仲間を作るにはフラグを立てなければならない!
前回の未公開シーン。
『うおおおおお! 足早ぇぇえ!』
「抑えて走れ」
『どーぉやってぇぇぇぇぇーーーー!』
「お前は、アレだな。博士のトンデモ発明品に振り回される、ドジっ子助手みたいだな。どーだぁぁ? 助手よぉぉ」
『助手助手言うなー!』
「ああ、後アレだ、お前は飛べる」
『アイキャンフライ?』
「イエース」
飛べた。
そして話は現在へ戻る。
『おい! コレ毎回入れるのか!?』
「うるさいな。メタ発言は作風を崩す」
『今の発言、一話目の時のお前に聞かせてやりてぇよ』
決まりきった呆れ顔で、主人公はため息を漏らす。王様を城に連れ帰った後、朝日が空に顔を覗かせた。全て作者の創造通りだ。
『朝だな』
「そうだな」
主人公はそれから静かに街まで歩いた。城下町に着いた所で、主人公はようやく口を開いた。
『で、次に向かうのは何処だ?』
「魔王を倒しに行け」
『唐突だな、オイ』
シュビッと手の甲を天に掲げ、主人公は作者にツッコミを入れる。
『いいのか、作者? 登場人物少ないぞ。ああ、後、文字数も』
「こっちでどうにかする」
『なんてダメ作者……』
「いいじゃないか。難しく考え過ぎだ。主人公」
『うう……んー。まぁ、いいか』
そうして主人公は魔王の居る城へと向かう。
『ぜってー展開早ぇって……』
トボトボと歩く主人公の背中にはいい具合の哀愁が漂っていた。
『ボカすなよ。ナレーション』
南の城下町シュルドゥから少し西に位置する『懺悔の森』に一人の少女が居た。少女は狼の頭と蛇の尾を持つ獣数匹に、追われていた。
『ハァハァハァハァ、あっ! うぅぅ。ああ……!』
少女は沼に足を取られた。後ろからは獣達がジリジリと近づいてきている。
『グルルル……。ガァウ!!!』
もうダメだ。そう思った瞬間。獣の頭がごとごとと音を立てて落ちる。
『なんだー? 人間が居るじゃーねーか。大丈夫か?』
ヒョイっと少女の首根っこを掴み、沼から引き上げる。
『危ない所を助けていただいて、ありがとうございますっ! 私は見習い魔法使いです』
『なんと!』
「新キャラ登場だな」
『仲間になるパターンの奴だな。これで少しは楽な旅になるな……多分』
目の前で首をかしげている少女に対して、主人公は優しく話かける。
『やあ、おじょーちゃん。俺は主人公だ』
我ながら特異な自己紹介だと思いながらも、主人公は続ける。
『まあ、物騒な所だし、行動を共にしようじゃーねーか』
すっと右手を差し出す主人公。しかし、主人公の予想に反し、彼女はその手を払った。
『ふざけないでよ! 何? ナンパ? 馬鹿なの死ぬの?!』
『…………?』
『まっ、まぁ! アンタが私と行動したいってゆーなら、そっ……そのっ、あぁの……一緒に行動してもいいけど』
『…………』
『かっ、勘違いしないでよねっ! 別に、獣に襲われて怖かったとか、命を助けられて感謝してるとか、そんなんじゃ、ないんだからー!!!』
『ツンデレ、乙』
右手を軽くあげて、『分かりました』というポーズをとる主人公。
『じゃあ、さっさと森を抜けようじゃーねーか。ジメジメして気持ち悪りぃんだ、ココ』
『ええ、そうですね』
こうして主人公に仲間が出来た。
『へぇ、じゃあ、お姫様を助ける為に旅をしているんですね。男らしいですね』
『いやぁ、乗せるのが上手いね〜。おじょーちゃん。褒めても何も出ないぜ』
二人は歩きながら、他愛もない会話をしていた。主人公は始めて出来た仲間に嬉しそうな顔をしていた。ニヤニヤしている顔は本当に気持ち悪い。
『うるせーよ!』
『……! ど、どうか、したんですか? 急に』
『ああ、悪い。幻聴だったみてーだ。あれ? そんなに怯えて……どうした』
『いえ、ゴメンなさい。昔の事、思い出しちゃって……』
『昔の事? 訊いてもいいのかい』
見習い魔女は首肯し、ゆっくりと話し始めた。
『昔、今から六年前です。私はとある街に父と二人で暮らしていました。今は、違う所に住んでいるのですが……。その、昔ですね。
私と父は借金取りに追いかけられていました。毎日毎日、返せるはずもない借金を取り立てに来て、大声で怒鳴り散らして……。私達の家を荒らして……。だから、私が稼いでどうにかしよう。そう考えたんです。
私には生まれつき不思議な能力があったんで、それを生かした職についたんです』
『へぇ、そりゃあ……大変だったな』
主人公は、魔法使いって金稼げるんだなどと細かいことを気にしていたが、次第に馬鹿馬鹿しくなり、考えるのをやめた。
『あっ、出口だ』
そう言って駆け出す見習い魔女。彼女は森の出口付近で振り返り、主人公に言った。
『では、また機会があれば会いましょう。さようなら』
『ゑ……?』
彼女は走り去る。太陽に輝く草原を駆けてゆく。その後ろ姿は大きく、逞しく、希望に満ち溢れて----。
『ちょっっっとまてぇぇぇーーーーい!』
「せからしかね」
『急に方言使うな! お前、九州出身じゃねーだろ! てゆーか何?! あの子! 仲間になったんじゃねーの? 何でどっか行っちゃったの?? フラグビンビンだったじゃん! 回収したじゃん! 助けたじゃん! 過去編終わらせたじゃん! 俺は--』
「いやぁ、なんてゆーか。創造してて、つまんなかった。俺、ツンデレ嫌いだし」
『じゃあ……何故ツンデレキャラに!?』
「いやあ、流行ってるから……」
『時間返せーーーー!』
結局また一人になってしまった主人公の目には、キラリと光る何かが----。
『泣いてんだよーーーー!!!!』
主人公に仲間が出来る日は、まだ先のようだ。