牡牛座のおはなし
その仔牛は、1頭だけ毛並みが白かったのです。
父は立派な赤毛、母は美しい黒髪。兄弟たちもそのどちらかを受け継いでいました。
―あいつはうちの仔じゃない
誰かの声が聞こえて、仔牛はおうちを飛び出しました。
沢の手前でぶつかりそうになったカニが怒ってハサミを振り上げました。
仔牛は慌てて方向を変えて逃げ出します。
逃げ込んだ森では、ヘビが「ここは俺の家だ」と頭をもたげて威嚇しました。
その先の海からは、2本の角がにょっきり生えて、何者かがじっとこちらをうかがっています。
おそれをなして逃げ出した仔牛は、もう自分がどこにいるのかわからなくなっていました。
見たことのないこわいものばかり目に入り、思わず目をつむって駆け続けた仔牛は、うっかり狩人の前に飛び出してしまったのです。
巨人の血を引く狩人はびくともせず、逆に仔牛が大地に倒れ伏しました。
「立派で美しい」と狩人は素直に褒めました。
白く美しい毛皮や長い角は、きっと重宝されることでしょう。
仔牛はそれを聞いて、ここで休むことにしました。体を丸めてそのまま大きな岩になったのです。
狩人は残った皮をまとい、角で笛を作ると岩に腰掛けました。
まるであつらえたようにぴったりでした。
残念ながら狩人には楽の才はなかったので、草原にはぴー、ぷーと間の抜けた角笛の音が響きます。
それでも仔牛はその音色がある限り、満足してそこで休み続けるでしょう。
仔牛が駆けた道筋は、草が踏み散らされ、小石が飛び散りくっきりと跡が残りました。
空をぐるっと、導星から一番大回り。
季節が良ければその先で、うたたねしている仔牛を見つけることができるかもしれません。




