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最強魔導士の星婚《ステラリガーレ》~異世界から召喚された勇者に恋人を奪われた上にパーティーを追放されたけど、英雄エルフを嫁にしたら最強超えて究極になった~  作者: 源朝浪
第一部・第四章 それは世界を紡ぐ我らが賜る星の祝福

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第五十一話 魂の邂逅/sideウィルテイシア

 ふと目を覚ます。


 体は水に浮いているような、それでいて沈んでいくような。奇妙な感覚に包まれていた。


 不思議な空間。


 どこまでも真っ白で。距離感なんて掴めないはずなのに、どこまでも広がって、続いているのが、何となくわかる。


「ここは……、いったい……」


 直前のことを思い起こす。


 先ほどまで何をしていたのか。何があって私は意識を失い。そうしてこの場所で目を覚ましたのかを。


「そうか、私は……」


 死んだのだ。


 勇者の魅了にかかって、ライオットを攻撃しようとして。


 それを止めるために勝手に動く身体を必死に止めようともがき、そして、そのまま……。


「胸の傷は……、ないな……」


 自分で貫いたはずの胸部の傷がない。綺麗(きれい)なままの胸。


「ここは、どこなんだ?」


 ふと気付くと、ライオットがすぐ目の前にいた。


「……ライオット?」


 先ほどまでの戦闘でボロボロだったはずのライオットも、今は傷一つなく。衣服にも切れた後は見られない。


「――っ!? ウィルテイシア!」


 私の存在に気付くと、彼は一気に。どうやってそれができたのかわからないが。こちらに駆け寄って来て。そのまま、私を抱きしめる。


「ちょ、ライオット!? そんな、急に……」


 何がどうなっているのかわからない。でも、こうしてライオットに抱かれているのは、感覚としては悪くなく。ついつい、彼の厚い胸板に甘えてしまった。


「よかった。ちゃんと、元のウィルテイシアだ!」


 彼はそれを心から喜んでくれている。それだけ、先ほどの光景が。彼にとっては耐え難かったのだろう。


「すまない、ライオット……。私が不甲斐ないばかりに……」

「いや! いいんだ! こうして君が、俺のことを抱きしめ返してくれるなら!」


 (つか)()


 私たちは再会を喜ぶ。


 しかし、いつまでもこうしていても、頬が緩むだけで埒が明かない。


「ところで、ライオット。ここは、どこだと思う?」


 すると、彼は少しだけ逡巡してから、意外な言葉を口にする。


「ここは、たぶん星の胎内(たいない)だ……」

「星の……、胎内(たいない)?」


 彼の話によると、私が自らを刺し貫いたあと。彼は、私の後を追って、自らの胸を貫いたのだと言う。


 それだけでも衝撃的だったが、彼はそのあと、更に衝撃的な事態に遭遇したというのだ。


二柱(ふたはしら)の神に、会った……のか?」


 人の()たる神『ヒュムシス』と、エルフの()たる神『エルフィオーラ』。


 ライオットは、この二柱(ふたはしら)の神に、ある話を聞いたのだと言う。その内容というのが――。


「……私と貴方(あなた)で、世界を変える?」

「そうだ。俺の星痕(ステラインデクス)と、君の星痕(ステラインデクス)。二つの力を掛け合わせて、星婚(ステラリガーレ)を発動すれば。世界を飛び越えて――。時の流れを逆巻(さかま)いて、君が死んでしまう前の時間に戻れるって!」

「……時を逆巻(さかま)く。そんなことが、本当に可能なのか?」


 もしそれが本当なら。今すぐにでもそうしたい。


 私と彼の力を合わせて、二人で時を遡れば。きっと別の未来に辿り着くことだってできよう。しかし――。


「帰れるのは、一人だけだって……。だから、片方はここに残ることになる……」


 それは、何という……。


 何という辛い選択。


(それを、神々は迫ったと言うのか。他でもない、私と彼に……)


