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第三話「食事よりも睡眠」

サブタイトルに悩みます。そして結局は適当に…


※10/8修正。規則追加

 ユーリの通行料はコメルスが払い、一行は街に入った。


「さぁて、護衛はここまでねぇ。はい、これ証明書。いつもありがとねぇ。ユーリちゃんはこれからどうするのぉ?観光ぅ?」


 コメルスは依頼達成の証明書を両手剣を持った冒険者に渡しながら、そう問いかける。


「いえ。冒険者ギルドに行ってみようと思います」


「あら冒険者に興味がわいちゃったのぉ?冒険者はユーリちゃんみたいな女の子が楽しめるようなものじゃないわよぅ」


「お金を稼ぐのが一番簡単そうなので。それに旅をするつもりですし」


「確かにユーリちゃんは強いからそうだろうけどぉ…、まあいいわぁ。ちょっとあなたたちぃ。どうせこれから冒険者ギルドに行くんでしょ?ユーリちゃんを案内してあげなさい」


 コメルスに言われ、冒険者たちも否やはないので快く了承する。


「じゃあ私はここでお別れねぇ。ユーリちゃんにはこれもあげるから何かあったら、何もなくても私のところに訪ねてきていいからねぇ。じゃ、またねぇ~」


 コメルス商会の紋章と思われるものをユーリに押し付け、コメルスは嵐のように去っていった。ユーリは絶対に訪ねないと心に決めつつ、冒険者たちのほうへ振り返る。


「では、案内のほどよろしくお願いします」


「ああ。まかせろ」


 ぺこりとおじぎをした後、おすすめの店等を聞きながら冒険者たちの案内に身を任せ、冒険者ギルドへと向かった。











 20分ほど歩いたところで冒険者ギルドの前に着き、そこでユーリはお礼を言って冒険者たちと別れる。


 冒険者ギルドは二階建てで、日本の平均的な一戸建てより大きい。ユーリの想像より大きくて驚いたが、それよりも扉の横にある看板が気になった。看板には剣と槍が交差した絵が描かれており、その下に『ぼうけんしゃギルド ハシントしぶ』と書かれている。


(メモには漢字も使われていたはずだけど…)


 見慣れた文字、カタカナとひらがなは人の間でも用いられていることには安堵したが、漢字は用いられていないことが少し気になった。


(まあ、きっと識字率があまり高くないだけだろう)


 気にはなったものの深くは考えず、ユーリはさっさと中に入った。


 冒険者ギルドの中は、皆依頼を受けているせいか閑散としており、職員を除けば先ほど別れたばかりの冒険者と他数人しかいない。なので待ち時間もなくすんなりと受付にたどり着くことができた。


「冒険者登録をしたいのですが」


「登録ですね。ではこちらに必要事項を記入してください。代筆はいりますか?」


「いえ。大丈夫です」


 そう言って登録用紙とペンを受け取る。登録用紙は現代の紙より多少厚くザラついているが、書くときに引っ掛かりを覚えるほどではなく色も白い。ペンはまんま鉛筆の様相をしているが芯は黒鉛ではなく、まるでボールペンのようなインクと書き心地である。ポーチの件といい、この世界はやはり魔法によって独特の技術が発達しているようだ。


 そういえばこの建物の壁も石などではなくどこかコンクリートのようだったなと、ユーリはひとりごちる。そうやって、未知なるものに思いを馳せながらも登録用紙に必要事項を記入していく。


(名前は『ユーリ』。年齢は『21』。性別は『女』。種族は『精霊族』。出身地は飛ばして。戦闘スタイル?『魔法』っと…)


 必須なのはどうやら名前と年齢、性別と種族だけなようなので、分からないところなどは白紙にして出す。


「お願いします」


「はい。確認させてもらいます。…!?」


 受付の女性は種族の欄を見たときにびくりと肩を震わせたが、リアクションはそれだけにとどめて他の項目を確認してゆく。ユーリはそれを見て、自分が希少な精霊族と分かっても無闇に騒がない職員に好感を覚える。


(教育が行き届いているようで何より。それに漢字と算用数字も通じるようだ。やっぱり教養の差だな)


