ミシシッピアカミミガメ
俺はミシシッピアカミミガメだ。
ミシシッピアカミミガメは、ペットとして最も代表的な亀といえるだろう。ゼニガメ?イシガメ?相手にならないな。なんといってもこの真っ赤なほっぺが、他の亀達とは一線を画す可愛さを担っている。
リクガメ?一時期ブームが来ていたようだが、あんなのを個人で飼育できる人間など限られているだろう⋯寿命も馬鹿みたいに長い上、とんでもなくデカくなるんだ。
それに比べ、ミシシッピアカミミガメは手がかからない。確かにドン引きする程度に大きくなる事もある。だが、生命力が尋常じゃないので、殆ど放置でも餌さえ貰えれば充分だ。初心者にも飼いやすい品種だと言えるだろう。
やはり亀を飼うなら、ミシシッピアカミミガメが、最良の選択肢だと自負している。
出身地か…生まれはよくわからない。気がつけばペットショップで飼育されていたからな。名前にミシシッピとついてるから恐らくアメリカの何処かだろう。
おっと。そろそろお腹が空いてきたので、
獲物を探しに行かなければな…
「おー!今日はここにいたのかレックス!」
違う。ミシシッピアカミミガメだ。
勝手に変な名前を付けるな
「腹減ってねぇか?ほらザリガニやるよ!」
…余計なお世話だと言いたいところだが、
重い甲羅を持ち上げながら走るのは中々に面倒だ。
ありがたく頂戴しよう。
「美味いか?お前の大好物だもんな!」
この少年が言うように、ザリガニは俺の好物だ。
何故だかここに呼び出された時、アメリカザリガニ達も一緒に来たようで、今は川辺に大量発生している。奴らが何を食しているかは知らないが、とてつもない繁殖力だ。
「やっぱカメは可愛いよなぁ」
ミシシッピアカミミガメだ。
亀などと一括りにしないで欲しいものだな。
「俺も小さい頃飼ってたんだよ」
それはミシシッピアカミミガメか?そうじゃなければ話にならないな。どうせゼニガメ辺りなんだろう?
「まぁ、元の世界での話だけど…」
この少年とは、こうして顔を合わせる日々が続いていた。たまに持ち上げられ、川から陸へと移動させられるのが面倒だが、特に危害を加えられるわけでもないので、そこまで気にはならないが。
「なぁ、レックス…やっぱり行くしかねぇかな」
ミシシッピアカミミガメだ。レックスではない。この少年はここに来る途中で、仲間を全員失ってしまったらしい。
初対面の頃、川で泳いでいた俺を見つけるやいなや、無理やり捕まえた後、数時間もの間拘束しつつ、メソメソと身の上話に付き合わせてきた。
「ここでずっと…お前と一緒にいるのも悪くないかもな…」
ほう?その選択肢はどうかと思うがな
ミシシッピアカミミガメの寿命は長くても30年程だ。その後の孤独に耐えられるだろうか?まぁ、餌をくれるのであれば俺は構わないぞ。
「悪りぃ。やっぱ行くわ!レックス。終わったら迎えに来るよ」
ミシシッピアカミミガメだ。レックスでは無い。
なにやら覚悟の決まった顔をしているな。
「一応、ザリガニたくさん捕まえてきたから。これで生き延びてくれよ」
こんなに貰っても食べきれるかな…
正直言って余計なお世話だ。アメリカザリガニなど、そこらに腐る程いるのだから。しかし、ありがたく頂戴しようではないか。
少年は白銀に輝く装備を身につけると、胸を張り扉の奥へと歩いていった。その背中は逞しくも、寂しそうも見える。
俺はミシシッピアカミミガメ。
異世界ダンジョンの最下層。つまり、魔王城へ繋がる扉の前、その横に流れる川で細々と暮らしている。




