#3 November Rain
十一月二十五日(火)
今日は、一日中、雨だった。穂乃花が学校を休んだというので、放課後、様子を見に行った。インターフォンを押しても誰も出なかった。帰ろうかと迷っていると、スマホにメッセージがきた。
『鍵はあいているから、入ってきて』
室内は照明がつけられておらず、暗かった。お邪魔しますと声をかけても、返事はなかった。僕は、穂乃花の部屋に足を踏み入れた。
カーテンの隙間からの弱い自然光だけが頼りだった。彼女は、ベッドの上に、膝を立てて座っていた。パンツ一枚の裸だった。髪はひどく乱れていて、その下の白い乳房が薄暗い部屋の中で、ぼんやりと浮かびあがっていた。
彼女と目が合った。その瞳も暗く、墨で塗りつぶしたかのようだった。
「君はだれ? サヤか?」僕は尋ねた。
「ちがう。わたしは、シーユエ。中国からきた」
置いてあったレシートの裏に名前を書いてくれた。
" 詩玥 "
まだ知らない人格がいたとは、驚いた。それとも、最近、分裂したのだろうか。
「中国のどこ出身なの?」
「上海」
「中国語は話せる?」
「あたりまえじゃない」
彼女はにやりと笑って、中国語でなにか言った。『あなたはイケメンです』という中国語を言ったらしいが、本当は侮辱の言葉を言ったにちがいない。穂乃花はいつ中国語を勉強したのだろうか。
これから仲良くしようと、僕は手を差し出した。しかし、シーユエは握手にはこたえずに、そっぽをむいた。
「男には触りたくない。男は嫌いなの」
彼女が話す日本語には、中国人独特のイントネーションがあった。
「どうして今をまで姿を表さなかったの?」僕は聞いた。
「逆にどうして、あなたに会わなければならなかったの? あなたに興味がないよ」
「それは残念だ。まさか、" スポットライト "に出てきていない子は、まだ他にいやしないだろうね」
「あなたの前で、" スポット " に出ない子は、あと二人いる」
衝撃だった。僕は、穂乃花の心をまったく理解していなかったのだ。
僕の悲しそうな表情を見て、シーユエは笑った。悪魔のような笑い方だった。
「あなた、自惚れてんじゃないの。穂乃花があなたに対して、すべてをさらけ出しているとでも? せいぜい、いつもの恋愛ゴッコを楽しんでいればいなさいよ!」
なんていうことだろう。僕の心は、真っ暗な穴の中に落ちてゆくようだった。僕は、ぜんぜん穂乃花を癒せていないのか。彼女は僕を信頼していないのか。
ああ、僕のかわいい恋人よ!
でも、でも、僕は決して穂乃花から離れたりしない。あきらめない。
必ず、穂乃花を救い出してみせる。何年かかっても、かまわない。いつか、二人が心の底から笑い合える日がくるまで。この激しい雨がやむまで、僕は君に傘を差し出し続ける。だから、そんなに自分を傷つけないで。
僕の幸せは、君の幸せ。君は、僕のすべて。
穂乃花、僕は君を愛してる。




