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#1 Sweet Child of Mine

十月二十三日(木)

 今日は、放課後の委員会のミーティングが思いのほか延びてしまって、急いで学校を出た。全力でペダルをこいで、穂乃花の学校に向かった。穂乃花は、校門で待ってくれていた。僕のすがたを認めるなり彼女の顔はほころんで、その表情はたまらなく可愛かった。

 僕らは、並んで自転車をこいだ。秋風が、穂乃花の黒く長い髪をやさしくなでた。

 ○○駅のスタバまで行って、新作のフラペチーノを飲んだ。それは栗味のフラペチーノで、穂乃花は栗のスイーツに目がないのだ。飲む前には写真を撮らされた。カップを持つ手をちゃんと見せてというご要望つきで。僕の男らしくゴツゴツした手が好きだと、穂乃花はよく言ってくれる。めんどくさいなと思いながらも、写真を満足げにニマニマ笑って見ている穂乃花の姿は、表現しえないほど、愛らしかった。まわりにいた他の客たちにむかって、この子が僕の恋人なのだと大声で自慢してやりたいほどだった。

 こんな幸せな放課後が、あたりまえでないことはわかっているつもりだ。この上なく、贅沢なものだ。同じクラスの山田に今日のことを話したら、きっと奴は歯噛みして僕を罵倒するに違いない。しかし、山田には感謝せねばなるまい。奴が僕らの恋を焚きつけてくれなかったなら、幼馴染だからといって油断してはいけないと言わなかったならば、僕と穂乃花はあいまいな関係のままでいたであろうから。

 これからも穂乃花と楽しく一緒にいられれば、あとはもう、なにもいらない。



十月二十四日(金)

 今日も、穂乃花を家まで送り届けて帰ろうとすると、おばさんにひきとめられて、お手製のチーズケーキをご馳走になる。三人でテーブルに座って、紅茶をすすりながらテレビを見た。穂乃花が好きな俳優がでていた番組を見た。つい嫉妬してしまうけれど、なるほど、彼の顔面のきれいさには到底太刀打ちできそうにない。

 穂乃花は、家庭科の授業で裁縫の練習につくったお手玉を持ち帰ってきていた。彼女はそれを、仏壇の上にそっと、置いた。



十月二十九日(水)

 今日は、ゆのと帰った。そのまま図書館へいって、二人でお勉強。

 中間テストを終えたばかりで、なんで勉強なんかとぼやいていると、日頃から少しずつ覚えていかなければダメと、彼女は言った。僕のテストの点数の低さをちゃかされてしまった。

 ゆのは、文学少女らしく文系科目が得意。僕は理系が得意で、お互いに弱点を教え合う。図書館は静かすぎてあまり好きではないけれど、こういうときばかりは好都合だ。小さな声で教えるという名目で、ゆのに近づくことができるから。

 彼女のやさしいにおいが、そっと僕を包み込む。彼女のきれいな髪の毛先が、僕の頬をくすぐってくる。あぁ、この時間がいつまでも続けばいいのに!

 ゆのも、まんざらではないようだった。彼女の耳の色が、熟れた桃のようになっていた。

 ペンを動かす手をとめて、休憩がてら本棚の林を歩く。ゆのは、気ままに本をぬいては眺めていた。「どれも読みたくなっちゃう」ゆのは言った。

 ゆのは本好きであるけれども、読むスピードは遅かった。一冊の本を時間をかけて、ていねいに読んでゆく。ぼくたちは、世の中にあるすべての本を読むことはできない。

 奥の方の、ひとけのない棚の陰で、僕らは短いキスをした。

 彼女の方から、顔を近づけてきた。見かけによらず、なかなか情熱的なのだ。

 そのあとの勉強は、あまり捗らなかった。



十月三十日(木)

 今日の放課後は、なつきと一緒だった。彼女の要望で、バッティングセンターにいった。

 なつきは、髪を結いシャツを腕まくりして、バットを握った。120km/hをこえる球を次々と打ち返していく。女子では、なかなかのものだろう。

 なつきは体を動かすのが好きで、運動神経がよい。いったい、その力がどこから湧いてくるのか、不思議でならない。

 僕らは打つのに疲れて、プラスチックの青いベンチに座ってジュースを飲んだ。なつきと話すのは楽しい。彼女はよく冗談をとばし、そして、よく笑う。なつきの快活な声が響いて、あたりの男たちを振り返らせた。

 バッティングセンターを出ると、空はきれいな夕焼けだった。なつきはその美しさに長い間、見惚れていた。彼女の瞳に夕陽が輝いて、どんな宝石よりも美しかった。

 なつきはボーイッシュな女の子だけれど、心の中に繊細でロマンチックなところがある。そこが、僕は大好きだった。そんな彼女のかわいい姿を見ていると、僕はたまらなくなってしまう!