「……はい、結構です。ではユーリ様、続いて魔力登録をしますのでこちらとこのギルドカードに血を一滴ずついただけますか」


 そう言って、受付の女性は鈍色をした金属製のティッシュ箱のようなものを差し出した。その箱の上、ユーリから見て左側には銀で出来ているようなカードがはめ込まれており、右側は少し円形に凹んでいて中心にはルビーのような宝石がはめ込まれていた。どうやらその二つに血を垂らせば良いようだ。


 ユーリは受付の女性から針を借りて指先に刺し、それぞれに血を垂らす。するとカードが光り出………すこともなく、さっさと箱ごと回収される。これ見よがしに宝石があるというのにポーチの時とは違い実に味気ない。その様子にユーリは、ファンタジー分が足りない!と内心憤慨する。


「(精霊族にも血があるんだ…)はい、これで冒険者登録は終わりです。では登録料は500リセになります」


 一般に精霊族はいったいどんな生き物だと思われているのか。受付の女性が何やら失礼なことを考えていたことに気づくこともなく、ユーリは銀貨を5枚渡す。


「はい、確かに。では続いて規則についての説明ですが、ユーリ様は規則等の書かれた紙をお読みになりますか?それとも口頭で説明しましょうか?」


「紙でお願いします」


「はい、ではこちらです。質問があればいつでも言ってください。それとまだギルドカードができ上がらないので、今日はまだ依頼を受けることはできません。明日の朝にはできていますので、また明日来てください」


「分かりました。そうそう、近くに宿と雑貨などを売っている店はありますか?」


「はい。宿はここを出て右にまっすぐ10分くらい行ったところの『青のリンゴ亭』がおすすめです。あそこはきれいで料理も美味しいですよ。青色のリンゴの絵が目印です。あと、その通りにあるお店でだいたいのものは揃いますよ」


「ご丁寧にありがとうございます」


 軽く礼をしてユーリは冒険者ギルドを後にした。






 道中、改めて街の様子を見渡してみるとここが異世界という実感が増す。今歩いているような主要の道は石が敷いてあるが、裏路地は土がむき出しの状態だ。街の人は人間がほとんどだが、獣人もちらほら見えて活気もある。建物は木造のものが多いが石造りの教会などもあり、まさに中世のヨーロッパのようだ。


 宿屋に向かう途中ユーリは服や下着の代えや靴、ナイフや毛布といった旅や生活に必要そうなものを買った。結果、合計4500リセも使った。中古とはいえ懐中時計を買ったのが痛い。これだけで2000リセもかかった。


 ちなみに、この街では朝の6時から夜の9時まで3時間おきに鐘が鳴り、日本と違い時計は一般に必要ない。そのことをユーリはコメルスの話から聞いたのを覚えていたが、裏に施された鳥の彫刻に一目惚れし、衝動買いをしてしまった。貯金ができない典型的なパターンである。




