては珍しく、激しいハルノアメになったそうだ。

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