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作者、創造中!  作者: 闍梨
第一章 主人公と荒くれのファンタジー
9/14

死闘!

『さぁ、最終ステージだ。張り切って行こうぜ! 作者!』


 チャイムの音が鳴り響く中、主人公は意気揚々とした。中から『はいはーい』と言いながら、廊下を駆ける音が外に漏れていた。


『女性の声?』


 さすがは魔王。邪悪で粗悪で凶悪で巨悪な魔王の事だ。女なんてパシリにされて当然だ。

 主人公は心の中で思い、魔王を一層憎らしいと感じた。


『はい〜、宅配便ですか?』


 中から出てきたのは綺麗な女性だった。スッピンだが堀が深く、整った顔をしていた。

 主人公は緊張しながら女性に対して言った。


『あ、あの……ま、ま、ま、魔王……居ますか?』


『ん? ナツの友達? なっくーん! お友達よ〜! ----ゴメンなさいね。あの子最近元気なくって……。あっ、折角だし、上がっていって頂戴よ。さぁさぁっ!』


 主人公は、言われるまま家にお邪魔する事となった。主人公は現状が理解出来ていないようだ。ぽかんと口を開けたまま、廊下をペタペタと歩いた。

 女性は魔王の部屋の前で立ち止まり、ドアをノックしながらいう。


『ナツ〜! お友達よ〜!』


『…………』


 中から返事は無い。もう一度ドアをノックしながら、女性は言う。


『お友達〜!』


『…………』


 依然として、返答は無い。


『ナツくーん?』


『うるっせえな! ババア! 居留守使ってんのが分からねぇのかっ!』


 ババア? お母さんなのか?


「ご名答」


 主人公は小声で、『居たのかよ!』と作者にツッコミを入れる。魔王のお母さんには聞こえていないようだ。

 魔王のお母さんは、息子の返答に安心しているようだった。


『なぁんだ。居るじゃない! 開けるわよ〜』


 ドアには、内側から鍵が掛かっている。

 これでは中に入れないじゃないか。

 主人公がそう思った刹那、辺りが異様な空気に包まれた。


暗黒の雷ダークネス・ライジング


 お母さんの掌から紫色の雷が、ドアに向けて放たれた。ドアは粉々に吹き飛び、部屋と廊下を隔てる物が無くなった。

 部屋の中から、大きな怒鳴り声が聞こえてくる。


暗黒の雷ダークネス・ライジングはドアに向かって使わないって約束だろーがぁ!もう家族会議の決定無視か! 耄碌もうろくババア!』


『あら? 今回の会議での決定は、踊る流星ダンシング・メテオじゃなかったかしら?』


『ちげーよ! それは二回前! ちなみに前回は危険な香りデンジャラス・アロマだろ! 通販で買った、くっセーアロマの事件! ババア、通販で無駄金使い過ぎだろ!』


 壮絶な親子の会話に入れない主人公は、目を閉じてその場の空気と一体化した。当たり障りないように黙っていただけの事だが。


『大体なぁ、わけわかんねぇ奴を家に上げてんじゃねぇよ!』


『あれ? ナツの友達じゃないの?』


『知るかよ。俺の友達は全員ネットの中だ』


 主人公は恐る恐る、壊れた壁から顔を出し、魔王の姿を確認しようと試みる。


『え?』


 思わず、声が漏れてしまった。主人公は目の前に映る魔王の姿に驚愕した。

 緑色の髪を肩まで伸ばし、上下ナイキの黒ジャージを着ている。キレ長の一重まぶたに、そばかすが目立つ冴えない魔王だった。年齢にして二十歳そこそこだろう。


『唯のひきこもりかよ……』


 主人公の心の声が口をついて出た。魔王はこちらをギロッと睨んで主人公に突っかかる。


『おい! 誰だお前! 知らねー奴だな!』


 主人公は目を薄くして、やる気無さげにとりあえずの自己紹介をし、宣戦布告した。


『はぁ〜。俺は主人公だ。お前を倒しに来た』


『はぁ? チョーウケる! 中二かっつーの! ケーサツ呼ぶぞオラァ!』


『ふん!』


 主人公は背中の大剣に手をやり、思い切り切り捨てる。


『ぎゃーーーーーー!』


 ナツと呼ばれる魔王は半分に切れ、霧の様に消えていった。

 こうして、世界に平和が訪れ----。


『待ちなさい。あんなダメ息子倒したからって、いい気にならないで頂戴』


 主人公が振り返ると、そこには禍々しいオーラを背負った、魔王の母が居た。


暗黒の雷ダークネス・ライジング


 伸ばした掌から怪しい光が溢れ出す。


『あうぁあ、危ねーーーー!』


 主人公は故・魔王の部屋で側転を決め、ダークネス・ライジングをギリギリの所でかわす。


『ああ〜あ、避けちゃうんだ〜。壁の修理費どーしてくれるの〜?』


『知るかよ! お前の家だろが! 業者に言えよ』


『ま〜、息子の保険金で何とかなるかしらね〜』


『不謹慎だろ! いや、俺のせいだけども』


『まあ、いいわ。とりあえず建前上、死になさい!』


 もう一度、ダークネス・ライジングが主人公を目掛けて襲い掛かる。


『畜生っ、躱すのメンドクセー!』


「躱さないとマズイぞ。あれは剣で振り払えない……設定だ」


『おい! そういう事はもう少し早く言っ----あばばばばばばばばばばば!!!!』


『あははは! いい声出すわねぇ。痺れちゃう。じゃあ、これでお終いよ』


 魔王の母は両手を高く掲げた。掲げた両手に、紫色の炎が球状になる。炎は次第に大きくなるが、主人公は痺れてしまって動けない。


『燃えちゃいなさい。地獄の業火(ヘル・ファイア)!』


 負けた……。

 主人公が、作者ですら、そう思ってしまう状況にあの男が現れた。


『…………』


『ハッ! おじさん!』


 主人公の目の前には、名言おじさんがいた。灰色のスーツに身を包み、ハットを被っている。鼈甲べっこうの杖は右手に持っていた。


『どんな困難な状況にあっても、解決策は必ずある。救いのない運命というものはない。災難に合わせて、どこか一方の扉を開けて、救いの道を残している』


『…………!?』


『つまりは、そういう事だ』


『……おじさん!』


 ヘル・ファイアに焼かれ、おじさんは消えていった。苦しそうでもなく、痛そうでもなかった。その表情にはどこか優しさがあった。


『おじさぁーーーーん!』


 名言おじさんは死んだ。

 主人公を庇って死んだ。


『うぉぉぉおおおお! お前は、絶対に許さねェ!!!!』


 主人公の目からは大粒の涙が零れていた。手に持っていた大剣が、こうこうと輝き始め、耳鳴りの様な甲高い音が大剣から発せられた。


『な、何よ! この光は!』


 魔王の母は手で光を隠し、薄く開けた目で主人公を確認して驚愕する。


『あなた、いったい……何者なの?』


 主人公の持っていた大剣が、刀に変わっていた。眩い光は収まる事なく、部屋中を照らす。

 主人公は一度鼻をすすってから言った。


『なーに。ダメな作者の、怠惰な主人公さ』

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