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作者、創造中!  作者: 闍梨
第一章 主人公と荒くれのファンタジー
3/14

俺が姫を助けます!

「よし、敵を出現させる」


『強い奴はパスな。まずは肩慣らしくらいの奴で』


「まかせろ」


 作者は想像し、創造する。

 主人公の目の前には青い、プニプニと笑っているスライムが一体登場した。


『ちょっと待てェェ! なんだこのドラ◯エに出てきそうなスライム! 作者、お前は小説を書きたいんだろ? これじゃあゲームの世界になるぜ』


「細かいことは後だ。さあ倒せ!」


『んだよ……。まあ、しゃーねえか。悪いな、スライム。お前に恨みはねぇが、死んでもらうっ!』


 主人公が喋り終えると同時に、スライムが『ぽきゅ〜ん』と言いながら主人公に飛びかかってきた。主人公は背中にさげた大剣に手を伸ばし、一気に引き抜く。スライムの無残な姿を見ないようにするため、主人公は目を閉じた。

 スライムを斜めに切り裂いた。と思ったが、大剣は空を切っていた。

 この大剣、やけに軽い。

 そう感じて目を開けると、そこには驚くべき光景が主人公を待ち受けていた。


『これ……刃の部分が、ねーじゃねえかー!!! へぶらぃっ!』


 主人公はスライムの突進をもろに、股間に喰らってしまった。悶絶して膝から崩れ落ちる主人公。スライムは『きゅる〜』と言いながら何処かへ消えてしまった。

 薄れゆく景色の中、主人公は一つだけ思っていた。作者、許さん……と。



『はっ! 知らない天井だ』


「お、目が覚めたみたいだな」


『てめぇ、作者ァ! めやがったなー!』


 知らない天井に向かってぎりぎりと歯を鳴らしながら、主人公は眉間にシワを寄せた。作者は薄く笑いながら応える。


「すまない。いきなり剣を抜くもんだから、想像(創造)が追いつかなくてな。悪かった」


『思ってもいねーだろうが』


「いやいや、悪かったと思っているさ。だから、こうして城下町を早々に創造してストーリーを省略したんだろ」


 主人公は表情を変えずに作者の声に耳を傾ける。そして、ようやく折れて作者を許し----。


『折れてねーから。勝手に人の怒りを鎮めるな!』


 そして、ようやく作者を----。


『許してねーっつってんだろ! まあいい、らちが明かねー。で、作者。ここはどこだ?』


「南の城下町、シュルドゥの宿だ。心配するな。30Gは巾着に創造いれておいた」


『どうして固定給なんだよ! 俺は公務員か何かか?』


「嫌なら今からでも減給しようか? 公務員よろしく」


『ぐっ……! きたねえ奴!』


 主人公は心の中で、もう魔王倒しに行かねェぞ、ばーーか! と唱えた瞬間、作者は言った。


「へえ、姫を救いに行かないつもり……か」


『ななんああなななん?! なああんのことかなー?』


「本当のことを言え」


 主人公は心を読まれないように、嘘をついた。本来なら主人公から作者は見えないのだが、作者から目を逸らすように視線を右上へと動かす。


『いや、あのスライムどうしてるかな〜とか考えてたんだけどぉ〜』


「嘘だな。今お前は右上を見ながら答えた。右上を見ながら想像するのは【今までに見たことないものを想像する時】だ。お前は嘘を言っているな」


『お前はサミュエル・L・ジャクソンかよ!』


「はい、減給〜」


 嘘が見抜かれ、主人公のお小遣いが5G減った。


 宿から出た時には外は暗く、城へ通じる門は固く閉ざされていた。周りにはカエルがいるのだろうか、ゲロゲロと仲間達とのど自慢大会を開催していた。


『門、閉じてるな』


「そうだな」


『ええ!? それだけ?』


「それ以外に何がある?」


『いや、なんか……こう……あるだろ! オカリナ吹いて、一瞬で朝にするとか。設定画面で時間変えちゃうとか。ああ、でもあれやると雑草伸びてきちゃうんだよな〜』


「ゲームの話になってるぞ、主人公」


『いけねぇ! 作者の感性がうつっちまった』


「元が同じだから仕方ないけどな」


 二人は沈黙した。周りではまだカエルが唄っている。沈黙を先に破ったのは作者だった。


「基本的に時間を掌握しているのは俺だ。待っていても夜は明けない」


『じゃあ、なんで?』


「夜しか入れないからに決まっているだろ?」


『なーる』


 掌にポンと手を打ち、主人公は納得する。納得したと思った後、すぐに納得できないことが主人公の中に生まれた。


