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作者、創造中!  作者: 闍梨
主人公と横殴りのラブストーリー
13/14

光速土下座!

「今日から新章突入だが……。意気込みは?」


『バリバリあんぜ!』


「じゃあ、行ってみようか」





『いっけなぁーい! 遅刻、遅刻ゥ!』


 私、メルヘン星空。十五歳! 高校二年生。今日は始業式なのに、時計が止まっちゃってて寝坊しちゃった! もぉ〜お母さんの馬鹿ァ!

 食パンを咥え、急いで家を出るメルヘン星空。


『いってきまぁ〜〜す!』


 メルヘン星空は長い坂道を駆け下りる。忙しそうに揺れているポニーテールには僅かに希望に満ちた雰囲気が伺える。


 メルヘン星空が曲がり角を曲がった瞬間、そこには主人公が居た。メルヘン星空は驚き、すぐさま止まろうとするがブレーキが効かない。二人は衝突してしまった。


『あいたたたた。はっ! スミマセン!』


『ああ、いいってこと……よ!?』


 ぶつかった二人は互いに逆さまになるよう折り重なった。主人公が下になる形だった。

 主人公の目の前にはめくれ上がったスカートの中が--それは純白と形容するに相応しかった--あらわになっていた。


『ん? ひァあぁあ!』


 状況を確認する為、こちらを振り向くメルヘン星空。自分のパンツが主人公の目の前にさらけ出されている事を知り、慌てて主人公から飛びのいた。


『あぁ……。大丈ブゥ!?』


 ゆっくりと立ち上がった主人公に思い切りビンタをかますメルヘン星空。主人公の右頬には『ツヨシしっかりしなさい』ばりのビンタ跡が残っていた。


『さいってーーーーー!!』


 道に転がっている鞄を手に取り、メルヘン星空は学校がある方へ走って行った。


『おい……作者、一ついいか?』


「何だ?」


『少女漫画読み過ぎだろ!』


 春の穏やかな風に自分の気持ちを乗せ、高らかにツッコミをいれる主人公は、どこが清々しかった。



 主人公の提案--というより命令--により『やり直し』が実行される。スタートの地点からという事だが、何処がいけないのだろうか。作者はそう思っていた。


『本気で面白くしようとしてたか!?』


「八割……息抜きだ」


『八割の惰性から名作は生まれねぇよ!!』


 主人公の言う事は最もである。

 ともあれ『やり直し』だ。


『それとな、やり直しって言い方はヤメロ! 現代っ子ならではの悪い風潮だぞ? 何でもかんでもゲームみたいにやり直しが効かないのが人生なんだよ。それをリセットボタン一つで解決しやがって……大体な』


『いっけなぁーい! 遅刻、遅刻ゥ!』


『無視すんなやーーー!!』


 私、メルヘン星空。十五歳! 高校二年生。今日は始業式なのに、時計が止まっちゃってて寝坊しちゃった! もぉ〜お母さんの馬鹿ァ!

 食パンを咥え、急いで家を出るメルヘン星空。


『いってきまぁ〜〜す!』


『導入部分まるまる一緒じゃーねーかー!!』


 以下略……。


 左頬にモミジを作った主人公は作者に話しかける。


『おい、作者……やってくれたな。何故だ!? 省略したからいいものの! 同じ事を二回もやりやがってー!!』


 左頬をさすりながら声を荒げる主人公に作者は答える。


「違いが分からないのか?」


『ああ! 俺にはわかんないね!』


「さっきと叩かれた頬が逆だろ?」


『分かるかーーーー!』


「あと、メルヘン星空のパンツの模様を変えておいた」


『そこは分かりましたぁぁぁ!!!!』


 恥ずかしそうに両手で顔を覆い、主人公は叫んだ。恥じらいよりも嘆きの方が大きい。そんな気概だった。


 主人公はやっとの思いで学校にたどり着いた。新しい校舎を創造したのは、作者の通っていた学校が最近改築されたからであった。


『新しいな……おい』


「俺の通っていた学校だ。経験してる事だと創造しやすくていいな」


『ああ! 作者はこういうの、向いてるかもな!』


 校門をくぐり抜け、主人公は本日より『私立 怒気土器どきどき高校』の生徒となる。


『高校名ダサっっっっ!』


 そんな事はさておき、主人公は職員室へと向かった。主人公の目の前の景色が変わり、白を基調とした、新しいダイニングの様な綺麗な職員室が創造された。


『イキナリだな! まぁ慣れたけど……』


 そう言う主人公の前に一人の中年男性が、椅子に座った形で創造された。中年にしては味のあるダンディズムだったが、レイバンのサングラスがあまりマッチしていない印象をうけた。


『あぁ、君やな。転校生は。なんや、しょーもない顔しとるわ! 情けなっ!』


 先生と思しき人物は左手に持った書類を確認しながら、ドスの聞いた声で主人公に言った。


『高校二年にもなってだらけた顔しとるわ! まぁ、しゃーないか。先生もそやったし』


『あ、あの〜先生?』


『おぉ!? もう質問コーナーはお終いや』


『え!? んなコーナー、一秒も記憶に無いぞ!』


『あぁ!? 先生に口答えか? こりゃぁ、しかるべき処置をとらんとなぁ』


 首を左右に傾け、ポキポキと骨を鳴らす。ついでに指の骨もポキポキと鳴らす。さらに、ついでに足の指の骨もポキポキと鳴らす。またまたついでに、膝が悪いのだろうか、ゴリゴリと骨が鳴る。

 もう全身からポキポキと、とにかく五月蠅うるさかった。


『おぉ〜? あぁ!? ……ああ!!!』


 先生はピクピクと痙攣けいれんし、泡を吹き、その場に倒れてしまった。


『あぁぁぁぁぁ! 先生ぇぇぇえええ!』


 先生は駆けつけた救急隊に担架に乗せられ、速やかに搬送された。


『おいおい、転校初日から先生居ねーって……困ったな』


『おい、君』


 主人公は呆然と職員室に立ち尽くしていた。まるで警戒していなかったので、背中から声をかけられた主人公は普段より驚いてしまった。


『あひゃひょわぁぁぁあああ!!』


 振り返ると、主人公より少し背の低い、茶髪だが上品な髪型の女教師(恐らく)がそこにはいた。スタイルの良い銀縁眼鏡の奥の瞳は優しく主人公に微笑んでいた。


『にゃはは! そんなに驚く事はないだろう? あんたでしょ? 転校生。私は二年一組の担任やってる、ブリリアントみどり


『ええ? あれ!? さっきの人は? あの怖い感じの……』


『ん? ああ! たきさんね! ナイアガラ滝先生。ウチの副担任よ』


『副担任の威力じゃねーだろ!』


 ブリリアント緑は元気に「あっはっは!」と笑って出席簿で口を半分隠した。


『あーっ、笑った。確かに、副担任って柄じゃないねぇ! 分かる分かる!』


『いや、冗談じゃないですよ! 怖いどころじゃねー……ありゃ鬼だろ』


『ほほーう?』


 眼鏡の奥の猫目がニヤリと細くなる。


『ん……? なんです? 今凄い不安な一言を言われそうな気がしたんだけど……』


『ああ、父さん・・・には私から言っとくから。転校生が『鬼だ』って言ってたってね』


『申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!』


 主人公は、人間とは思えない程素早く、地に頭を擦り付けた。彼はこの時、光の速さであった。作者はこれを「光速土下座シャイニング・ソーリー」と名付け、自画自賛していた。

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