ラスボス!
痛風
高尿酸血症を原因とした関節炎を来す疾患。名前の由来は、関節から関節へ痛みが風の様に飛ぶことからきている。又、風が吹くだけで痛いとも言われる。まだ謎に包まれた現代病の一つである。
『--で、君は物語の主人公で、魔王を倒しにきた。そうだね?』
ラスボスは身体を起こし、歪んだ表情で主人公を見ながら状況を整理していた。
『ということは、ナツと母さんは……。そうか、それは……』
『まぁ、大人しく殺られてくれねーか。いつまで経っても話が終わらねーんだよ』
主人公は立ったまま、ラスボスを見下ろしながらそう言った。
ラスボスは起こしていた身体を倒し、また元の様に布団の上に仰向けになった。
『ふふ。ハハハ! そうか、そうか。あの二人が逝ったか』
笑っているラスボスに嫌気がさした主人公は、むっとしながら口を開いた。
『ちょっと! あんた。失礼じゃないか?』
『君が二人を殺ったんだろう?』
『……っ!』
『ほうら、図星だな。さっきの物音はそのせいだな……。よいっしょ』
言いながら、ラスボスは身体を起こし身を捩らせて、枕元に置いているペットボトルを取ろうとする。
『んー。いやはや、すまない。君、そのペットボトル取ってくれないか?』
『ん? ああ、これか』
主人公はしゃがみ込み、ペットボトルと側にある白い小さな紙袋をラスボスに渡した。
『ああ、ありがとう。痛くてね……』
『体調管理はしっかりしろよ。ラスボスだろ?』
『ははは。痛い所をつくね。痛風の痛みとはまた違うが』
ラスボスはそう言ってから、紙袋から錠剤を取り出した。いくつかの種類の薬を掌に収めていた。
それを見ていた主人公はラスボスに質問をする。
『痛風って、そんなに薬飲まねーといけねーのか?』
『ああ、そうだね。この白いのがザイロリック。ピンクの小粒のこれはロキソニン。最後にこのカプセルが胃薬だよ』
ラスボスは丁寧に主人公に一つずつ、飲んでいる薬を紹介した。
『はぁー。大変だわな。俺も気をつけよう』
「いいのか? ラスボスに優しくして」
作者は心配そうに主人公に話しかける。主人公は天井に向かって応える。
『まぁな。これでラストだしな』
「そうなる事を祈ってるよ」
『嫌な言い方するなよ。ん?』
主人公の目の前に居たラスボスは、痛風の痛みの中すっと立ち上がり、主人公を見下しながら言った。
『フゥーハハハハハハ! よく来た! 主人公よ』
『ええ!? さっきとキャラ違うじゃーねーか』
『薬が効いたのだよ! 薬がァァァ!』
『えぇェ!? 効くの早っ!』
『驚いてばかりでは私には勝てんぞ! くらえ! 「世界に一つだけの花なんて生物学的見地に於いてあり得ないんだけど、私はそれすら信じていたい!」』
『技名なげーよ! うおぁ!』
ラスボスの掌から赤い雷が主人公を襲う。間一髪の所で避けられたが、ラスボスは次の攻撃の体勢に入っていた。
『フハハハハ! どうした!? 逃げてばかりじゃ私は倒せないぞ! 唸れ! 「暗い夜道で誰かがついてきてると思ったら実は自分の足音が周りの家々に反響した音だった」』
『だからなげーって! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
ラスボスの繰り出した「暗い夜道--」は主人公に命中した。主人公目掛けて飛んでいった黒い光が、激しく燃え盛る。
『どーぉだぁ? 「暗い夜道で誰かがついてきてると思ったら実は自分の足音が周りの家々に反響した音だった」の威力は! 顔から火が出る程恥ずかしいだろぅ?』
『ベラベラと喋り過ぎなんだよ! お前!』
主人公は身体を炎に焼かれながら、ラスボスに言った。ラスボスは構わず続ける。
『トドメだ! 魔王族最終奥義「破っ!」』
『極端かーーーーっ!』
