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作者、創造中!  作者: 闍梨
第一章 主人公と荒くれのファンタジー
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主人公誕生!

主人公と作者の会話は脳内の物です。良い子は真似しないでね。

 創作活動。

 それは、絵だったり、小説だったり、ゲームだったり、映像だったりする。

 創作には物語を構成する作者と、人を惹きつける何かを持った主人公が存在する。主人公は勇敢に魔王に立ち向かったり、自分の野望の為に努力したり、必死に物事に打ち込んだり、恋をしたり、人を助けたりする。

 総じて主人公というものは、格好良い物であり、誰しもの憧れの的であり、物語の中心であり、ヒーローなのだ。


 しかし、ここには創作に悩む一人の作者と、格好悪い怠惰な主人公がいた。



 作者は困惑していた。物語を書いては没にしていた作者は、今年で二十四になる。大学を卒業してから、特に有名でもない会社に入社し、日々の生活を送っていた。


「だー……めだー」


 大学ノートを一枚破り、それがまるで親のかたきであるかのように、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ投げる。ゴミ箱への着地を失敗した大学ノートは畳の上でカサカサと笑う。


「創作意欲、湧かねぇなー」


 作者は小説を書いて四年になるが、まだ完成した作品は無い。書き始めこそ、スラスラと小説を書いていた作者だったが、仕事に就くと同時に創作にあてる時間も少なくなっていた。しかし、金のかからない趣味として創作活動は続けていたのだ。


「何で、思うように動いてくれないんだよ。主人公」


 作者は『登場人物が一人歩きする』事に、頭を抱えていた。どんなに緻密なプロットを作っても、物語を上手く進められないのである。作者は非常に気まぐれな性格故に、この様なことが起こっていた。


「まあ、悩んでても仕方ない。取り敢えず、書いていくか」


 作者は物語のジャンルを『ファンタジー』とだけ決めて、プロットを作成した。



「取り敢えず……内容はこんな感じだろ」


 テンプレートではあるが、異世界に飛ばされた勇者が、囚われの姫を魔王の手から救い出す。と決め、作者は物語を執筆し始めた。


「よし、大体見えてきた。俺の理想!」


 勢いよく、テンポ良く、物語を進めていく為に内容を簡単にする作者はいきなり、壁にぶち当たった。


「さて、これから、主人公の壮大な旅が始まる!」


『うるせぇな! 行かねえったら行かねえ』


 作者の手が止まる。

 無意識に、主人公の台詞を書いていた。


『何で俺が自ら魔王におもむかなきゃなんねーわけ? 正直困るんだよ。何? 魔王? 異世界? 姫? ありませんからそんな世界』


 もう一度、自分で書いた文章を読み、作者は絶句する。自分はおかしくなってしまったと思い、心と瞼を懸命に閉じ、主人公の台詞を書く為に精神統一をする。


「落ち着け、カームダウン。大丈夫。もう大丈夫。きっと俺は疲れているんだ」


『笑わせんなよ。俺はなー、作者。お前のツマラネエ小説の主人公で収まる器じゃねーの分かる?』


 主人公は自分勝手に、作者に思いの丈を告げ、ふて寝を始めた。


「なんて自分勝手な主人公なんだ……。でも……」


 書きたい物を書く為に、俺は小説を書いているんだ。

 作者は心の中でそう呟いた。そして、作者は自分の思い描いているファンタジー作品を執筆し始めた。


『あんたも好きだなぁ。ファンタジー。なにがおもしれぇんだ。ファンタジーなんて頭ン中お花畑の人間じゃねぇと書けねえって』


「っるさいなー。主人公なんだから黙って姫を助けるんだよ。魔王をぶった斬るんだよ。ほら、行け」


『はぁぁー。メンドくせえー。俺はこっから動く気はねーかんな。あー疲れた。甘いモンでも食いながら、夕方の再放送ドラマでも見てえなーオイ』


 主人公は右腕を立てて枕を作り、自分の尻をボリボリとく。作者はがっくりと肩を落としながらも、物語を進めるべく執筆を続ける。


『ところでよぉ……作者。お前、本当に作者なんだよな?』


「何が言いたいんだ。間違いなく、お前は俺の作品の主人公だ」


『じゃあよ……』


 寝そべった姿勢のまま、主人公は十秒ほどの間を置いて言った。


『テレビ、出してくれよ』


「…………?」


 作者は頭にクエスチョンマークを出して考える。とはいえ、自分のキャラクターの考える事だ。すぐに主人公の考えが分かり、仕方なくテレビを出してやった。作者は小説の文章に脈絡無く『テレビ』を脳内に想像し、創造する。


『おー! すっげぇ! 最新型のプラズマじゃーねーか! 流石は作者だな。オイ!』


「ふふ、俺に出来ない事は、無いっ!」


『すげーすげー! いや、マジで。まぁ礼といっちゃあなんだが、お前の作品に付き合ってやらん事もないぞ』


 作者は頭を掻きながら、主人公に対して言う。


「本当か! これでやっと話が進められるのか! ありがとう主人公!」


『そんな言うなやい、照れるじゃねーの。しかし、ファンタジーにしちゃあ、こっちの世界は質素だな』


 作者は物語が進められるという、晴れやかな気持ちから一転し、主人公の言葉に不安を覚え、訊いた。


「なあ、そっちの世界……どんなだ?」


『真っ白だ。何もない。俺が居て、テレビがあるだけだ。なあ、作者。情景とか、表情とか、心象とか、あらゆる描写が甘いな。そうだなー。俺に自分の姿見せてくれよ』


 作者は自分の文章力の無さに愕然とした。

 そして、主人公に言われるまま『鏡』を想像し、創造する。主人公のもとに大きな一枚鏡が登場する。


『うわぁ! 何じゃこりゃあ!』


 主人公は驚きの声をあげる。


『お前、俺をどうしたいんだよ!』


 そう言った主人公の身体は色のないボンヤリとした鎧に身を包み、顔にもやがかかっていた。


『主人公の大体のデザインくらい想像しとけよ! こんなだから執筆四年目にして完結作品ゼロなんだろーが!』


「うう……」


『まぁ、しゃーねーか。よし、じゃあまずは俺のデザインからしてみな。そうだな、鼻は高くしてくれよ。あ、あと目はキリッとしてる方がイイな。髪は長すぎず、短すぎずだ。ゴリゴリマッチョじゃなく、シャープでしなやかな筋肉を希望する』


 作者は大学ノートに主人公のイメージを絵にしてみた。作者の頭の中に絵の通りの主人公が現れる。そして、主人公は作者に言う。


『お前……。何で今まで漫画を書かなかったんだよ!』


「画材とか、だるいじゃん?」


『おい……』


 主人公は肩を落としながら作者にツッコミを入れる。


『まぁ、いい。今日から俺が一緒に楽しい楽しいストーリーの主人公になってやる。俺はお前でお前は俺だが、細けーこたぁ気にするな! 俺にどーんと任せろ!』


「そりゃ頼もしいな。で、具体的にはどんなストーリーにしていくつもりなんだ?」


 主人公は腕を組み、少し考えてからキッパリと言った。


『それを考えるのが作者の仕事だろ!』


「そうですよねー」


 気まぐれで移り気で、天邪鬼あまのじゃくでB型で、何をするにも筋が立たない作者から生まれた主人公は、作者同様、頭を抱えるのだった。

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