第一話「こっくりさん」
夕璃が玄関のドアを開けると、目の前に少女が立っていた。
まるで見覚えの無い顔だった。
長い黒髪を紅い髪紐で結び、髪紐と同じくらい紅い着物を着ていた。かなり前時代的な服装だった。
夕璃は驚き、思わずドアを閉めてしまった。深呼吸をした後、もう一度ゆっくりと開く。
少女は間違いなくそこにいた。
戸惑う夕璃に少女は優しく微笑かけ、こう言った。
「はじめまして。僕は紅家十五代目当主候補の紅雛葉。別に怖がることは無いよ?君はもうすぐ僕の"従者"になるんだから」
「え?」
何を言っているのか理解できずきょとんとしている夕璃を尻目に雛葉はなおもしゃべり続ける。
「大丈夫だよ。危なくないから。君は僕に少しだけ協力してくれればいいんだ。さぁ、早く行こう」
雛葉は夕璃の手をひいて、どこかへ連れていこうとしていた。
「ちょっと待ってよ」
あまりにも人を無視する態度に夕璃は怒り、雛葉の手を振り払った。
「私にはこれから行くところがあるんだから。あなたみたいな人に付き合っているひまは無いの」
夕璃は自転車の鍵を開け、カバンを篭に入れる。ヘルメットをかぶり、スタンドを上げ、自転車を前に出す。
その前に雛葉が立ちふさがる。
「これは君にしかできないことなんだ。お願い、協力して」
「しつこいよ。私は部活に行かなくちゃ」
雛葉は少し考えるような仕草をした。
「そうだね…どうせまたすぐ会えるし」
そう言うと、雛葉はようやく諦めたようで、どこかへと去っていった。
去り際の言葉が気になりつつも、夕璃は全力で自転車を漕いだ。