 でも、それでも。


 時を(さかのぼ)った方が未来を変えれば、その先で二人は幸せに近づくことができる。


 では、どうすればいいのか。答えは、一つしかない。


「ならば私は、貴方(あなた)に全てを託す――」


 私は、自身の決意を彼へ告げた。


「だから頼む、ライオット。私を――。過去のウィルテイシア(わたし)を救ってやってくれ!」


 それは心からの願い。


 例え、この私でなくても。どこかのウィルテイシア(わたし)が、ライオットと結ばれるのなら。


 私は、喜んで。(じぶん)を諦めよう。


「おい、何言ってるんだよ……。別に残るなら俺の方だって――」

「それではダメだ、ライオット。貴方(あなた)なら、わかるだろ?」


 魅了による精神支配に耐えられるのは、彼だけだ。私が戻ったところで、結果は変えられない。


「それは! でもそれじゃあ……」

「いいんだ、ライオット。貴方(あなた)が戻れば、(さかのぼ)った先の時間で、私を救うことができる。そうだろう?」

「それは、そうかもしれないけど……」


 たぶん、彼も薄々わかっているのだろう。


 神々が言った、「どちらかが残ることになる」という言葉の意味を。


「で、でも、ウィルテイシア、それは――」

「くどいぞ!」


 彼の驚いたような顔。


 でも、彼の。私を想ってくれるその姿が、どうしても愛おしくて。


 だからこそ、ここで立ち止まって欲しくない。


「いいんだ。私は愚かにも勇者の魅了に負けて……。貴方(あなた)を、貴方(あなた)の心を傷つけた……」


 思い起こすだけで、不甲斐ない自分自身に虫唾が走る。


「ほんのわずかな時間だったとは言え、貴方あなたよりもあの下種(げす)の言葉に従ってしまうなど、この上ない屈辱だ!」


 あの瞬間の私は。本気で、どうしようもなく真っ直ぐに。勇者の言葉を受け入れてしまった。それが、どうしても許せなくて。苛立たしくて。悔やまれる。


 思い知らされた。どんなに身体(からだ)と精神を鍛えようと。神秘の前には無力なのだと言うことを。


 私は昔も今も弱いままで。自分のことすら、まともに守れない。


 そんな弱い自分と決別したくて。自分自身を罰しようとして。声を上げる。


「だから、私を想う気持ちがまだあるなら! 私を愛してくれているのなら! 私の代わりに、この私の罪の(つぐな)いをさせてくれ!」


 私の覚悟。私の願い。


 神がくれた、この無限に続く一瞬の中で。私は。


 彼に望みを託した。


「頼む……」


 永遠とも取れるほどの、ほんのわずかの


 彼は、顔をしかめ、手をわなわなと震わせえながら。


「……わかった」


 そう、首を縦に振る。


「でも君を見捨てる訳じゃない。星婚(ステラリガーレ)が世界の在り方を変えるって言うのなら、ここにいる君だって、いつか。絶対に――」


 瞬間。彼と私の星痕(ステラインデクス)が発光し、彼の姿が揺らいだ。


 恐らく、彼の時の逆行(ぎゃっこう)が始まったのだろう。


「ライオット!」


 思わずその名を呼んでしまった。


 呼ばずにはいられない。


「待っててくれ、ウィルテイシア! 別世界の君を救って、いつかの未来に、君の望み通り世界を救い終わったら! その時は、きっと、その先で!」


 彼の姿は、もうほとんど見えない。それでも、彼はずっと私を抱きしめてくれている。


 その事実が嬉しくて、悲しくて……。


 私は静かに、涙した。


「ここにいる君を、必ず迎えに――」


 彼の姿が、完全に消えてしまう。


 もう、声は聞こえないし。姿も見えない。においも、熱も。何一つ残っていない。


 彼は行ってしまった。


 別の時間軸。別の世界へ。


 私が魅了にかかる前の、全てを変えられる、あの瞬間へと。


「ライオット……。私の、運命の旦那様……」


 結局、結婚まではできなかった。


 自分の想いはたくさん伝えたし、彼もそれとなく伝えてくれていたが。


 もう、その続きは訪れない。