『いやいやいや、しかしだな、作者……。夜中に城に忍び込んで「姫を助けます」って言っても説得力ねーだろうよ』


「そこは何とかしよう」


『じゃあ、夜じゃなくてもいいんじゃ……』


「細かいな! 主人公のくせに! お前アレだな、女の子とのデートで十円単位までしっかり割り勘するタイプだな」


『はぁ!? んなダセー事しねえよ! 男らしく、どーんと払うぜ!』


「25Gで?」


『そりゃ、お前のさじ加減だろうが!』


「よほど減給されたいらしいな」


『はい、申し訳ありませんでした』


 社長に対応するサラリーマンの如く、主人公のお辞儀はピッタリ九十度だった。



 門を突破するのは意外と簡単だった。門を大剣で切り刻んで強行突破したからだ。勿論、大剣は作者がしっかりと創造した。


『斬れ味バツグンだなー、オイ!』


「当たり前だ。誰が創造したと思ってる」


 主人公は門を切り刻んで、敷地内に入る。その瞬間、耳をつんざくアラームが鳴り響いた。


『セコム、してますか?』

『セコム、してますか?』

『セコム、してますか?』


『変わった警報だな……』


「ユニークだろ?」


『ユニークだけど! 今はそんなこと言ってる場合じゃねーぞ! やべぇ、人が来やがった』


 重そうな鎧を身にまとった兵士が、数にして八名ほど、こちらに向かって来た。手には長く黒いものを持っている。


「いやらしいものではないからなー」


『分かってるよ! ショットガン的な奴だろ? 作者の文章力の無さには恐れ入ったぜ』


ーー!』


 主人公を襲いかかる鉛玉は、主人公の足の近くを通り過ぎる。


『あああ危ねぇ!!!』


 持ち前の韋駄天で、主人公は脱兎のごとく逃げ出した。


『えー!? 俺って足早い設定なのーーーー??』


「百メートル、七秒フラットだな」


『世界新ンンンン!!??』



 命からがら逃げ出した主人公は、自分でもどこにいるか分からなくなる様な森の中にいた。辺りを見回すが、明かりがないせいで周りがよく見えない。


『どど、どこだぁ? ココは〜。おーい、作者ぁ、迷っちまったー! なぁー……おーい……作者ぁ……』


 どうやら、主人公は迷子になってしまったようだ。夜の森は不気味で、様々な生き物が奇声を発している。

 主人公の後ろで何か音がする。主人公は慌てて振り返るが、何もいない。


『おい、なんだよ……何なんだよー!』


 もう何が何だか分からなくなっていた主人公は、背中に背負っている大剣を引き抜き、身構える。


『や、や、やめろ! やめてくれ。ワシは王だ! 本当だ。すぐそこの城に住んでいる! 信じてくれ』


 茂みから姿を現したのは、頭に大きな冠を乗せた裸の男だった。丸々と肥っていて首が無い。クリームパンの様な手には切り傷のようなものが見られた。


『いや……。なんてゆーか……嘘だろ』


『ひゃあ、酷い! ワシは今襲われていたのだ。故にこの様な格好で……』


『いやぁ、それにしても……靴下だけ残されて、それ以外の身ぐるみを剥がされてると……。--変態だな』


『みぱ!?』


 意味不明な奇声を発していたのは、動物達だけでは無かった。この、自称王様も奇声を発していたのだ。


『なんて声出してやがる……。まぁいい。王様、さっき襲われたと言ったが……誰にだ?』


 王様の表情はたちまち暗くなり、目から光を失っていた。


『奴等だ。ワシの可愛い姫をさらっていった……あの、黒い連中だ!』


『黒い、連中?』


 泣き崩れる王様。

 立ち尽くす主人公。

 一言も喋らない作者。


「まあ、シリアスなシーンだし」


『居たのか!?』


「当然」


『なあ、作者。何だ? 黒い連中って……』


「それを知るには、お前はまだ若い」


『いきなり格好つけんじゃーねーよ!』


「うるさいな、伏線だろ」


 作者と主人公のやりとりのあと、泣き止んで目を腫らした王様が、不思議そうに主人公に問いかける。


『あの〜、お主。何を一人で喋っておるのだ?』


『ああ? 聞こえてたろ。作者と喋ってたんだよ。この世界の創造主だ』


『はて、ワシには聞こえんかったが……』


「よし、主人公。面倒なことになりそうだ。文字数増えそうだから軽くまとめとけ。あの台詞、今使うんだよ。わかるだろ?」


『物書き失格の発言だな、オイ!』


 呆れたようにため息を漏らし、主人公は言う。


『王様、俺が姫を助けます』


 唐突だった。物語は作者の誘導により、急展開を迎える事となった。

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