 ほどなくして無事『青のリンゴ亭』に着いたユーリは、中に入ってカウンターにいるオヤジに声をかけた。


「宿泊したいのですが、部屋は空いていますか?」


「空いている。一泊500リセ。10日分先払いすれば4500リセだ」


「では10日分で」


 小金貨5枚を支払い、おつりに銀貨5枚もらう。


「部屋は2階。食事は別料金だが頼めばいつでも出してやる。裏手に井戸と桶があるから好きに使え。湯が欲しい場合は2リセだ。出て行くときは鍵をカウンターに預けろ」


「はい、わかりました」


 『203』と書かれた札の付いた鍵をもらい部屋に行く。部屋はビジネスホテルのシングルと同程度の広さで、簡素なベッドと小さな机とイスがあった。

 ユーリはローブを脱いでベッドの上に座り、ギルドの規則を読み始めた。その内容は。



1.冒険者は基本的に自己責任。個人間やパーティ間等のトラブルについて、ギルドは関与しない。


2.冒険者にはランクがあり、上からS、A、B、C、D、E、F、Gの8段階で、最初はGランクから始まる。


3.依頼は自分のランクの一つ上から一つ下まで受けることができる。また、複数の依頼を同時に受けることはできない。しかし、達成を証明できるならば受理可能。

例)依頼に『スライムの核を10個求む』『アカザ草を10株求む』というものがあり、それぞれを所持していた場合はカウンターにて受理される。


4.ランクを上げるには、自分より一つ上のランクを5回連続達成する必要がある。よって、同ランクを何回成功しても上げることはできない。


5.同ランク以下の依頼を3回連続失敗したら、ランクを一つ落とされる。また、明らかに失敗が多いとランクを落とされ、他にペナルティが課される場合がある。


6.依頼に失敗すると違約金が発生する。


7.パーティ結成に人数制限はないが、そのパーティの最高ランクから二つ下の者までしか組めない。


8.パーティとしてのランクと、個人のランクは別物である。パーティ結成時のランクはパーティ内の最高ランク者と同じものとなる。


9.パーティで依頼を達成しても、パーティランクは上がるが個人のランクは上がらない。


10.魔物討伐時の達成証明は、魔物の証明部位か魔力魂(まりょくこん)を提出する必要がある。


11.証明部位は売れないものもあるが、魔力魂は必ず買い取ってくれる。魔力魂の買取値は下級の魔物だと10リセ程度だが、ドラゴンだと最低でも10万リセ。


12.魔力魂を回収するための宿魂石(しゅくこんせき)は、ギルドで一つ100リセで売っている。また宿魂石の魔力魂は売る時に回収されるので、壊れるまで再利用可能である。


13.ギルド登録者は魔力魂をギルド以外に売ってはならない。


14.ギルドカードを提示すれば、ギルドのある街や村では通行税が免除される。


15.ギルド登録後、必ず1年に一回更新しなければギルドカードは無効となる。(更新料は500リセ)


16.ギルドカード紛失時の再発行は1000リセかかる。




 規則を読み終え、ふと時計を見てみると針は4時17分を指していた。晩御飯には早いが、こちらに来てから何も口にしていないことに思い至ったユーリは、何かつまみに行こうかと腰を上げる。


(…?)


 しかし、立ち上がって部屋を出ようとしたところで違和感がよぎる。


(…食欲はある。けれどお腹が空いているわけでもなく、積極的に何か食べたいとは思わない。こちらに来てから結構時間が経っているのに?)


 大きくなった違和感は疑問へと変わっていく。


(尿意も全くないし、汗をかいた覚えもない。体も疲れていない。当然眠気もない。そういえばコメルスが、精霊族は魔力だけで生きていけると言っていたような…。ではこの体は全部魔力で構成されている?だとしたら、維持のために常に魔法を使って生きているということか?なら食事や睡眠は必要ない?なんだこの不思議生命体…)


 自分のことを詳しく知りたくなったユーリは、階下に降りてオヤジに図書館はないかと尋ねる。あるが6時に締まるとの事。場所を聞いて若干急いで図書館に向かった。


 しかし、入館料に200リセ支払ったのにも関わらず、コメルスから聞いた以上の情報がほとんど得られなかった。確実に分かったのは、睡眠か特殊な薬などで魔力が回復するということだけだった。


(…まあ、便利な体になったということだ。飲食は完全に趣味になるな)


 下手な考え休むに似たり。どうも科学的常識は少々捨てたほうが良いようだ。ユーリは深く考えないようにした。


閑話休題。


 起きていてもすることがないのでユーリはさっさと寝ることにした。

 念の為に誰かが部屋に入ったら音が鳴るような魔法をかけておき、魔法で体と服を洗った。そして寝巻きに着替えて布団に潜る。


 目をつむると今日のことが次々と思い起こされる。


 初めて魔法を使ったときのこと。中世ヨーロッパのような街並み。入館時にお金を渡したとき手を握られたて気持ち悪かったこと。大学からの帰り道、日本で最後に見た風景。小柄で可愛らしかった冒険者ギルド受付の女性。馬車ではこちらをチラチラと見るが話しかけては来なかった3人の冒険者。アホっぽい女の声。そして…。


(なんでそのなりでオネエ系なんだよ!!!)


 本当に今更だが、ユーリは精一杯のツッコミを心の中で叫ぶ。

 その叫びは誰にも聞こえることなく、ユーリの異世界生活一日目が終わる。


ヒロイン登場はまだ遠し

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