 なつきは僕の大切な女の子であり、男友達のようでもある。他の子といるのも、楽しいけれど、やっぱり、なつきは魅力的な子だ。



十一月四日(火) 

 HRが終わって帰り支度をしていると、スマホにメッセージが送られてきた。

『あなたの学校の屋上にいるから来て  カリナ』

 屋上に出る扉の鍵はなぜか以前から開いたままになっていて、ごく一部の生徒だけがそのことを知っていた。なぜ他校の生徒である彼女が知っているのかは、知らない。下校する生徒たちの流れに逆らって、僕はのろのろと階段をのぼっていった。待っているのがカリナだと思うと、あまり気が進まない。

 彼女は屋上の柵にもたれてカフェオレを飲んでいた。

 よくこの学校に入ってこれたな、と僕。ウチの学校は今日、五限で終わりだったの、とカリナ。

 彼女はジャージ姿だった。だから怪しまれずに入ってこれたのかもしれなかった。

 (以下、記録のために彼女との会話をくわしく記しておく)

カリナ「あんまり眺めがよくないね。床も砂だらけで汚いし」

僕「アニメのようにはいかないさ。とりあえず帰ろうや。体育がマラソンだったんで、疲れちまった」

カ「つれないな。あんた、煙草もってない?」

僕「持ってるわけないじゃないか」

カ「つかえな。私の学校の男子たちはもってるよ」

僕「煙草なんて吸うなよ。体に悪いじゃないか」

カ「いいでしょ、私の体なんだから。なに、文句あんの。そんな顔で睨まないでよ!」

僕「睨んでなんかない。心配なんだよ」

カ「どうして私には冷たいわけ?なつきやゆのに対する態度とは違うみたいね。私に、もっと優しくしてよ!」

僕「ごめん、カリナも好きだよ」

カ「"も"ってなんだよ!死ね!」

僕「ごめん。 、、、ほら、ここは寒いから、スタバでもいかないか?」

カ「スタバなんて嫌だ。あそこは、コーヒーがまずいもの」

 正直、カリナとの接し方がわからない。でも、僕は、彼女と向き合わなければならない。離れるわけにはいかない、決して。

 彼女は、ここから飛び降りると言い出した。校舎の下では、下校する生徒たちや部活の準備をしている運動部員でにぎわっていた。

 「私が内臓をぶちまけて、楽しそうなアイツらを驚かせてやる」

 カリナは乱れた髪を耳にかけて、言った。

 僕は慰めの言葉をかけながら、にじり寄って、彼女を抱きしめた。カリナはわんわん泣いた。屋上にいることがバレやしないかと冷や冷やしながら、僕は頭をやさしく撫でた。 

 もっと、カリナのことが知りたい。もっと、カリナと仲良くなりたい。



十一月九日(日)

 今日は、穂乃花の家にいった。おばさんに頼まれて、あいりの面倒をみる。おばさんは、外せない仕事だそうだ。着いてそうそうオママゴトに付き合わされる。

 昼飯には宅配のピザを頼んで二人で食べた。その後は、プリキュアの鑑賞会。ちゃんとみてみると、なかなか面白い。

 だんだんと、あいりがウトウトし始めたので、リビングにそのまま寝かしつける。そのうちに、穂乃花の部屋を片付けることにした。彼女の部屋はいつも散らかっている。ゴミを捨てて物を整理していると、部屋に見覚えのない箱があることに気がついた。中身が気になった。いくら幼馴染で恋人だからといって、そこまで見てはいけないと僕の理性が言う。でも、ダメだった。

 箱を開けて、僕は後悔した。あぁ、クソと思った。

 それは、数本のディルドだった。それも、普通のヤツではない、かなり "ハード "なヤツだった。ゴツゴツした悪魔の指のような太い双頭ディルド。ベルトで腰に巻いて、男のようにおっ立てるタイプ。こんなもの見たくなかった。

 これは、穂乃花の趣味なのか? それとも、、、




(或る週刊誌の記事より引用)

○○市一家殺人事件 犯人いまだ捕まらず

 この凶悪な事件から、未解決のまま七年の歳月が過ぎようとしている。○○県○○市の住宅で××××年十二月に、石塚さん一家が何者かによって殺害された。被害をうけたのは、石塚孝行さん(当時42)、妻の聡子さん(39)、長男の大翔さん(12)。長女(9)は重症の怪我を負わされたが、一命をとりとめた。

 長女の証言によると、犯人は覆面をした大柄の男で、刃渡り30cmほどの刃物を持っていたという。

 親族と犯罪被害者団体はビラ配りやSNSなどで情報提供を求めているが、捜査に進展は見られずに、時はただ無常に流れてゆくばかりである。


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