到達、魔王の城!
『えー。どこまで進めたっけか?』
主人公は真っ白な背景の中、一人で考えていた。
『しっかし、こりゃまいった』
何がだ?
『おぉ。ナレーションか。いやよ、作者が寝てるんだよ』
そうか、なら仕方ないな。
待とう。
数時間後……。
「よし、話進めるか」
『……はぁぁ〜』
「どうした? 溜息ついて」
『いやな、作者が寝ると話が進まねーんだ』
「当たり前だろ。俺のストーリーなんだから。じゃあ気を取り直して、魔王を倒しに行ってくれ」
主人公は腑に落ちないといった面持ちだったが、もう何も言わなかった。
『うお!』
急に主人公の目の前に近代的な街並みが広がった。空飛ぶ車は当たり前の様に空中を走っている。
『設定を曲げ過ぎだ! ダルビッシュのスライダー級じゃねーか!』
「良いんだよ。面白ければ」
『面白くなるのか?』
「ああ、少なくとも俺は楽しんでいる」
『最悪の作者だよ、お前は』
作者からの返事を待たずに、主人公は歩き出した。地面を踏む一歩一歩がとても重たかった。
「ここだ。ストップ」
『ここ? 城があんじゃねーの?』
「お前の目は節穴か?」
『目に穴は開いちゃいないがな……。てかよー、ここはどーみても違うだろ。だって、見るからにマンションだぜ? こんなところに……』
「いいから、入れ」
『分かったよ。ったく』
主人公は道の向かいにあるマンションを目指し、歩みを再開する。車は空を走っているので、車の姿は地上には無い。
主人公はマンションの入口に立った。ガラス張りの自動ドアが開き、主人公を招き入れる。
『おお〜!』
ピカピカに磨かれた床に自分の姿が映っている。天井からぶら下がっているシャンデリアは、休む事なく薄黄色の光を主人公に降り注いでいた。
『やればできるな、作者!』
「いいから、魔王の部屋を探せ。ほら、目の前にインターホンと案内板があるだろ?」
そう言われて主人公はインターホンに近づく。魔王の部屋を一階から探してゆく。
『こんな所に……。えぇー魔王、魔王っと----こんなところに魔王なんて居るわけ……あ』
案内板には『501号室 魔王』とあった。
『どストレートじゃーねーか!』
「まあ、魔王だしな」
『フツーは最上階だろ! まぁ、マンションに住んでるって時点でフツーじゃねーけどなぁ!!!』
「落ち着け、主人公。安心するにはまだ早いぞ」
『今度は何だ? 魔王の部屋の鍵とか言うなよ。もう魔王は目前なんだからよ』
「いや、鍵は要らない。だが、このオートロックをクリアしなければならない」
『いやいやいや、作者が何とかしろよ』
「筋が通らないだろ」
『このストーリーに筋なんてねーだろ!』
「折角の見せ場だぞ?」
『ここが!? もう少し後にあるだろ。最大の見せ場が!』
「そんな見せ場、何処にある?」
『魔王との決闘シーンだろ!』
「ああ、あるねぇ」
『忘れてたのか……最大の見せ場を』
「まあ、ここを越えるのは簡単だ」
『本当か! 教えてくれ!』
「考えろ」
主人公は下唇を出して、いやそうな顔をする。少ししてから主人公は頭をクシャクシャと掻き、背中に背負っている剣に手を伸ばす。
『っあーーー! メンドクセー。叩っ斬ってやらぁ』
主人公は自動ドア目掛け、大剣を振りかぶる。
『どららーーぁぁあ! っうぉお!?』
大剣は弾かれ、主人公はピカピカのロビーの床に尻餅をついてしまう。
『ててて……。んだよ! 作者ァ! 邪魔すんなよっ!』
「考えろって言ったろ……全く」
作者が深い溜息を漏らす。そしてすぐに、一階の住民であろう、女性が自動ドアの前に立った。
ドアは開かれ、ごうんごうんと大きな音を立てた。
「今だ!」
『ええ!? ここで!?』
主人公は手に持っていた剣を使って立ち上がり、ドアに向かう。
すると、急に自動ドアが閉まり始めた。当たり前だ。自動ドアが開きっぱなしの筈がない。
『おぉい! まてぇぇぇぇぇ!』
主人公は手に持っていた剣をドアの下にある小さな丸いセンサーに振りかざす。
ドアは再び開かれ、主人公の道を照らす。
『お……おぉ』
「おぉ、じゃない。急げ!」
『おっ、おぉ!』
主人公は開かれた自動ドアを抜け、先を急いだ。
しかし、目の前には新たな刺客が潜んでいるのだった。
『えぇ!? あの自動ドア、敵だったのか!? 俺はてっきり----』
次週へ〜、続くっ!!!
『おい! まだ終われねーだろ! こんな終わり方が許されてたま……