主人公は必死に身を屈めて、最終奥義「破」を回避する。バチバチと光る黄色い閃光が魔王の掌より発射される。もう家はボロボロだった。
『ははっ! 上手く避けるじゃないか。流石、腐っても主人公だな』
主人公はラスボスの言葉どころでは無かった。何故なら、主人公は今、刀の妖精さんを探してしたからだ。
主人公とラスボスの会話がつまらなかったのか、フラフラと何処かへ消えてしまったのだ。
『畜生っ! 作者ァ! 武器、戦える武器を出してくれ!』
「うむ。了承した」
作者が創造したのは重厚なピストルだった。主人公は黒く光るそれを手に取り、ラスボスに向けて構え、安全装置を外した。
『うおおお!』
引き金を引いた瞬間、目の前を何かが通った。主人公は目の前を過ぎて行った何かを無意識に目で追った。和室の壁にはピストルの弾を奇跡的にも真っ二つにした、刀の妖精さんが突き刺さっていた。
『…………?!』
『勝手にバトル始めるなよ! 用を足してたらいきなり扉がぶっ壊れてビックリしたんだぜ』
刀が何故トイレに行く。
主人公はそう思った。ラスボスも、そう思った事だろう。
『まっ、いいか。活躍の場、取っといてくれてサンキューな』
『一応、全力で戦ってたんだがな……』
主人公は壁に突き刺さった刀の妖精さんを掴み、構える。ラスボスはようやく我に返り、悪役らしい台詞を主人公に投げつけた。
『今更そんな鈍で何を切るつもりだね--』
一閃。
主人公はラスボスの台詞が終わらないうちに刀を一振りしていた。主人公の一振りで、ラスボスは上半身と下半身がセパレートしてしまった。
『あ……。かっ……がはっ!』
『全く、またつまらぬ物を--』
『妖精さん、自重して下さいよ』
ラスボスは真っ二つになり、安い特撮映像に出てくる怪人の様な悲鳴と共に爆発し、消えた。辺りに火の粉が飛び散り、燃えやすい物から順番に火がついていった。
主人公は冷や汗を背中に感じながら、妖精さんに訊いた。
『ラスボス……。弱かったっすね』
『確かになぁ』
『まぁ、何よりこれで世界は平和になるだろうし』
「それより何より、早く脱出したらどうだ?」
『うお!? 燃えるの早くねーか!?』
部屋はもう火の海と化し、主人公の脱出経路を塞いでいた。焦っている主人公に妖精さんが助言をする。
『おい! 主人公。慌てるな。火事の時は「お・か・し」を守って正しく行動しろよ』
『火の海の真ん中でもですかっ!?』
『ったりめーだろ! 何のために避難訓練があると思ってんだ。こう言う時のためだろ』
『うう……。まぁ、そうですね。押さない、駆けない、喋らない。ですね』
『オマリー、掛布、新庄だろ』
『阪神ファンかよ!』
主人公は火の海の中、熱いツッコミをかまして、走り出した。燃え盛る炎に向かって猪突猛進、後先考えずに突っ込んだ。出口までほんの数メートルだと言うのに、主人公は構わず全力を出して走った。
「おい、そんなに全力で走ると--」
『うぅぅわ! 忘れてた!』
主人公は足が早い設定だったのだ。目の前にはラスボスの最終奥義により破壊されたであろう、玄関の扉が口を開けていた。
『アイ、キャン、フラーイ!』
主人公は飛んだ。
人間の跳躍をはるかに超えた、もはや鳥になったといった方が適切な程に。
何とか向こうのビルに飛び移れた。どう考えても重力を無視した跳躍であった事は言うまでもない。主人公はマンションの五階から向かいのビルの屋上へ飛び上がったのだ。
『うわぁ……。飛んだ本人が一番引くわ〜』
「まぁ、何にせよ」
『これで世界は平和になったんだろ』
「うん。そうなるな」
『じゃあ、主人公である俺から一つアドバイスをしてやろう』
主人公は真っ青な空の下、人差し指をついっと立てて言った。
『お前、ファンタジー向いてねーよ』
ファンタジー編、終了!
次回からはもっとグダグダします。