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作者、創造中!  作者: 闍梨
ひと休み
12/14

作戦会議1

『え?! 終わり!?』


「どうした藪から棒に」


『いやいやいやいや! なーんか忘れてるだろ! 大事な事!』


「はて?」


『姫は!?』


「………………ぁ」


『おい、今小さく「ぁ」って言ったよな!?』


「過ぎた事はもういいじゃないかっ! はははははは!」


 主人公は開いた口が塞がらない状態だった。

 どうして作品の創造主である所の作者が、こんなにも……残念なのだろう。

 主人公は心の中で、そっと呟いた。



 あれから数時間が経過した。主人公は天井のない天井に向かって叫ぶ。


『テストー。マイクテストーあーあー。聞こえてるか? 作者』


「ああ、オーケー。主人公」


 主人公は真っ白な空間に一人でいた。作者に呼びかけをしたのは不安からではない。もうこの状態に主人公自身、慣れている様だった。


『よーし。じゃあ、作戦会議だ』


「えー」


『えー、じゃねーよ! 作者。お前はファンタジーに向いてない事が分かったんだ。次回作をどういう風にするか、決めていかにゃならんだろ』


「えー。少しは休ませ--」


『あぁん!?』


「っし! 会議やるか!」


 作者は主人公の鋭い圧に負け、開き直った様に言った。


『よーし。じゃあ、まず反省点だが……』


「おいおい、主人公。反省点なんか挙げていったら時間の無駄だろ」


『お前、自分の作品を良くしたいと思わないのか?』


「なぁに。心配ないさ。俺は主人公のやりたい事に手を差し伸べ、もとい、創造するだけだ」


『創作者としてお前より投げやりな奴ァ居ねーな』


 はぁ、と溜息を吐く主人公。頭をくしゃくしゃと掻き、気持ちを入れ替える。


『じゃあ、良かった点挙げていくか?』


「あったか?」


『俺に訊くなよ!』


 というわけで、感想の部分にこの作品の良かった点を書いて下さい。宛先は--。


『勝手に進めるなァァァ!』


「まぁ、落ち着け主人公。次回もお前を使ってストーリー考えるからさ」


『さ、作者!』


「一番有力なのは、七つの玉を集めると願い事が--」


『波ァァァァァァァァアアアア!』


 パクリだった。

 一番有力な候補は、当然の如く却下された。主人公は腕を組み、右手の人差し指を左腕にトントンとリズムをとりながら話を進める。


『他にねーのか? 出来れば楽しい方がいいんだけど……』


「う〜ん……。何だろうな……。はっ!」


『思いついたか!?』


「ああ、違う。今日の晩飯について考えてた」


『おめー、マジで一発殴りてーよ』


「カリカリするな。ストレスで禿げるぞ」


『ア●ランスがあるじゃねーか』


「●●ランスだと?!」


『隠し方ちげーよ! それじゃあ、ラフランスかも知れねーだろうが!』


「●●●●ス」


『何が何やらーー!』


 主人公が頭の中でステンレスと想像したのはここだけの秘密だ。


『てめぇぇーー!!』




 閑話休題。


「んー。にしても次回作ねぇ……」


『おお、決めなきゃなぁ……。困るのは作者だろ?』


 主人公は真っ白な空間に足を崩して座っていた。一昔前の葬儀屋の様な人相の悪さで、天井を見上げている。


『例えが分かりづれーよ!』


「落ち着け、主人公。次回作を考えるんだろ? 真面目に頼むぞ」


『オメーには言われたくなかったねェェェェ!!』


 話が進まないので、作者は大きな円卓と椅子、ホワイトボードを創造よういした。ホワイトボードの上には『次回作案を考える会議』と書いてある幕が貼られていた。


『おお! 会議っぽくなったな!』


 主人公はホワイトボードの真正面の位置に陣取り、無駄に大きな態度をとってみた。


『しかし、作者……。これ俺一人じゃねーか。寂しいじゃねーか。どーにかしろよ、作者ァァ』


「しょうがないなぁ、ほれ」


 作者が創造したのは『名言おじさん』と『酒屋のオネェ』だった。


『お、おじさん! 生きていたのか! おじさん!』


『あぁ〜らァ、可愛いボウヤじゃなァァい? 久しぶりねぇぇぇ』


『てめーはすっこんでろ!!』


 主人公は華麗に左フックをオネェのボディにお見舞いした。肝臓レバーをヤられたオネェはブクブクと泡を出して失神した。