 それはもう紡がれることのない物語。


 どうしようもない、旅の終わり。


 だから――。


「なぁ、別の世界の私……」


 私はウィルテイシア(わたし)に語り掛けるように、言葉を紡ぐ。


「こことは別の世界の、こことは違う時間を生きる私。どうか貴女(あなた)に――」


 この世界の私という物語は。ここで終わる。


 長かった。本当に長くて、退屈で。


 険しく、苦しい人生だった。


 辛いことの方が多いの生涯だったが、それは過ぎたこと。


 人生の最終局面で、最後にあの人に会えたのだから。それ以上を望むなど、烏滸(おこ)がましいと言うものだ。


「私ではたどり着けなかった貴女(あなた)の未来に、どうか。星々の祝福があらんことを……」


 祈る。ただひたすらに。


 神はいたのだし、星婚(ステラリガーレ)も実在した。


 ならば、ここで祈ることこそ。私にできる。唯一のこと。


 それくらいしか、もう私にはできないから。


「でも……。何で……」


 もう彼は行ってしまったから。


 この場には、もう私しかいないから。


 だから最後くらい、自分の心に素直になってもよいのではないかと。


「……じゃないんだ」


 声が上手く出せない。


 それでも、ここで言わない訳にはいかない。


 目いっぱい声を張り上げて、叫ぶ。


「どうして、私じゃなかったんだ!」


 私ではなかった!


 私は救って貰えない!


 私だって、彼に救って欲しかったのに!


 私だって、彼とともに歩み、ともに未来を――!


「何で! どうして! 何故、私が選ばれた!」


 運命は私を選んだ。他でもない、私を。


 どうしようもない宿命(さだめ)に。


 いつかの時間。どこかの世界に生きる。


 まだ生きている私に。


 その先の未来を歩んでもらうための、尊い犠牲。


 何だ、そんなもの。


「……何が尊い犠牲だ! 私だってウィルテイシアなんだぞ? 私が救われる側でもよかったじゃないか!」


 多くの世界。多くの可能性がある中で。その中のたった一つに。私が――。


 『彼とともに歩めない世界の私』に選ばれてしまったから。


 だから、託すしかない。


 私がどんなの悔しくても。


 どんなに惨めで、哀れで 救いがなかったとしても……。


 他の世界の私に、チャンスを与えるために……。


「そんな風に割り切れるものか! そんな、私じゃない私に、未来を……。彼と歩めるはずの幸せな未来を譲るなど!」


 でも、もう彼は行ってしまって。


 ここには私しか残されていないから……。


「ライオット……。ライオット!」


 私を助けてくれ! 私を救ってくれ! どうか、私を……。お願いだ……。


「他の(だれか)じゃない! 今この場にいる、このウィルテイシア(わたし)を――! 今すぐ抱きしめに来てくれ……、ライオット……」


 それでも声は届かない。


 彼が救うのは、この私ではなく。別の世界の(ウィルテイシア)だから。


「こんなのって、こんなことって――」


 嗚咽は止まらない。


 いつまで経っても。どこまで行っても。


 ここは星の胎内(たいない)で。時の狭間(はざま)。世界が見る一瞬の夢であり。永遠の走馬灯。


 私はここから逃れられない。


 だから、私は――。


 いつまでも、どこまでも。


 子どものように声を張り上げて。泣きじゃくりながら。


 愛しい人の名を、ただひたすらに呼び。


 ただ、声を上げ続けた。


 …………………


 ……………


 ………


 …

読んでいただきありがとうございます。


このエピソード良かったよ!という方は☆評価、ブクマ、いいねなどよろしくお願いします。また、誤字脱字などあればいつでもご報告くださいませ。

感想、レビューなどあると今後の執筆の励みになりますので、どしどしお送りください。

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