『おじさん! おじさん! 生きていてくれて嬉しいよ! あの時はありがとう! おじさん!』


 主人公はおじさんの手を取り、久しぶりの邂逅かいこうに喜びを隠せないでいた。


『………………』


『ああ、本物のおじさんだ! 寡黙でクールで、一言一言が重い! おじさんはそれでこそおじさんだ!』


「さっきから『おじさん』を連呼し過ぎじゃないか?」


 作者が割って入るも、主人公の耳には届かなかった。主人公は親切におじさんを席に案内していた。


『さぁさ、こっちだよ。おじさん! 俺の隣り! 今から会議なんだ。重要な場面で強烈な名言、頼むよ!』


『………………』


 おじさんはただただ頷き、椅子の肘掛に鼈甲べっこうの杖を立て掛け、腰を落ち着かせた。

 後ろの方で倒れているオネェを無視し、会議は始まるのであった。


『さぁ、始めるとするか!』


 一応説明しておくと、ナレーションである私と作者はネームプレートだけ用意されている状態である。今回の会議は主人公、作者、名言おじさん、ナレーションの四人となった。


「うむ。そうだな。まずはジャンルだ。ファンタジーは考える事が多過ぎて、世界観が作りきれなかった。もっと単純な、シンプルな舞台で繰り広げられる物がいいと思うんだが……」


 珍しく真面目な作者に、主人公は驚きを隠せなかったが、すぐに気持ちを切り替えて作者に言った。


『ってーことは、部活ストーリーとかか? 友人と共に汗を流し、優勝目指して突き進む! 的な?』


「確かに、そういったサクセスストーリーみたいな作品は嫌いじゃないな。単純だし」


『だがなぁ……。人数が多くなるだろ? 野球物だと最低九人、サッカーだと十一人になるんだぜ?』


「最近ジャンプではバスケとバレー物やってるよな」


『ラクロスを忘れてるだろ』


「ON● PIECE面白いよな」


『部活ストーリーと関係無くなってるぞ!』


『背中の傷は、剣士の恥だ』


『おじさんンンンンンンンン!! ●NE PIECEの話題出たからって、そんな名言ぶち込まないでェェェェ!』


 数十分間、ジャンプ談議に花が咲いた。


『ええ……話を戻そうか。まず作者がやりたいのはシンプルな舞台。そしてわかりやすい物。この二点は確定だな』


「んー。見つかるのか?」


『何か、もう一つってトコだよなぁ』


 沈黙。

 みんなが口を開かなくなってから数分、意外な人物が口を開く。


『話は聞かせてもらったわ、ボウヤ達。貴方達、やっぱりまだまだ、お子ちゃまよ!』


 オネェが復活した。後ろから主人公を抱きしめて、頬ずりをしている。


『ぎゃあああああああ!! オネェ! ヤメろ! お婿さんに行けなくなるー! てかじょりじょりするー! ヒゲいてぇー! キメェーーーーー!!』


 振りほどこうとしたが、ガッチリとロックされて離れない。ジェットコースターの安全バー並の力だった。


『あんたらの作品には『愛』とか『恋』という要素がないのよ! 分かる? 手が触れ合うだけでドキドキしたり、見つめ合うと素直にお喋りできなかったり、つい好きな相手に意地悪しちゃったり、絵文字のハートマークにドギマギしたり、身体を鍛えだしたり、無駄に不良ぶってみたり……』


『後半男目線だなァァァァァァァ! オネェェェェェェェェェ!』


『あら、ワタシの体験談よ』


『きぃーてねーよーぉぉおおお!』


「ふむ。恋、愛……。俺たちは、見落としていた様だな。主人公」


 主人公はオネェに責められ、顔中をキスマークだらけにしていた。


『何をだ!?』


「お前を、ハーレム王にしてやろう!」


『ハァ!?』


 かくして、会議は幕を下ろした。次回作は『主人公をハーレムにする! ドキドキ、学園ハーレム物語』と相なった。果たしてどうなることやら。


『まとめんな! このオネェ、どーにかしろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ああああああああ!!!!!』


『恋の悩みほど甘いものはなく、恋の嘆きほど楽しいものはなく、恋の苦しみほど嬉しいものはなく、恋に苦しむほど幸福なことはない』


『おじさんンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!』


「では、次回作をお楽しみに〜」


『作者ァァァァァァァァァァアアアア!!!!!』

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